2003年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

2002年5月吉日
中小企業家同友会全国協議会 会長 赤石義博

日本経済再生のための行動計画の提言と私達の基本姿勢

 私ども中小企業家同友会全国協議会[略称・中同協]は、1969年(昭和44年)設立以来、自助努力による経営の安定・発展と、中小企業をとりまく経営環境を是正することに努め、1973年(昭和48年)以降毎年、国の政策に対する要望・提言を、政府各機関とすべての政党および国会議員にお伝えし、懇談を積み重ねて参りました。

 日本経済は、史上第2位の倒産件数や金融不安の高まりなど危機的様相を呈し、景気後退の中で中小企業経営はこれまで以上に厳しい局面を迎えています。政府が進める「構造改革」政策、不良債権早期処理は、結果としてデフレを加速するデフレ政策になっています。いま、景気回復局面の中で不良債権処理を進めるソフトランディング政策が求められています。

 この10年間程で欧米の先進諸国は経済社会における中小企業の果たす役割を的確に評価して中小企業重視へと経済政策の政策転換を行っています。わが国では1999年に中小企業基本法が改正されたにもかかわらず未だ政策転換は遅れています。中小企業政策は、ベンチャー企業の育成や創業だけにとどまらず、健全な企業家精神を持つ中小企業の「経営革新」等の自主的経営努力を着実に実らせるために、現実的かつ適切にバックアップすることに力を入れなければなりません。私たちは、中小企業経営を守る政策対応を強く要望するとともに、産業政策の柱として中小企業の重要な役割を積極的に評価し、中小企業重視へと抜本的に姿勢転換させることを提言します。

 また、雪印食品に端を発した一連のラベル張り替え偽装事件は、「企業理念」と現実の行動の乖離を露呈し、消費者・生活者を無視した企業は社会的に存在しえなくなることを示しました。大企業の安易な大規模リストラなど「人」を軽視した経営姿勢も含め、いま改めて企業倫理が問われています。

 私たち同友会は、自らの基本姿勢の確立に努め、中小企業家としての社会的責務を果たすとともに、日本経済再生のために下記のような産業再建計画の立案と経済社会の改革を求め、関係各位のご協力、ご支援を要望します。

1.危機打開と日本経済再生のための行動計画(政策のイメージ)

  1. 市場創造型の内需拡大、需要喚起政策へ政策の重点を移し、財政と資源を集中的に配分する政策を実施する。
    1. デフレを深刻にする「構造改革」政策から需要の活性化を促す政策への転換。
    2. 潜在ニーズの大きい次世代マーケットを創造する「需要開拓プログラム」の作成と中小企業での実証モデル事業支援。
    3. 安心と活力のある少子高齢化社会をめざし、中高年齢者の就労環境を整備するとともに、中古住宅市場の整備など実物資産を有効活用した豊かな消費生活を実現する。
  2. 中小企業が参入可能な環境保全・自然再生型の産業システムの形成をめざす。
    1. 中小企業の知恵と人材を生かせる環境保全・自然再生型の公共事業を拡大する。例えば、コンクリートの河川護岸工事を自然再生型の川づくりで復活させるなど。
    2. エネルギー処理等の大規模集中型から中小企業も参入が可能な小規模分散型産業システムへの転換と分散処理設備の建設などを進める。
  3. 日本の富の源泉であるものづくり機能と製造業の再生を進める。
    1. 既存中小製造業への「経営革新」企業の認定拡大など「第二創業」支援の拡充等
    2. 都市型企業と地方企業のリンケージ戦略への支援。空洞化が進む地域分業構造の再生ための地域産業起こし・仕事づくりの地域計画を立案する自治体を支援すること。
    3. 技術革新を地域の固有資源の活用に活かすなど内発型地域企業づくり支援。
  4. 新しい時代の人づくり、地域づくりの試みを積極的に行う。
    1. 雇用維持・安定化に努める中小企業の教育活動等へ雇用調整制度等の活用を進める。
    2. リタイヤした中高年齢者の技能・スキルを中小企業経営や地域づくりに活かす施策。
    3. 権限や財源を自治体に委譲し、数多くの小さな仕事をつくる新しい地域づくり推進。
  5. 円滑な資金供給と地域・中小企業にやさしい21世紀型金融システムの構築を。
    1. 金融アセスメント法の制定を推進する。
    2. 金融検査マニュアルの改革や制度融資とは別枠の緊急対応融資の創設など。
    3. 中小企業の資金調達力の複線化を促進する。例えば、「少人数私募債」の発行条件をさらに広げ、税制上のメリットも拡充するなどの措置。

2.危機打開のための中小企業家同友会の5つの基本姿勢

  1. 私たちは、厳しい経営環境の中でも企業の継続発展に全力を尽くし、雇用確保と魅力ある企業づくりに取り組みます。今後の景気後退の嵐を乗り切る経営指針・戦略と社内体制の構築に総力を傾けつつ、大学や金融機関等との連携、行政施策活用などの総動員で企業を守り、新しい市場創造に挑戦します。
  2. 私たちは、経営指針の確立と全社的実践に努力し、21世紀型企業(※)づくりをめざします。特に、企業活動の「血液」である金融を確保するためにも、経営指針を通じて金融機関の理解を深めながら、金融アセスメント法の制定と地域での金融機関との連携を強化します。
  3. 私たちは、企業活動を通じて納税者としての社会的責任を果たすとともに、税金の適正な使い方や行政のあり方にも関心を持ち、提言・行動します。とりわけ、公共投資を従来型公共事業から、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視の生活整備型・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させることを求めます。
  4. 私たちは、企業の社会的責任を自覚し、環境保全型社会づくりに取り組みます。環境負荷の少ない企業活動を実践するとともに、エコロジーとエコノミーの統一による仕事づくりや地域づくりを行政・市民団体等と協力しながら挑戦します。
  5. 私たちは、経営者自らの教育を含めた21世紀の最も貴重な資源である人づくりと次世代を担う若者が働いて誇れる職場と社会の環境づくりに努めます。

 以上の認識に基づいてここに政策要望・提言を提出する次第です。

3.地域経済の活性化と地域雇用の維持による景気回復策

  1. 中小企業は現在、新規事業、事業転換、グループ化、ネットワーク化などのさまざまな「新しい仕事づくり」を地域で取り組んでいる。これらの「新しい仕事づくり」は市場規模が小さいとはいえ市場を深く掘り起こす多種多様な事業であり、地域経済を活性化させ国民生活を豊かにし、地域雇用を維持し拡大することに結びついている。この「新しい仕事づくり」を有効な景気回復策として位置づけて、積極的に支援すること。
  2. 公共投資は大手ゼネコン中心の国家的大型プロジェクト方式で実行されてきたが、この従来型の公共事業から、環境にやさしくしかも地域を豊かにし、地域雇用に果たす役割も大きい、生活基盤整備・社会福祉重視・環境保全重視の生活密着型公共投資へ抜本的に転換させること。
  3. 今後の雇用不安を解消させる雇用安定策と、生活の将来不安を解消させるような社会保障制度(介護保険、年金等)へと制度改善策を実施することが国民の消費回復の根源的政策になっている。そこで、国の景気対策の重点としてもこのような政策の推進を図ること。

1.新しい内需を喚起し、中小企業を活性化させる景気回復策を

  1. 中小企業が地域で取り組んでいる新規事業、事業転換、グループ化、ネットワーク化などのさまざまな「新しい仕事づくり」を有効な景気回復策として位置づけ、積極的に支援すること。それらは市場としては小さいが市場を深く掘り起こす多種多様な事業であり、地域経済を活性化させ国民生活を豊かにし、地域雇用を維持し拡大することに結びついている。金融、技術に限らずマーケット開拓やソフトの面まで総合的な自立支援策を実施すること。
    日本の産業集積の基盤技術を支えているのは下請中小企業群であるが、いま集積崩壊の危機にある。既存下請企業の自立化支援強化策として、イ)下請中小企業の自立化支援助成金制度の整備・拡充、ロ)営業力強化セミナーの実施、企画開発、デザイン、市場開拓への支援など下請企業の弱点強化策、ハ)各地域で、仕事確保、仕事づくりのために企業データの情報化をすすめ、中小企業が主導して取り組む川上から川下までの多様な企業間ネットワークに対する相談体制、支援体制を強化すること。
  2. 観光・余暇、教育、医療、安全性など人間の活動能力の発展をはかる社会的ニーズや防災対策、環境保全、高齢化・福祉、地域づくりなど社会生活の中から新しい内需を誘発しようという中小企業を戦略的に支援する地域産業政策を展開されたい。
  3. 中小企業経営の高度化のためには専門的人材の確保やネットワーク化が不可欠であり、産官学の知的人的資源を中小企業がさまざまな形で活用できるシステムが求められている。特に、中小企業のIT化を促進する上で専門能力のある人材の育成がネックとなっており、公共職業訓練施設による個別企業ごとに実施できるIT対応のオーダーメイド訓練制度等を大幅に拡充するなどIT人材育成事業を強化すること。
  4. 大学の理工系施設や試験研究機関が中小企業向けのレンタルラボ(貸し研究室)やレンタルオフィスを廉価で提供できるよう施設への援助を行うこと。また、そこでの中小企業の開発成果に対する事業可能性評価を公的試験研究機関等が行い、金融機関による開発支援協調融資があっせんされる仕組みを検討すること。さらに、中小企業と大学・研究機関をつなぐデータベース・ネットワークなど交流・支援インフラの整備に努めること。
  5. 従来型の公共事業から、環境にやさしくしかも地域を豊かにし、地域雇用に果たす役割も大きい、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視の生活整備型・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させること。国の官公需の中小企業向け発注は、閣議決定の中小企業への官公需発注比率を現行水準の約4割から6割に拡大すること。景気回復をはかるために、地域経済の実情に応じた発注を行なうとともに、一定の質をもつ公共工事価格を適正価格のナショナルミニマムとして位置づけて、モデル化すること。また、技術的に可能な限り分離・分割発注の拡充、一定金額以下の発注を中小企業に限定する制度の導入、施工準備金・前払い制度の活用、発注の平準化推進、官公需適格組合の積極活用を図ること。
  6. 今後の雇用不安を解消させる雇用安定策と、生活の将来不安を解消させるような社会保障制度(介護保険、年金等)へ制度改善策を実施することが国民の消費回復の基盤をつくる政策になっており、国の景気対策の重点としてもこのような政策の推進を図ること。健康保険法改正で医療費の本人自己負担を2割から3割に引き上げることには反対です。
  7. 国は大震災に備えた防災対策事業を自治体と協力して以下の措置を強力に推し進めながら、中小企業の参加、仕事づくりにつながる事業とすること。1)既存建築物の耐震診断を大規模に実施すること。関連して、耐震診断費と防災改修工事の助成措置及びセーフティローン斡旋制度の金利助成の拡充措置をはかること。2)防災向けの耐震防災住宅の建設、簡易地下室「地震シェルター」建設の研究と普及・支援を図ること。3)都市防災不燃化事業の対象地域の拡大と個別住宅の防災不燃化を推進すること。4)防災に加え都市美観のうえからも電柱の地中化事業を積極的に進めること。5)公立学校など公共施設の耐震改修の推進。
  8. 安心と活力のある少子高齢化社会をめざし、1)移動入浴車やデイサービスの充実、在宅型介助機器の公的リース、さまざまな老人施設・障害者施設のマンパワーの充実に努めること。2)バリアフリー住宅化の推進や民間グループホーム建設への支援など高齢者が安心して暮らせる環境づくりを図ること。また、巡回サービスなどセキュリティや福祉サービスの水準を緊急に向上させること。バリアフリー住宅・福祉機器開発を行なっている中小企業への支援(開発促進、市場の開発)を行うこと。3)中古住宅市場の整備など実物資産を有効活用した豊かな消費生活を実現すること。4)良質な賃貸住宅が大量に供給されるよう制度の見直しや助成措置を講じてライフサイクルに応じて住宅選択の幅が拡大するよう整備すること。

2.環境保全型・自然再生型の維持可能な社会システム構築

 環境負荷の少ない環境保全型の経済社会システムへの移行をはかる総合的政策の決定・実施にあたっては、情報公開を徹底し、行政・市民、そして地域経済を担う中小企業がそれぞれの役割を発揮しながら政策決定過程に参加し連携していける仕組みにしていくこと。

(1) 環境保全・自然再生型の公共事業の拡大と小規模分散型産業の推進

  1. 中小企業の知恵と人材が活かせる環境保全・自然再生型の公共事業を拡大すること。イ)コンクリートによる河川護岸工事を中止し、自然再生型の川作りを進め、自然を復活させること。ロ)太陽光や風力、バイオマス等の自然エネルギービジネスに挑戦する中小企業を新しいタイプの公共事業に活用すること。ハ)地域の防災や雇用に貢献する地域分散型エネルギーシステムづくりやリサイクルの推進に努めること。ニ)都市緑地保全法改正をふまえ、大都市部のヒートアイランド現象の緩和や環境保全のために助成制度の創設も含め、屋上緑化を進めること。併せて、雨水利用施設の普及にも努めること。
  2. 自然エネルギーや文化的資源など地域の固有資源の産業化・事業化に取り組む中小企業を産官学・金融の連携で支援すること。このような新しい時代の市場創造は、環境保全、地域づくり、人づくりなど多角的な経済的波及効果を期待できる。

(2) 地球温暖化・エネルギー問題

  1. エネルギー消費の削減では、省エネ効率の高い製品の使用や、生産設備への移行を促す誘導政策とともに、流通システムや、都市づくり、ライフスタイルなどエネルギー大量消費型社会となっている現状を見直し、地域分散型エネルギー政策への転換を強めること。
  2. 太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電事業促進のための技術開発や助成制度の拡充と、電力メーカーによって自然エネルギーによる電力が安定的に買い取られるような仕組みを創設して、自然エネルギー発電事業に長期的視点で安心して取り組めるような誘発施策を行うこと。なお、「グリーン電力」制度が多くの大手電力会社で導入されているが、その実施にあたっては、当該電力会社が、どのような自然エネルギー導入目標を定め、実際に自然エネルギー発電推進のためにどのような投資を行ったか、など消費者が判断可能になるように情報公開を行うこと。また、原子力発電所については、原子力が人類や生態系に与える影響が大きいこと、安全性や放射性廃棄物処理において未解決の問題が大きいことを考慮して、可能な限り原子力発電に頼らない措置をとること。
  3. オゾン層を破壊するフロンの大気中への放出禁止と回収義務を定めたフロン回収破壊法が業務用冷凍空調機器とカーエアコンについて定められたが、家庭用冷蔵庫、ルームエアコンについても、家電リサイクル法にゆだねるだけでなく、そこでのフロン回収・破壊が確実に行われるような仕組みとされたい。また、その回収・保管・最終処分コストが、最終処理業者など一部にしわ寄せされることのないよう、生産から廃棄までの各段階で適正に分担する仕組みづくりを検討すること。

(3) リサイクル・廃棄物処理問題

 循環型社会形成を目指す一連のリサイクル法の実施にあたっては、一部中小企業に過度の負担とならないよう、生産から流通、消費、リサイクルの各段階でそれぞれにふさわしい適正コストを負担するシステムづくりへの見直しを行うこと。新たに法制定が検討されている自動車や家庭用パソコンのリサイクルシステム構築にあたっては、先行して実施されている容器包装リサイクル法や家電リサイクル法の実態を分析し、各分野における中小企業の参加を求め、最も環境負荷が少なく、コストが適正分担できるシステムを検討していくこと。また、このようなシステムづくりにあたっては、リサイクルしやすい製品作りや製品の長寿命化、廃棄物の発生抑制に働くようにすること。

 土壌汚染の修復では、汚染者責任の原則に加え、汚染者が特定できないときは所有者責任が検討されているが、直接の汚染者や所有者だけでなく、その汚染を引き起こすことに関連した事業者(たとえば、廃棄物処理業者に廃棄物処理を委託した事業者や、その土地の利用で利益を得ていたものなど)にも汚染責任をさかのぼり、土壌修復のための費用を負担させるシステムを検討すること。

(4) 環境ビジネスの育成と環境共生型企業への支援

 環境保全型の製品開発や、ISO9000、ISO14000の取得、環境保全対策の推進など環境共生型企業づくりを積極的に進めている中小企業に対しては、技術開発や設備投資資金などで積極的に支援すること。環境に配慮した製品の育成・需要喚起のために、イ)リサイクル品の品質保証を行なう規格の整備、ロ)リサイクル品を事実上閉め出している既存の規格・慣行の見直し、ハ)環境に配慮した製品の競争力を高めるための、資源大量消費型製品へのペナルティ(制裁金)、などの措置を講じること。

 また、地域内資源循環や、究極的に廃棄物をなくすゼロエミッション型環境ビジネスを推進するための地域ネットワークづくりを支援すること。

(5) 地球環境保全と農業の保全

 資源小国でありながら、天然資源活用の恩恵に浴してきた日本は、地球環境保全のための国際的取り組みに大きな責任を負っている。1997年に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、京都議定書を批准し、二酸化炭素削減に向け率先して取り組むこと。また、各国で行われている公害防止のための技術支援や、砂漠緑化や森林の回復などの環境修復の支援を行うとともに、その支援を積極的に行っているNGOなど民間団体への支援にも力を入れること。日本企業による「公害輸出」や環境破壊型「開発」を行なわないような国際社会に通用するルールづくりを強力に推進すること。

 国内の地域開発にあたっては、計画段階からその地域の中小企業や住民に対する十分な情報開示のうえで参加をもとめ、生態系や自然環境の保全、地域の生活環境、歴史、文化との調和をはかりながら、長期的視点で進めること。また、食糧自給率を高めるため、安全で健康な食べ物を供給する日本農業の健全な発展を図ること。地域づくりでは、農業が、治水や地域環境保全にも役立っていることを考慮した計画にすること。

3.資金が円滑に回る国民と中小企業・地域に優しい金融システムの構築

  1. 「貸し渋り」「貸し剥がし」がなく国民と中小企業・地域が健全かつ社会的に望ましいかたちで存続していくために、日本の金融システムを1)金融機関の公共性を維持させる、2)金融機関と借り手の取引慣行の歪みを是正する、3)現行の裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に、転換させなければならない。そのために、「円滑な資金需給」、「利用者利便」などの視点から必要な情報を収集して金融機関の活動を評価することを監督官庁に義務づけ、その評価と判断理由をインターネット等で公開することを義務づける「金融アセスメント制度」を早期に法制化すること。
  2. 金融庁の各金融機関に対する「金融検査マニュアル」は中小企業金融を人為的に不安定化させている。したがって、中小企業向け融資の場合には、金融庁は中小企業の実情に沿った別の基準の「マニュアル」を速やかに作成し、それを適用すること。
  3. ペイオフ解禁は、中小企業にかかわりの深い地域金融機関の預金の流失を促進させ、中小企業への資金パイプを狭めるばかりでなく、地域金融機関の存立を危うくする懸念がある。預金保険法によるペイオフ発動の実効猶予措置を直ちに宣言すること。当面、2003年4月から解禁予定の決済性預金については、景気が回復するまで延期すること。
  4. ペイオフをやむなく実施する場合、ペイオフで手形決済ができなくなる恐れがあるとき、公的金融機関から緊急融資がなされて自動的に決済されるシステム等をとること。地方自治体の公金預金もペイオフの対象となっているが、地域金融機関への公金預金が地元中小企業への貸出原資となっているのが実態であり、自治体による公金預金保護のための資金移動は地域経済の混乱要因となる恐れもある。公金預金、特に制度融資の預託金についてはペイオフからはずし、全額保護すること。
  5. 金融機関の合併・破綻によって生じる取引先中小企業に対する事業資金のパイプを細くすることなく、資金供給の継続を保証する法制化措置を緊急にとること。とりあえずは、同じ融資条件での引き継ぎを確保すること。
  6. 不良債権「早期処理」期間から金融システムが安定するまでの一定期間、返済期間を10年間とするなど「安定化特別保証制度」を利用しやすくした制度融資とは別枠の「緊急特別保証制度」(仮称)を創設すること。
  7. 不良債権早期処理の中小企業への影響を最小限に抑えるため、次の措置をとること。
    1. 既に利用している制度融資の返済について、一定の要件のもとで返済猶予期間を延長する措置、又は最大10年まで返済期間の延長措置を認めること。
    2. 倒産防止共済制度は、共済金の貸付の償還期間を5年から10年に延長すること。
    3. 事業者と金融機関の融資上の取引トラブルを調停あっせんする緊急の窓口・機関を金融庁又は都道府県に設置すること。
    4. 中小企業が倒産した場合、個人の最低限の財産保障と再起できる条件を整備するため、破産法の改正など個人保証の有限責任化を進めること。また、「経営者失業保険制度」の創設を検討すること。
  8. 規制緩和で拡大した「少人数私募債」の発行条件を株式会社だけでなく有限会社にも適用するなど拡充すること。また、税制上のメリットも拡充する措置をとること。
  9. 民間金融機関および政府系金融機関(信用保証協会を含む)のいずれにおいても融資審査にあたっては、物的担保優先主義を改めて、経営指針の確立、経営者の経営能力、企業の技術力、開発力、市場性、社風等を総合的に評価するシステム(総合評価システム)への転換を早急に図られたい。さらに、その評価の公正さを保持するために、金融機関以外の第三者が加わった融資審査のあり方をチェックするシステムを設けること。これは先行的に政府系金融機関からはじめること。
  10. 民間金融機関では拘束預金が依然として継続されている。これは、「取引上の優越的な地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するおそれがある。公正取引委員会、全国銀行協会連合会などを通じての監視と指導の強化を改めてすすめること。
  11. 「貸し渋り」は、政府系金融機関の役割の大きさを改めて実証したから、政府系中小企業金融機関を整理統合することは中止し、むしろ設立時の原点に立ち返ってそれぞれの金融機関の特性を生かして育成する政策方向をとること。その上で、政府系中小企業金融機関への一般会計等からの政府出資及び財政投融資からの融資を大幅に増額して、貸付限度額の引き上げ、長期低利の制度融資等の拡充を図ること。なかでも、1)市場金利の動向に連動した既融資分の借換制度を設けること、2)一般会計から市場金利との差分について利子補給を行なう制度を設けること、3)制度融資全体の手続きを簡素化すること、以上の3点を緊急に実施すること。
  12. 中小企業に対する信用保険の保険準備基金、融資基金及び信用保証協会基金補助を大幅に増額し、普通及び無担保保険限度額の引き上げと保険料・保証料の一層の引き下げを実施すること。
  13. 信用保証協会が行なう「信用保証」の重要な役割は、担保力に乏しい中小企業金融の円滑化をはかり、中小企業を健全に育成するという信用補完機能にある。したがって物的担保優先主義を克服した信用保証協会こそが本来の姿であり、保証条件の緩和をさらに進めること。「特別小口融資」は、1250万円に引き上げられたが、段階的に3000万円まで拡充するとともに、保証料免除措置導入を検討すること。また、「制度融資」に関する「連帯保証人制度」について、連帯保証人の要らない制度融資のいっそうの拡充をすすめること。

4.市場創造と経済再活性化を支える税制

(1) 法人税のあり方について

  1. 累進税率の導入……2002年度に導入する連結納税制度の影響で大幅な法人税収の減少が予想され、政府自身も導入と同時に導入企業に対する連結付加税を予定している。このことは単に財源確保ということだけでなく負担すべき能力のある企業が財政上の負担をするという社会的な要請として考えなければならない。応能負担原則は法人税においても実現すべき原則であり、次のような累進税率の導入を提言する。すなわち、所得1500万円まで15%(資本金1億円未満)、所得5000万円まで25%、所得5億円まで34.5%、所得5億円以上40%。ただし、個人にたいして法人が相対的に有利になることを是正するために、現行の法人税を個人事業も対象に含めた企業税(仮称)に改めることも税率と合わせて検討すること。なお、このような累進税率を導入した場合でも、財政にたいしては中立すなわち増減税ゼロになる。
  2. 交際費課税の全額損金算入……交際費課税については、2002年度改正から中小企業(資本金1000万円超5000万円以下の法人)の損金算入制度の定額控除限度額が300万円から400万円に引き上げられた。この措置は中小企業の実態に合わせて一定の改善として評価できるが、1999年度改正から中小企業の損金算入枠が20%削られている現状はそのままである。中小企業の交際費損金算入枠は、本来の「全額損金算入」に戻すこと。さらに、交際費の範囲を明確にして、中小企業の経営の実態に即した交際費課税になるように改善を図ること。
  3. 留保金課税の停止……中小企業だけに課税されているといってよい同族会社の留保金課税は、一定額以上の内部留保金に対して10%から20%まで通常の法人税に加えられる税制であり、その趣旨は、株主が少なく会社の意思を自由に出来るため企業が配当を行わないで内部留保をすることで累進課税の所得税を不当に免れることがないように設けられたものである。しかし、所得税の最高税率が法人税と遜色がないほどに下降し、さらに貸し渋り等金融不安が常態化した金融環境では、中小企業は積極的に内部留保の積み増しを実行しなければ資金繰りが難しい状況に追い込まれている。2002年度改正で、税率が5%引き下げるなどの措置があったが、制度そのものは維持され同族中小法人のみに重い税負担を課している。同族会社の留保金課税は、ベンチャー企業等に留まらず速やかにその適用を停止すること。
  4. 租税特別措置法の整理縮小……将来の景気回復時に税収の大幅な改善を図るためにも、政策的税制を整理縮小(租税特別措置法の整理縮小)し、税収確保の筋道をつけること。そのときに連結納税制度等の導入による減収のしわ寄せを中小企業が利用する政策的税制の廃止でカバーするのでなく、経済情勢を見て中小企業の負担が一層増えないように軽重をつけて整理縮小すること。また、中小企業投資減税については拡充すること。

(2) 消費税について

  1. 消費税減税の実施……政府・与党は財政再建のために消費税の税率を引き上げようとしている。しかし、消費者の購買意欲が減退し景気が低迷している最中に、消費税率の引き上げは更なる景気後退をもたらす。日本や米国の有力エコノミストも指摘するように景気回復のために消費税の減税を行い国民・中小事業者の負担を軽減すべきである。
  2. 中小事業者特例の縮小問題……中小事業者に「益税」をもたらすとして、免税水準の引き上げや簡易課税制度の縮小が検討されている。しかし中小事業者には、制度上消費税を完全転嫁する保証はなく、「益税」どころか、しばしば税の自己負担現象が起きている。免税制度や簡易課税制度は完全転嫁できない中小事業者の生業権を保障するための措置として重要な制度である。また、簡易課税制度の縮小は中小事業者に対する実質的な増税となり、資金繰りを圧迫し倒産の引き金となりかねない。不況下において中小事業者特例の縮小を行うことは景気回復に逆行することとなるので、中小事業者特例の縮小は行わないこと。
  3. 消費税の内税問題……消費者の便宜を図るとして税率引き上げの前に消費税の内税化(総額表示方式)が計られようとしている。そもそも消費税の外税・内税は法改正の問題でなく、事業者の選択に委ねられる性格のものである。現に業種・業態・店舗ごとに外税・内税を自由に使い分けており、外税・内税は企業の裁量に委ねるべき問題である。政府主導で消費税を見えにくくする内税化を進めるべきではない。

(3) 所得税について

  1. 課税最低限(基礎控除)の引き上げ……わが国の所得税の課税最低限が諸外国と比較して高いので、これを引き下げる動きがある。しかし、課税最低限の国際比較を行う際、給与所得者世帯をとりあげ、給与所得控除や社会保険料控除、各種所得控除を加えたものと比較することは誤りである。なぜなら、米国、英国にはそもそも給与所得控除や社会保険料控除が存在しない。ドイツでは生命保険料と社会保険料の合計額のうち一定金額しか控除されない。配偶者控除や扶養控除は米国以外にはいずれの国にもない。
    このように、諸外国にない制度を合計して課税最低限の比較を行うことはまったく無意味である。もし、国際比較を行うなら、すべての国が等しくもっている制度、すなわち基礎控除(本人控除ないしゼロ税率制度)を課税最低限として比較すべきである(わが国の場合、およそ6割が独身または単身申告者である)。さらに、国際比較を行う際、政府が用いる為替レートではなく、購買力平価(OECDが毎年発表する)によらねばならない。諸外国の基礎控除を購買力平価により比較すると、わが国の38万円に比して米国が120万円、英国が105万円、ドイツが105万円、フランスが63万円となっており、わが国の38万円は極端に低いことが分かる。したがって、基礎控除(課税最低限)は引き下げるのではなく、むしろ大幅に引き上げる必要がある。この措置は国民の消費購買力の刺激にもなる。
  2. 年末調整制度の廃止……給与所得者に対する年末調整制度は従業員のプライバシーを侵すなど違憲性のある制度であり、企業の事務負担や給与所得者の納税意識の欠如等の問題点があるので、申告納税制度の本旨にならって廃止すべきである。諸外国においてわが国のような年末調整制度を持っている国は1ヵ国もない。年末調整制度を廃止すると行政当局の事務負担が増大するという意見があるが、KSKシステムの完成や電子申告制度により管理体制が充実することによって十分可能である。仮に、年末調整制度を直ちに廃止することができないなら、年末調整を行うか否かを給与所得者の選択に委ねる制度を採用すべきである。

(4) 中小企業の事業承継について

 アメリカは97年度税制改正で中小企業の事業承継を可能にする大胆な改革を実施したが、わが国においても中小企業の事業承継が円滑に行われることは今後の日本経済の健全な発展に大きく寄与する。とくに、都市部の中小企業が安心して事業を承継して地域の街づくりに貢献できるように、相続税を抜本的に改革すべきである。以下のような点に特に配慮した事業承継税制の導入を行うこと。

  1. 相続税の基礎控除額を抜本的に改めること。政府税調は中期答申で「平成10年では死亡者100人当たり約5人(5.3%)」が対象になっているといっているが、高度成長によって地価が騰貴する前の昭和30年代は100件の相続事例のうち相続税の対象になるのはわずか1件(課税対象割合1%)であった。その後、地価高騰により相続税の対象となる割合が著しく増大した。富の再分配を必要とする一部の資産家に対する税である相続税の本来の姿に戻すためにも基礎控除を1億円程度に大幅に引き上げること。また、アメリカやドイツで導入されたように、相続時には中小企業の収益力を基礎にした事業承継価格を適用し、時価との差額の税負担を猶予し、一定年数以上事業を承継した場合には税負担を免除するような大胆な事業承継税制を我が国も導入し、中小企業の円滑な承継を実現すること。
  2. 事業承継は、事業自体の存続を前提にするから取引価額で資産を評価すること自体が問題である。ドイツ連邦憲法裁判所の1995年6月22日決定も明言しているように、「企業に属する財産はそうでない財産より処分可能性が制約されている」。したがって、事業用資産については、事業を継承するという条件の下で以下のような事業承継猶予制度を設けること。
    イ)事業用資産については通常の評価額とは別に「事業承継価額」で評価する。
    ロ)事業承継者は事業用資産を「事業承継評価額」で評価した税額を納付し、通常の評価額で評価した場合の税額との差額は猶予される。
    ハ)10年以内に事業を廃止した場合は当該差額を納付する。
    ニ)10年以上事業を承継した場合には当該差額を免除する。
    上記中期答申では、農地に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例は、農業政策の視点から、法律上、その利用・転用・譲渡が厳格に制限されていることなどから認められているとしているが、中小企業の事業承継にもこのような制度が必要である。なお、アメリカやドイツでは5年~10年の事業継続を条件とした事業承継制度を導入している。
  3. 株式評価については、自社株式は流通性がなく資金化が困難であることに加えて企業の存続を前提にすると、企業の利益水準に基づいた収益還元方式による評価が適切であるから自社株式の評価方法に収益還元方式を導入すること。
    なお、2000年度改正から類似業種比準方式の評価方法においてわれわれが提言してきたように、減額割合が大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5となったが、純資産価額方式の評価において、土地の評価は上記の「事業承継価額」とすることが、収益還元方式へ移行するまでの経過措置として残されている。
  4. 贈与税の基礎控除については、2001年度の税制改正で1975年以来の改正となり、60万円から110万円に引き上げられたが、土地建物の高騰をはじめ、住宅資金の贈与の特例の創設や、相続税の遺産にかかる基礎控除が漸次引き上げられてきた経過を踏まえて、贈与税の基礎控除を300万円にまで引き上げること。

(5) 地方税制について

  1. 事業税……2000年7月の政府税調中間答申では、望ましい外形基準は事業活動価値(「利潤」+「給与総額」+「支払利子」+「賃借料」)であるとされている。このような外形標準課税が各地方自治体の財政難で2003年導入に向けて急浮上している。外形標準をこのような付加価値基準にすると、同一事業に対して消費税と事業税の二重課税になるばかりではなく、人件費比率が比較的高い中小企業ほど負担が大きく、さらに不況下で赤字経営を余儀なくされている企業にも課税されることになる。税負担能力がないところへの課税は、倒産や滞納の拡大につながるなど、社会的歪みが生じるばかりでなく、日本経済の活力削減につながるから、外形標準課税の導入は中止すること。
  2. 固定資産税・都市計画税……固定資産税の地価公示価格に連動した評価は、多くの訴訟や自治体の反対決議にみられるように非現実的である。固定資産においても負担能力に対応した収益還元による評価方式に徹底すること。さらに、都市居住・営業が確保されるためには都市計画と結びついた適切な軽減措置をとること。また都市計画財源のために徴収されている都市計画税の存在意義を明確にして適切な都市計画財源として企業の経営環境確保のための都市形成に使用すること。

(6) 税務行政(国税通則法等を含む)について

  1. 税務行政の公正の確保と透明性の向上を図るために、行政手続法において適用除外とされている項目を外すこと。税務行政手続の整備充実に向けて全面的な見直しが必要である。日本を除く先進諸外国では、すでに納税者権利憲章が制定されていることに鑑み、早急に納税者権利憲章の制定を検討すること。
  2. 各省庁が実施している意見照会手続(パブリック・コメント制度)を、納税者に直接影響を及ぼす税務行政における政令、省令、通達についてもその対象に入れること。
  3. 国民に周知されぬまま、KSK(国税総合管理)システムが全国展開されているが、自己情報の公開とプライバシー保護措置を早急に講ずること。
  4. 電子申告制度が2003年度に導入することとされているが、税務の公共性、同時に納税者の財産等のプライバシー保護等から、事前に十分な立法上の措置を講ずること。
  5. 納税の滞納状況からうかがわれるように、長期不況と金融情勢の変化もあり、中小企業経営の資金繰りは大変厳しい状況下にある。中小法人について、法人税の滞納及び地方税の徴収猶予の制度を早急に復活すること。

(7) 納税者番号制度について

 電子申告制度を目前に控え、税の簡素化とした政府税制調査会答申からうかがえる通り、納税者番号制度による一元化した体制が指向されている。すでに成立した住民基本台帳制度による付番が予定されているが、個人情報に関連する大掛かりな制度であるだけに、個人のプライバシー保護と厳格な各種の規制が必要である。周辺法の整備も不充分であり、納税者の納得も得られていないので、これを採用すべきでない。

(8) 税の使途に関する情報公開

 納税者としての社会的責任がある立場から、租税収入の中身と租税の使途、予算、決算の対比を正確に知る権利がある。単年度会計制度の弊害として、公共事業費、防衛関係費等の後年度負担と消化主義がある。企業会計と同じく発生主義による複式簿記会計方式及び財産目録の明示、または後年度負担項目については脚注に詳述すべきである。政府税調中期答申は、国民の理解が深まることを期待していることからも、国の財政情報を制度的に整備すること。

(9) 低金利国債への借り換えと累増にストップを

 国債残高増大の反映として、利払いが一般会計歳出に重くのしかかり、財政硬直化の主因になっている。2003年3月末の国・地方の長期債務残高は、693兆円にも達し、GDPの1.4倍となっている。借り換えを含む国債の市場発行額は110兆5000億円で、国債依存度は36.9%という不健全な状況である。財政法に基づいて既発国債の期限内償還を行って、低金利国債に借り換え、財源を浮かすこと。また、租税の空洞化と収入減となった税制を応能負担原則による累進税率に切り替えること。不要・不急の事業(五全総を含む整備新幹線、高速道路、架橋、空港、原子力発電所等の再点検)を凍結し、抜本的に見直すこと。

5.透明で公正な市場のルールをつくり取引を適正化する公正競争の確立

  1. 市場の歪みを「市場原理の尊重」下で是正するには中小企業の市場参入の機会が公平に保証されなければならない。それには中小企業に不当な不利益を与える不公正取引に対して市場のルールを守るべく厳正・迅速な政策的対応が不可欠である。そのために、1)独禁法(独占禁止法)の「厳格な運用」と新たな強化をはかり、独禁法を遵守させること。2)公正取引委員会の権限の強化と司法機能の強化および独禁法の私訴規定のさらなる充実を図って、ルール違反防止と不公正取引の是正・防止を厳正に実施すること。3)経済産業省設置法でうたっている「市場における経済取引に係る準則の整備」を取引適正化のために行うこと。
  2. 純粋持株会社解禁やその連結納税制度は、多様な形態による大企業の経済力集中化を促進させて過度集中、大企業による市場寡占を引き起こす危険性が高いので、独禁法に過度集中に歯止めをかける明確な措置を入れること。
  3. 行政手続法等を活用し、許認可手続きの迅速化、手数料負担の軽減など中小企業の日常業務の規制撤廃・緩和を進めること。行財政情報の開示を行なって透明度を高めること。
  4. 公正な取引の視点から以下の3点について取引条件の確立を図ること。
    1. 海外展開、低価格等を理由にした中小企業への一方的な発注の停止、大幅削減、取消、買いたたき、取引条件の変更などの不公正取引の実態を自治体と共同して正確に調査すること。その上で不公正取引発生にたいする適正化措置として、データの公表(企業名公表)を含む情報公開等の緊急対応体制と相談体制の整備を図ること。
    2. 公正取引委員会は、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法などの法律に沿って下請取引の実態を調査・監視し、強力に指導して健全な取引環境づくりに努めること。
    3. 独禁法の「優越的地位濫用」による「下請いじめ」規制を発動できるように整備すること。特に、下請企業から声を上げないと調査が入らないシステムを改めて、第三者と当事者を組み合わせた監視システムをつくること。また、下請企業は親企業の発注に対応した生産設備・人員を抱え、簡単に転換することができないので継続的下請取引の一方的解除に歯止めをかけることができる措置をとること。
  5. 公正取引委員会は、2001年7月に『金融機関と企業の取引慣行に関する調査報告書』を公表しているが、その中では調査結果をふまえて「独占禁止法上の考え方」を整理し、金融機関のいかなる行為が独占禁止法の問題になるかを示している。これをふまえ、金融機関と融資先中小企業との歪んだ取引慣行を是正する「ガイドライン」の作成、行動指針的なルールづくりを行うこと。
  6. 融資取引では、金融機関が期間の余裕を与えず一方的に中小企業から融資を引き上げるケースがある。中小企業は倒産してから裁判を起こしても実質的には救済されない。金融トラブルでの苦情・紛争処理のための裁判外紛争処理制度を早急に導入すること。

6.中小企業を核とした新しい地域振興による地域と産業の活性化

 大企業の事業所の撤退・閉鎖や海外移転などによって地域経済の空洞化がすすみ、地域集積・地域経済の衰退が進行している。その影響をできるだけ和らげ、新たなものづくり、新しい産業などを興して地域経済の再構築・再生をはかることが21世紀の日本経済の大きな課題になっている。地域と共に歩む中小企業をその再構築・再生の核に位置づけて、地域の中小企業を重視する政策スタンスをとること。

  1. 現在国に過度に集中している財政の権限と行政の権限を大幅に地方・地域に委譲する地方分権化を進めること。その具体的な政策立案作業には地域住民と中小企業の現場の声を適切に反映できるように、制度的に当事者の参加を必要条件にすること。
  2. 大企業の事業所の突然かつ一方的な撤退・移転は地域経済に甚大な影響を与える。そうした工場移転、閉鎖などにあたっては、その計画段階から地元の自治体・地域代表者と協議するというルールを制度化すること。
  3. 地域開発政策等の一環として地方進出した大企業の事業所が企業側の事情で早期撤退・閉鎖する場合は、国や自治体が負担した公共経費と事業所税・固定資産税などの減免措置相当分を返還するというルールを制度化すること。
  4. 農林漁業と中小企業とが連携したさまざまな地域興し事業に対して、助成と支援を積極的にすすめること。

7.地域コミュニティと商店街の活性化と流通・物流の革新

  1. 地域経済の発展、地域コミュニティづくりに大きな役割を果たしてきた商店街の多くが存亡の危機にさらされ地域の衰退が危惧されている。そこで街の崩壊、地域の衰退状態を打開する新たなルールづくりと具体的な振興策が急がれる。次の施策を講じられたい。
    1. 街づくりの主体者は商店街、中小企業、地域住民であることを明確にして、商店街における中小小売業の事業活動の機会を適正に確保することを基本ルールに据えること。「街づくり政策・商店街振興政策の公募事業」を積極的な自治体を支援して進めること。
    2. 大店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の「街づくり3法」を活用して抜本的な新しい街づくり策を積極的に推し進めて、既成市街地の活性化、良好な都市生活環境の確保を図ること。中心市街地活性化法施行によってつくられたTMO(タウンマネージメント機関)については、イ)推進計画をバックアップする2ケタに及ぶ省庁の窓口の一本化、ロ)手続きの簡素化、ハ)認可から実施までを短縮化させるなどの改善措置をとること。
    3. 地域住民が街づくりに積極的に関わる仕組みとして「街づくり会社の株主公募制度」などを検討すること。
  2. 地域コミュニティの主体となる商店街と個店の活性化を進めること。
    1. 零細店舗など商売上の工夫を考える自由な時間をつくりたくとも従業員雇用のできない層に対し、商店街ごとに販売のサポーターを派遣する制度を検討されたい。
    2. 空き店舗対策として、「商店主公募」やチャレンジショップ制度など店舗の家賃補助の支援策を拡充すること。空き店舗を借り上げ、リサイクル施設等の公共スペースを設置するなどの対策を講じること。特に、家屋の広い諸外国では女性が自宅で起業する場合が多いが、日本の住宅事情で女性起業家を多く輩出するためには、空き店舗や遊休施設の活用が決定的に重要であり、そのための施策を拡充されたい。
    3. 地域の社会的な問題解決のためのコミュニティビジネスの創業支援を進めること。「中小商業者が行う新たなビジネスモデル策定に対する支援」策をより拡充すること。各店舗の事業継承を支援する「後継者育成塾」の開催。
  3. 地域中小企業の物流環境を整備するため、縦割り行政になっている卸売業・小売業・運輸業・倉庫業等について、業種を超えて地域単位に括る地域密着型の支援策に転換すること。
  4. 物流効率化のため中小企業が共同して行なう「物流システム」事業に対しては、中小企業流通業務効率化促進法による金融、税制上の支援措置の一層の拡充を講じること。

8.国際取引と国際交流の整備推進

  1. 中小企業の国際取引への支援措置をとること。イ)中小企業が参加する国内外開催の国際見本市・展示会への参加や販路拡大情報について、ロ)海外製品の並行輸入、開発輸入におけるリスク分散システム、配送システム、商社を通さないシステムづくりの取り組みについて、ハ)海外部品調達にかかわる情報提供と指導、トラブル回避、共同購入について。
  2. 中小企業の海外進出への円滑化策として、投資関連情報の提供、金融、信用補完、保険などの支援措置を拡充強化すること。
  3. 外国人研修生受入事業の充実として、外国人研修生受入れにたいする支援措置の拡充ならびに研修生の入国手続きの簡素化等環境整備を図ること。また、外国人労働者の宿泊施設、住宅の提供、住宅の斡旋、労災保険や健康保険等の制度の充実を図るとともに、社会生活に対する相談センターや日本語ほかの知識を習得するための研修機関を整備すること。

9.豊かな人間として育つための教育・人材育成環境の重視

(1) 中小企業と教育

  1. 青年や子どもたちが健全な労働観や地域社会観を形成していく一つの機会としての労働体験を中学校・高等学校の授業の一環に組み込み、その現場として中小企業を積極的に活用すること。労働体験の期間は1日に限るのではなく、一定期間とするように検討すること。
  2. 大学生のインターンシップ制度の実施にあたっては、企業の採用活動とは完全に切り離し、仕事のノウハウを覚えるという狭義の職業教育にするのではなく、学生が働く意味や生き方を学ぶ機会となるような教育理念のもとで行うように指導すること。当会の経験では、中小企業で社員とともに働くことにより、働く姿そのものから学ぶことの意味が持つ比重が大きい。大学一年生にとっても、インターンシップは学ぶ目的を明確にし、学ぶ意欲を湧き立たせる意味で有効であるので、1年次から広く活用を呼びかける措置をとること。
  3. 長期的視野に立って人材を育成するためには、教師、父母、行政、企業経営者等が協力し合い、地域内で共に努力を積み重ねることが必要である。そこで、これら4者による懇談会やシンポジウムなどの試みに対して積極的に支援すること。学校評議員制度の実施にあたっては、地域の企業経営者の任用を検討すること。
  4. 日本のものづくりの機能を保全するため、中学校以上の教育に、技術・技能教育を積極的に取り入れること。さらに、別立てに専門職人を独自に養成していく公的システム(日本版マイスター制度)を新たに作って日本のものづくり機能の保全に努めること。
  5. 中小企業についての正確な認識がはかられるように、学校教育等では中小企業の最新の実態に基づいた正確な姿を教えること。そのための一環として、中小企業の経営者を授業の講師とすること及び教師が中小企業の現場で研修することを積極的に計画すること。

(2) ゆとりある教育に向けて

  1. 1)教育基本法の改正が論議されているが、教育基本法そのものの基本精神を損なう、教育の現場から遊離した上からの一律的「改革」を拙速に行うのではなく、各学校の実情に応じたていねいな援助が可能となるような教育行政自体の改革をすすめること。
  2. 子どもは子どもの中で育つという子どもの集団自身が備えている育ち合う力を信頼し、子どもたちで自主的に過ごす時間を増やすために、また教師が一人ひとりの子どもと向き合うゆとりが持てるようにするために、学習指導要領の改善と教師が30人学級で自主的に授業内容・授業時間を組み立てられるように改善すること。また、教育、文化、スポーツ施設の大幅拡充などもあわせて実施すること。

(3) 職場環境改善・人材育成への支援

 人材の確保と定着は、景気動向の如何にかかわらず、中小企業にとって重要な経営課題になっている。中小企業の労働時間等の労働条件、職場環境、福利厚生等の雇用管理面の改善が進み、魅力ある職場づくりが進展するように、相談機関・教育機関、関連施策を一段と拡充すること。さらに、既存人材の能力開発につながるキャリア形成促進助成事業において、中小企業への助成率の引き上げ、年齢枠の引き下げ、給付限度額の増額、適用範囲の拡大(研究会活動や海外研修へまで)等、中小企業の実情に沿うような改善策をとること。

10.労働環境改善と失業者対策の拡充のために

(1) 安心して働ける社会保障制度の構築と労働環境の整備

  1. 企業年金や中小企業退職金共済を、労働移動が発生した場合でも勤労者が個人単位で継続できるような制度に改めること。確定拠出年金(いわゆる日本版401k)導入では、あくまでも公的年金を補完するものと位置づけ、加入者が十分な情報を得て拠出金を運用できるよう、運用金融機関の情報開示を徹底化すること。
  2. 雇用の流動化は、熟練労働力の育成を阻害し、良質の生産活動の低下を招くおそれがある。さらに、規制緩和による労働条件等の低下を懸念する声も出ており、実態や影響を調査し、労働環境悪化により経済の活力を低下させることのない政策的措置をとること。
  3. 中小企業の経営実態に配慮し、労働時間短縮のための環境整備を推進すること。中小企業の時間短縮については、自企業の企業努力だけではなく関連企業・関連業界の理解と協力、取引慣行等の転換が必要要件となっている。そこで、イ)省力化投資等に積極的な支援策を講じること、ロ)これまでの取引慣行を見直して業種ごとに労働時間短縮を促進する施策を行うこと、ハ)発注方式等取引改善指導事業、下請代金支払遅延等防止法、下請中小企業振興法の運用強化等、労働時間短縮のために下請取引適正化施策の一層の強化を図ること。

(2) 育児・介護休業制度と保育所の拡充等による女性の社会進出支援

 育児・介護休業制度を実効性あるものとするために、雇用保険法による休業給付金の拡充を行うこと。さらに、利用者のニーズに対応した保育施設・学童保育所の増設・充実、在宅介護支援制度の充実を図り、女性の社会的進出を支援すること。とくに、産休あけ、育児休業あけの保育所の拡充や出産育児により長期に就労から離れる女性に対して社会復帰をはかるための施策を充実させること。

 介護休業制度では、休業の認められる期間が一家族当たり最長3カ月となっているが、介護の実態とは離れており、短時間勤務との組み合わせや期間の上乗せなど、それぞれの介護の実情に合わせた実効性のある介護休業制度とすること。休業給付金の支給も、その実情に合わせ、支給日数の延長や給付額の引き上げなど一層の拡充を図ること。

(3) 高齢者と障害者の就労環境の整備と雇用の促進

  1. 公的機関が高齢者の多様な就労ニーズを高齢化社会のテンポにあわせて実現させるための環境整備を図ること。リタイヤした中高年齢者の技能・スキルを中小企業経営や地域づくりに活かす施策を検討すること。特に、中小企業支援センターなど公共施設の窓口などでベテランの総合的知識や経験が活かされる職場への就業をすすめること。また、シルバー人材センターの拡充や民間ボランティア組織を制度化して税制優遇措置を設けること。
  2. 高齢者の日常生活を支援するために、住宅、設備の修理や改修、掃除などを公的に援助することにより安価に利用できる制度を行政と中小企業とがタイアップする方式で設けること。その際、能力や技能のある高齢者を優先的に積極的に活用すること。
  3. 中小企業における障害者雇用を促進させるような支援策の拡充と利用手続きを簡素化すること。障害者作業施設設置等助成金などの適用にあたっては、障害者雇用を前提として施設の設置や整備を行った場合、雇用前であっても助成金の支給を実施すること。障害者雇用の現状は、大企業より中小企業の方が進んでいる。障害者の雇用状況を発表する際は、実情が正確にとらえられるように、法定雇用率適用外の従業員規模55人以下の企業における障害者雇用の状況も必ず発表すること。

(4) 失業者対策の拡充と社会人インターンシップの創設

  1. 1)失業率の上昇は続き、今後も不良債権の早期処理等により失業者の急速な増加が予測されており、セーフティネットと教育訓練機能の強化が急務となっている。職業訓練を前提に失業保険の支給額と支給期間を拡充すること。
  2. 雇用保険法を改正して社会人インターンシップ制度(有給)を創設し、失業中の人が試験的に雇用された場合(3~6ヶ月程度)失業保険の給付が「休止」され、本採用にならなかったときでも引き続き次月より給付が再開される仕組みとすること。人の能力や適性は採用後でなければわかりにくいが、このインターンシップ制度の導入は、採用をためらう中小企業の重荷を減らし、採用される側にとっても選択の幅が広がる、いわゆる雇用のミスマッチを解決する有力な手段となる。

11.環境保全型の維持可能な社会システム構築

 地球温暖化などの進行に加え、自然の浄化力を超えた大量の廃棄物や、世代を超えて生態系に悪影響を与える有害化学物質が排出され、このままでは地球の正常な存続すら疑問視されるようになってきた。そこで、大量生産・大量消費・大量廃棄をもたらす経済構造から、環境負荷の少ない環境保全型の経済社会システムへの移行をはかる総合的政策の推進を急がなければならない。それらの政策形成・決定・実施にあたっては、情報公開を徹底し、環境保全型地域社会形成のため、行政・市民、そして地域経済を担っている中小企業が連携しながらそれぞれの役割を発揮できるような仕組みにしていくこと。

(1) 地球温暖化・エネルギー問題

  1. 1997年12月に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、同会議で決めた地球温暖化ガスの削減目標を率先して履行すること。
  2. エネルギー消費の削減にあたっては、省エネ効率の高い製品の使用や、生産設備への移行を促す誘導政策を行なうと同時に、流通システムや、都市づくり、ライフスタイルなどエネルギー大量消費型社会となっている現状を見直す政策を強めること。
  3. 太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電事業促進のための技術開発や助成制度の拡充と、それによって発電された電力が、電力メーカーによって安定的に買い取られるような仕組みを創設して、自然エネルギー発電事業に長期的視点で安心して取り組めるような誘発施策を行うこと。なお、2000年から消費者が通常料金より多少割高であっても自然エネルギーによる電力を選択し購入できる「グリーン電力」制度が一部大手電力会社に導入されたが、その実施にあたっては、当該電力会社が、どのような自然エネルギー導入目標を定め、実際に自然エネルギー発電推進のためにどのような投資を行ったか、など消費者が判断可能になるように情報公開を行うこと。また、原子力発電所については、原子力が人類や生態系に与える影響が大きいこと、安全性や放射性廃棄物処理において未解決の問題が大きいことを考慮して、可能な限り原子力発電に頼らない措置をとること。
  4. オゾン層を破壊するフロンや、温暖化を促進する代替フロンについて、大気中への放出を法律によって規制するとともに、その回収・保管・最終処分コストの適正負担をはかるシステムの構築を急ぐこと。

(2) リサイクル・廃棄物処理問題

 大量生産・大量廃棄社会からリサイクルを基本とした循環型社会形成を目指す循環型社会基本法をはじめとした「リサイクル6法」が2000年に成立した。循環型社会基本法には「拡大生産者責任」が明記されている。一連のリサイクル法の実施にあたっては、一部中小企業に過度の負担とならないよう、生産から流通、消費、リサイクルの各段階でそれぞれにふさわしい適正コストを負担するシステムづくりと、消費・廃棄から生産現場へと戻すリサイクルシステムづくりに、メーカーの責任において直ちにとりかかること。また、このようなシステムづくりにあたっては、リサイクルしやすい製品作りや製品の長寿命化、廃棄物の発生抑制に働くようにすること。なお、循環型社会基本法に先立って実施されている容器包装リサイクル法では、必ずしも容器廃棄物の発生抑制に役立っているとはいいがたい。また、2001年4月から実施される家電リサイクル法は、最終消費者が負担するリサイクル料金の設定如何では、不法投棄の増加や、消費者と家電メーカーの間に立つ中小小売店にしわ寄せされる懸念があるので、懸念を払拭する設定にすること。

(3) 環境ビジネスの育成と環境共生型企業への支援

 環境保全型の製品開発や、ISO9000、ISO14000の取得、環境保全対策の推進など環境共生型企業づくりを積極的に進めている中小企業に対しては、技術開発や設備投資資金などで積極的に支援すること。リサイクル品の育成・需要喚起のために、イ)リサイクル品の品質保証を行なう規格の整備、ロ)リサイクル品を事実上閉め出している既存の規格・慣行の見直し、ハ)資源大量消費型製品へのペナルティ(制裁金)、などの措置を講じること。そのペナルティは、一般財源調達のためではなく、あくまで環境負荷を減らす経済活動推奨のためであることを明示すること。

(4) 地球環境保全と地域づくり

 資源小国でありながら、天然資源活用の恩恵に浴してきた日本は、地球環境保全のための国際的取り組みに大きな責任を負っている。1997年に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、二酸化炭素削減に向け率先して取り組むこと。また、公害防止のための技術支援や、砂漠緑化や森林の回復などの環境修復を積極的に支援すること。日本企業による「公害輸出」や環境破壊型「開発」を行なわないような国際社会に通用するルールづくりを強力に推進すること。

 国内の地域開発にあたっては、計画段階からその地域の中小企業や住民に十分な情報開示のうえで参加をもとめ、生態系や自然環境の保全、地域の生活環境、歴史、文化との調和をはかりながら、長期的視点で進めること。また、食糧自給率を高めるため、安全で健康な食べ物を供給する日本農業の健全な発展を図ること。地域づくりでは、農業が、治水や地域環境保全にも役立っていることを考慮した計画にすること。

(5) 国と関係府県とが協力して琵琶湖の水質保全、湿地・干潟の保護を

 世界湖沼会議が2001年11月に琵琶湖で開かれるが、琵琶湖の水質保全の問題は、滋賀県一県を超えた課題になっている。汚れた琵琶湖の再生にあたっては、自然生態系に基づく浄化力に依拠した水質保全のための高度処理システムをつくっていくとともに、琵琶湖の自然を根本から再生させるための対策と実行が必要である。国は関係府県と協力して抜本的な対策を進めること。とりあえず、現時点での琵琶湖周辺の開発計画、湖岸道路等と自然の浄化力とのバランスを勘案して、排出規制基準値の見直しを早急に行うこと。また、地域の意見に基づいて全国的視野に立って湿地や干潟を保護する施策をとること。

12.国民を災害から守る防災対策の充実

  1. 国は、地方自治体と一体となって緊急度に応じた総合的・計画的な防災対策を講じることにより被害を最小限に抑えるとともに、万一災害が発生したときには機敏に対応できるように、所管を超えて都道府県に権限と財源を集中させた知事直轄の「綜合防災本部」(仮称)を直ちに常設するよう自治体に働きかけること。さらに、北海道有珠山噴火、東京三宅島噴火にみられるように、被害が長期にわたる場合、国の支援による「長期自然災害における支援システム」を該当する都道府県に確立すること。
  2. 国は、「東京大震災」に備えた防災対策事業を、東京都及び特別区と協力しながら、中小企業の参加を条件にして、以下の措置を強力に推し進めること。1.既存建築物の耐震診断を大規模に実施すること。関連して、耐震診断費と防災改修工事の助成措置及びセーフティローン斡旋制度の金利助成の拡充措置をはかること。2.防災向けの耐震防災住宅の建設、簡易地下室「地震シェルター」建設の研究と普及・支援を図ること。3.都市防災不燃化事業の対象地域の拡大と個別住宅の防災不燃化を推進すること。4.地域住民と地域企業の防災活動への組織化とともに地域防災のあり方・行動について検討する場の設置を図ること。さらに、地域住民・中小企業から地震対策のアイデアや意見を募集したり、防災対策のコンテストなどを企画すること。

 以上の措置はすべての都市に共通するものであるから国の強力な指導が望まれる。

13.高齢社会・少子化社会への対応策整備

  1. 公的介護保険の導入によって、導入以前の介護水準より切り下げられる、あるいは介護から切り捨てられる、負担だけが増大する、といった事態が生まれている。こうした不安を抜本的に解決させて、高齢者が安心して生活できるような政策へ転換すること。
  2. これからの街づくりにあたっては、高齢者や障害者に優しいという基本視点を入れた構想の実施に対して政策的に支援を強めること。さらに、高齢者や障害者が生きがいを感じられるような社会参加の仕組みづくりと若者や健常者とのふれあい・交流の仕組みづくりに力を入れて整備すること。
  3. 移動入浴車やデイサービスの充実を図るとともに、在宅型介助機器の公的リース、さまざまな老人施設・障害者施設のマンパワーの充実に努めること。
  4. 高齢化に対応して福祉政策と連携したバリアフリー住宅化の推進と高齢者が安心して暮らせる環境づくりを図ること。また高齢社会を迎えるにあたって、セキュリティ(地域ボランティアもふくめた巡回サービス)や福祉サービスの水準を緊急に向上させること。
  5. 安心して子どもを生むことができるような環境づくり(住宅問題、労働保障などを含む)と児童手当、教育への援助措置を拡充すること。

14.住生活のレベルアップと生活重視型土地対策

  1. ゆとりと豊かさのある国民生活にとっては、なによりもまず最も重要な基盤である住生活のレベルを上げていくことが肝要である。このため、良質な住宅そのものの蓄積と安全で快適な住環境の整備を強力に推進することにより、居住水準の向上を図ること。さらに、良質な賃貸住宅が大量に供給されるよう制度の見直しや助成措置を講じてライフサイクルに応じて住宅選択の幅が拡大するよう整備すること。
  2. 住生活の充実を図るためには、地価を適正な水準に戻す対応策が求められる。権限を大幅に地方自治体に委譲して、都市計画法等により生活用地を確保し、地域に多様なライフステージの市民が住み続けることができる街づくりをすすめるなど、国民生活重視型の姿勢を鮮明にした土地対策を講じること。

15.政官財の癒着・腐敗をなくし清潔な政治・行政の確立と武力によらない国際貢献

  1. 政府の役人・政治家と民間業者との贈収賄事件や高級官僚による不祥事は、あとを絶っていない。KSD事件はその典型である。このような事態が続くと国民の政治家や行政への不信は強まり、ひいては日本の将来を危うくするもとになる。政治腐敗を招く根元である政党への企業献金・団体献金は禁止すること。政治・行政に対する国民の信頼を回復させるために、公務員倫理の確立と厳正な実行、高級官僚の関連業界への天下り禁止、国民への情報公開などについて、さらに真剣な努力を行うこと。
  2. 戦後日本の経済的繁栄は、日本国憲法のもとで平和裏に経済活動に専心できたことによってもたらされてきた。中小企業は平和な社会でのみ繁栄を続けることができる。これは世界共通の流れである。日本国憲法の平和理念は世界的な輝きを持っているから日本は武力によらない国際社会への貢献の道をもっと真剣に探求すること。

16.中小企業に関する統計・調査資料の整備と公開推進

 中小企業が果たすべき大きな役割に比較して中小企業の実態の諸側面を定量的に調査した各種統計の整備及び調査の公表が遅れているから速やかに改善すること。とくに労働経済、金融問題など中小企業の基礎的な指標の整備は緊急性を要している。また、中小企業白書に掲げられている調査資料には公表されないものが多い。これらの調査資料は、原則公表・公開へと改めること。