2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

2003年5月吉日
中小企業家同友会全国協議会 会長 赤石義博

【1】 中小企業が求める経済社会の構想と私たちの基本姿勢

 私たち中小企業家同友会全国協議会[略称・中同協]は、1969年(昭和44年)設立以来、自助努力による経営の安定・発展と、中小企業をとりまく経営環境を是正することに努め、1973年(昭和48年)以降毎年、国の政策に対する要望・提言を、政府各機関とすべての政党および国会議員にお伝えし、懇談を積み重ねて参りました。

 日本経済は、政府の「景気底打ち」宣言にもかかわらず、中小企業景気は悪化の度合いを深めており、多くの中小企業が経営危機に直面する可能性があります。連鎖倒産を回避し、地域経済の崩壊を防ぐためにも緊急かつ抜本的な経済政策が切望されています。

 この10数年間にアメリカやヨーロッパの先進諸国は経済社会における中小企業の果たす役割を的確に評価して中小企業重視へと政策転換を行っています。2000年にはEUが「欧州小企業憲章」(リスボン憲章)を採択し、「小企業は、ヨーロッパ経済のバックボーンである。主要な雇用の源であり、ビジネスの発想を育てる大地である」と宣言しています。また、OECDも同年に採択した「中小企業政策に関するボローニャ憲章」で、中小企業が普遍的な存在として重要であることを認識した政策を行うことを強調しています。

 わが国では1999年に中小企業基本法が改正されたにもかかわらず未だ政策転換は遅れています。中小企業政策は、ベンチャー企業の育成や創業だけにとどまらず、健全な企業家精神を持つ多様で多数の中小企業の「経営革新」等の自主的経営努力を着実に実らせるために、現実的かつ適切にバックアップすることに力を入れなければなりません。

 私たちは、中小企業経営を守る政策対応を強く要望するとともに、日本経済において地域に根ざした中小企業が果たしている役割を正当に評価し、従来型の補完的役割という政策比重の置き方を抜本的に転換させ、中小企業政策を産業政策の柱とする姿勢に転換することを提言するものです。

 これまで同友会は、産学官連携の実践など地域振興への寄与にも微力ながら一定の役割を果たして参りました。私たちは、自らの基本姿勢の確立に努め、中小企業家としての社会的責務を果たし、日本経済と中小企業が発展できる環境をつくるために下記のような経営環境・金融環境を求め、行動するものです。関係各位のご協力、ご支援を要望します。

1.私たちが望む経営環境とは

(1) 日本経済が地球環境に配慮した「維持可能な成長」をめざす中で、景気回復と食糧自給率の向上等バランスのとれた経済の実現などを実現し、人間らしく豊かに暮らせる国民経済を充実させ、中小企業が国民とともに繁栄できる日本経済をめざすことです。

(2) 大企業中心の産業政策ではなく、中小企業重視を産業政策のなかに据え、国民経済を積極的に支えていく存在として中小企業を位置づけることです。また、中小企業の取引・競争上の不利是正と健全な競争ルールが確立されることです。

(3) 企業の社会的責任を自覚し、健全な企業家精神を発揮して経営をしている中小企業の自助努力が生かされ、中小企業の自立的発展を促進するような経営環境を整備することを望みます。

(4) 国の権限や財源を自治体に委譲し、地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことが出来るようにすることです。また、産業空洞化をくい止めながらアジア各国と共存するためにも、日本の特性を生かした魅力ある地域づくりと地域産業起こし・仕事づくりを推進することです。

(5) 自然エネルギー関連産業など中小企業が参入可能な環境保全・自然再生型の産業システムの形成をめざすとともに、中小企業の知恵と人材を生かせる生活基盤整備・環境保全・自然再生・防災型の公共事業を拡大することです。

(6) 新しい時代の人づくりを積極的に行うこと。政府の唱える「人材大国」を実現するために、人間らしく育つための教育・人材育成環境の重視と生涯関わることのできる職業能力開発の基盤整備を進めることです。

(7) 金融アセスメント法(仮称)を制定し、円滑な資金供給と地域・中小企業にやさしい21世紀型金融システムを構築することを望みます。

2.中小企業家同友会の5つの基本姿勢・行動指針

(1) 私たちは、厳しい経営環境の中でも企業の継続発展に全力を尽くし、雇用確保と魅力ある企業づくりに取り組みます。今後の景気後退の嵐を乗り切る経営指針・戦略と社内体制の構築に総力を傾けつつ、大学や金融機関等との連携、行政施策活用などを積極的に進め、企業を守り、新しい市場創造に挑戦します。

(2) 私たちは、経営指針の確立と全社的実践に努力し、21世紀型企業((1)お客様や地域社会の期待に応えられる存在価値のある企業、(2)労使の信頼関係が確立され、士気の高い企業)づくりをめざします。特に、企業活動の「血液」である金融を確保するためにも、経営指針を通じて金融機関の理解を深めながら、地域での金融機関との連携を強化します。

(3) 私たちは、企業活動を通じて納税者としての社会的責任を果たすとともに、税金の適正な使い方や行政のあり方にも関心を持ち、提言・行動します。とりわけ、公共投資を従来型公共事業から、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視の生活整備型・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させることを求めます。

(4) 私たちは、企業の社会的責任を自覚し、環境保全型社会づくりに取り組みます。環境負荷の少ない企業活動を実践するとともに、エコロジーとエコノミーの統一による仕事づくりや地域づくりを行政・市民団体等と協力しながら挑戦します。

(5) 私たちは、経営者自らの教育を含めた21世紀の最も貴重な資源である人づくりと次世代を担う若者が働くことに誇りを持てる職場と社会の環境づくりに努めます。

 以上の認識に基づいてここに政策要望・提言を提出する次第です。

【2】 2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

1.円滑な資金供給と中小企業・地域に優しい金融システムの構築を

(1) 中小企業・地域が健全かつ社会的に望ましいかたちで発展していくために、「円滑な資金需給」「利用者利便」などの視点から必要な情報を収集して金融機関の活動を評価し、公開する「金融アセスメント法」(仮称)を法制化すること。

(2) ペイオフ解禁は、中小企業にかかわりの深い地域金融機関の預金の流失を促進させ、中小企業への資金パイプを狭めるばかりでなく、地域金融機関の存立を危うくする懸念がある。2005年からペイオフ完全解禁が予定されているが、預金保険法によるペイオフ発動の実効猶予措置を直ちに宣言すること。

(3) 2001年3月まで実施された「特別信用保証制度」の一部を変更し、これまでに返済した金額の範囲内で当該企業への再融資を認める制度を創設すること。

(4) 貸し渋り・貸し剥がしが横行する金融環境の中で、制度融資・信用保証制度は中小企業にとって大きなよりどころとなっている。その充実のため次の措置をとること。

  1. 中小企業の不良債権処理での金融機関の一方的な整理回収機構(RCC)送りによる倒産を防止するため、当該企業の債務が信用保証付融資の場合、債務者の意向を尊重し、企業と金融機関、信用保証協会の三者の協議によって対処する措置を講ずること。
  2. 2003年4月より、保証料率が0.3%引き上げられたが、低金利の中、一般保証料率を1.3%とすることは保証料の負担感を突出させる。引上げをやめ、むしろ保証料免除措置の導入を検討すること。また、連帯保証人の要らない制度融資の拡充を進めること。
  3. セーフティネット保証制度における連鎖倒産防止の1号認定は官報告示日から実施されるが、取引先倒産(民事再生法を含む)後、官報掲載まで日数がかかり、融資実行まで対応しきれないこともある。倒産等の事実が明確な場合、官報告示前に前倒しでの実施ができる措置を検討すること。
  4. 2003年2月から実施された「資金繰り円滑化借換保証制度」の利用に際しては、公的制度として中小企業の資金繰りを改善するものであり、条件変更を一律に条件緩和債権扱いにしない措置を取ること。
  5. 信用保証協会が行なう「信用保証」の重要な役割は、担保力に乏しい中小企業金融の円滑化をはかり、中小企業を健全に育成するという信用補完機能にある。したがって物的担保優先主義を克服した信用保証協会こそが本来の姿であり、保証条件の緩和をさらに進めること。「無担保無保証人融資」は、1250万円に引き上げられたが、段階的に3000万円まで拡充すること。
  6. 中小企業創造活動促進法や中小企業経営革新法に基づく許可、承認を得た企業に対する制度融資に関して、従来型の審査ではなく、計画の内容を適切に評価した制度運用を行うこと。

(5) 不良債権早期処理の中小企業への影響を最小限に抑えるため、次の措置をとること。

  1. 不良債権問題への金融機関の対応では、借り手企業の経営健全化への支援、債務者区分のランクアップ支援を第一義とすること。金融機関が中小企業に経営指導を行い、金利減免や返済猶予をする場合、貸出債権の債務者区分の格下げをしないこと。
  2. 倒産防止共済制度は、共済金の貸付の償還期間を5年から10年に延長すること。また、共済の口座を設けている当該金融機関に延滞がある場合、共済金貸付と他の貸付が強制的に相殺されている。これは、倒産防止の緊急性と本来の趣旨に反するものであり、国として差押禁止条項を設けるなど制度の機能の確保につとめること。
  3. 事業者と金融機関の融資上の取引トラブルを調停あっせんする緊急の窓口・機関を金融庁又は都道府県に設置すること。当面、金融庁の「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」を拡充し、寄せられた情報の公開と相談案件の仲介機能を持つようにすること。
  4. 中小企業が倒産した場合、個人の最低限の財産保障と再起できる条件を整備するため、破産法の改正など個人保証の有限責任化を進めること。また、経営者が倒産した際に家族との生活を維持し、再起ができるための共済制度などの創設を検討すること。当面、小規模企業共済制度を加入資格要件(従業員20名以下等)の緩和などの拡充をはかること。また、倒産時などで共済の口座の当該金融機関に延滞がある場合、差し押さえされない措置など制度の整備をはかること。

(6) 「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編」の拡充を行うこと。

  1. 資産査定の検査対象外とする基準を与信額2千万円から5千万円程度の債務者まで拡充すること。バーゼル銀行監督委員会は、小規模事業融資については与信額合計100万ユーロ(約1億2千万円)未満である場合に限り、当該与信を内部格付手法におけるリテール与信の枠組みで取り扱うことを認めており、日本も同様の拡充をすべきである。
  2. 自己資本比率算出での中小企業貸出リスクウェイトは、不動産担保部分のリスクウェイトを住宅ローン同様に50%に下げること。バーゼル委員会の新BIS規制では、標準的手法のリスクウェイトを住宅ローンは50%から40%に、与信額1億円程度未満の中小企業向け融資も100%から75%に下げられるとしている。これは2006年末から適用が開始されるとしているが、日本においては前倒しでの導入をはかること。
  3. マニュアル別冊を発展させ、中小企業向け別基準の金融検査マニュアルをつくること。

(7) 民間金融機関では拘束預金が依然として継続されている。これは、「取引上の優越的な地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するおそれがある。公正取引委員会、全国銀行協会連合会などを通じての監視と指導の強化を改めてすすめること。

(8) 「貸し渋り」は、政府系金融機関の役割の大きさを改めて実証した。政府系中小企業金融機関を整理統合することは中止し、むしろ設立時の原点に立ち返ってそれぞれの金融機関の特性、補完的役割を生かして育成する政策方向をとること。

2.新しい内需を喚起し、中小企業を活性化させる景気回復策を

(1) 中小企業が地域で取り組んでいる新規事業、事業転換、グループ化、ネットワーク化などのさまざまな「新しい仕事づくり」――それらは市場としては小さいが市場を深く掘り起こす多種多様な事業であり、地域経済を活性化させ国民生活を豊かにすること、地域雇用を維持し拡大することに結びついている――を有効な景気回復策として位置づけて、積極的に支援すること。

(2) 観光・余暇、教育、医療、安全性など人間の活動能力の発展をはかる社会的ニーズや防災対策、環境保全、高齢化・福祉、地域づくりなど社会生活の中から新しい内需を誘発しようとする中小企業を戦略的に支援する地域産業政策を展開されたい。

(3) 国は、地域再生産業集積(産業クラスター)計画を進めているが、これまでのような「上から」の産業政策の発想を転換し、文字通り「地域経済の実態を踏まえ、地に足がついた経済産業政策」としなければ、成果を期待できない。地域に根ざした産業クラスター形成とするため、「世界市場を目指す中堅・中小企業」3000社、19プロジェクトに限定的に取り組まれている計画をより地域でオープンな参加を促すものにすること。

(4) 健康保険や介護保険、年金、雇用保険など2003年度からの社会保障関連の負担増は目白押しであり、消費意欲をさらに低下させて不況を一段と深刻なものとする。加えて、中小企業の事業主負担の増大は中小企業経営への打撃ともなる。当面引上げを中止すること。

(5) 特許審査料の2~3倍の値上げが検討されているが、デフレ時代に突出した料金値上げであり、国がめざす「知的財産立国」の流れに逆行するものであるので見直し計画を中止すること。また、特許審査料の減免制度の要件を大幅に緩和し、中小企業の負担軽減をはかること。さらに、特許出願を取り下げた場合、審査に着手していなければ特許審査料を返還すること。また、2003年度より郵政公社化が実施されたが、第三種郵便等の値上げは行わないこと。

(6) 従来型の公共事業から、環境にやさしくしかも地域を豊かにし、地域雇用に果たす役割も大きい、生活基盤整備・社会福祉・環境保全・防災重視の生活整備型・自然再生型の公共投資へ抜本的に転換させること。国の官公需の中小企業向け発注は、閣議決定の中小企業への官公需発注比率を現行水準の約4割から6割に拡大すること。景気回復をはかるために、地域経済の実情に応じた発注を行なうとともに、一定の質をもつ公共工事価格を適正価格のナショナルミニマムとして位置づけて、モデル化すること。また、技術的に可能な限り分離・分割発注の拡充、一定金額以下の発注を中小企業に限定する制度の導入、施工準備金・前払い制度の活用、発注の平準化推進、官公需適格組合の積極活用を図ること。

(7) 国は大震災に備えた防災対策事業を自治体と協力して以下の措置を強力に推し進めながら、中小企業の参加、仕事づくりにつながる事業とすること。(1)既存建築物の耐震診断を大規模に実施すること。関連して、耐震診断費と防災改修工事の助成措置及びセーフティローン斡旋制度の金利助成の拡充措置をはかること。(2)防災向けの耐震防災住宅の建設の研究と普及・支援を図ること。(3)都市防災不燃化事業の対象地域の拡大と個別住宅の防災不燃化を推進すること。(4)公立学校など公共施設の耐震改修の推進。

(8) 防災対策と都市美観の向上による観光促進策、そして内需喚起の「起爆剤」として、電柱の地下埋設工事の全国一斉工事を計画すること。各都市が指定地域を設定し、地元工事業者が参画する電柱埋設工事を一斉に実施すること。

(9) 安心と活力のある少子高齢化社会をめざし、(1)移動入浴車やデイサービスの充実、在宅型介助機器の公的リース、老人施設・障害者施設のマンパワーの充実に努めること。(2)バリアフリー住宅化の推進や民間グループホーム建設への支援など高齢者が安心して暮らせる環境づくりを図ること。また、巡回サービスなどセキュリティや福祉サービスの水準を緊急に向上させること。バリアフリー住宅・福祉機器開発を行なっている中小企業への支援(開発促進、市場の開発)を行うこと。(3)中古住宅市場の整備など実物資産を有効活用した豊かな消費生活を実現すること。(4)良質な賃貸住宅が大量に供給されるよう制度の見直しや助成措置を講じてライフサイクルに応じて住宅選択の幅が拡大するよう整備すること。

【2】 2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

3.中小企業が活躍できる環境保全型・自然再生型の維持可能な社会システム構築

(1) 環境保全・自然再生型公共事業の拡大と小規模分散型産業の推進

(1) 中小企業の知恵と人材が活かせる環境保全・自然再生型の公共事業を拡大すること。イ)コンクリートによる河川護岸工事を中止し、自然再生型の川づくりを進め、自然を復活させること。ロ)太陽光や風力、バイオマス等の自然エネルギービジネスに挑戦する中小企業を新しいタイプの公共事業に活用すること。ハ)地域の防災や雇用に貢献する地域分散型エネルギーシステムづくりやリサイクルの推進に努めること。

(2) 自然エネルギーや文化的資源など地域の固有資源の産業化・事業化に取り組む中小企業を産官学民(市民)・金融の連携で支援すること。このような新しい時代の市場創造は、環境保全、地域づくり、人づくりなど多角的な経済的波及効果を期待できる。

(2) 地球温暖化・エネルギー問題

(1) エネルギー消費の削減では、省エネ効率の高い製品の使用や、生産設備への移行を促す誘導政策とともに、流通システムや都市づくり、ライフスタイルなどエネルギー大量消費型社会となっている現状を見直し、地域分散型エネルギー政策への転換を強めること。

(2) 太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電事業促進のための技術開発や助成制度の拡充と、電力メーカーによって自然エネルギーによる電力が安定的に買い取られるような仕組みを創設して、自然エネルギー発電事業に長期的視点で安心して取り組めるような誘発施策を行うこと。なお、「グリーン電力」制度の実施にあたっては、当該電力会社が、どのような自然エネルギー導入目標を定め、実際に自然エネルギー発電推進のためにどのような投資を行ったか、など消費者が判断可能になるように情報公開を行うこと。また、原子力発電所については、安全性や放射性廃棄物処理等において未解決の問題が大きいことを考慮して、可能な限り原子力発電に頼らない方向をめざすこと。

(3) 自動車NOx・SOx法の規制対象となる中小運送業者への支援措置(税制、買い替え融資等)を格段に強化すること。

(3) リサイクル・廃棄物処理問題

循環型社会形成を目指す一連のリサイクル法の実施にあたっては、一部中小企業に過度の負担とならないよう、生産から流通、消費、リサイクルの各段階でそれぞれにふさわしい適正コストを負担するシステムづくりへの見直しを行うこと。新たに法制定が検討されている自動車や家庭用パソコンのリサイクルシステム構築にあたっては、先行して実施されている容器包装リサイクル法や家電リサイクル法の実態を分析し、これまでリサイクル・廃棄物処理を下支えしてきた最終処分業者など各分野における中小企業の参加を求め、最も環境負荷が少なく、コストが適正分担できる地域循環型システムを検討していくこと。また、このようなシステムづくりにあたっては、リサイクルしやすい製品作りや製品の長寿命化、廃棄物の発生抑制に働くようにすること。

(4) 小規模分散・地域密着型環境ビジネスの育成と環境共生型企業への支援

環境保全型の製品開発や、ISO9000、ISO14000の取得、環境保全対策の推進など環境共生型企業づくりを進めている中小企業に対しては、技術開発や設備投資資金、さらには既存技術を組み合わせたシステムづくりについても積極的に支援すること。環境に配慮した製品の育成・需要喚起のために、イ)リサイクル品の品質保証を行なう規格の整備、ロ)リサイクル品を事実上閉め出している既存の規格・慣行の見直し、ハ)環境に配慮した製品の競争力を高めるための資源大量消費型製品へのペナルティ(制裁金)などの措置を講じること。また、地域内資源循環や、究極的に廃棄物をなくすゼロエミッション型環境ビジネスを推進する地域ネットワークづくりを支援すること。

(5) 地球環境保全と農業の保全

日本は、1997年に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、京都議定書を批准し、二酸化炭素削減に向け率先して取り組むこと。また、各国で行われている公害防止のための技術支援や、砂漠緑化や森林の回復などの環境修復の支援を行うとともに、その支援を積極的に行っているNGOなど民間団体への支援にも力を入れること。日本企業による「公害輸出」や環境破壊型「開発」を行なわないような国際社会に通用するルールづくりを強力に推進すること。国内の地域開発にあたっては、計画段階からその地域の中小企業や住民に対する十分な情報開示のうえで参加をもとめ、生態系や自然環境の保全、地域の生活環境、歴史、文化との調和をはかりながら、長期的視点で進めること。また、食糧自給率を高めるため、安全で健康な食べ物を供給する日本農業の健全な発展を図ること。地域づくりでは、農業が、治水や地域環境保全にも役立っていることを考慮し中小企業が主役になる計画にすること。

【2】 2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

4.市場創造と経済再活性化を支える税制

(1) 法人税のあり方について

(1) 留保金課税の停止…留保金課税は、2003年度から3年間、資本金が1億円以下で自己資本比率が50%以下の中小法人に適用が停止された。このことは、私たちの要望の反映ではあるが、内部留保の積み増しは経営の根本に関わる問題であるので、時限措置でなく恒久的な措置として明確にすべきである。

(2) 政策減税=租税特別措置法の整理縮小…2003年度の景気刺激策として試験研究費を中心に減税策が作られた。中小企業への一定の配慮はされているが、需要を作り消費を喚起する本質的な景気刺激に程遠いだけでなく一層税制を歪めるものになっている。将来の景気回復時に税収の大幅な改善を図るためにも、政策的税制を整理縮小(租税特別措置法の整理縮小)し、税収確保の筋道をつけるべきである。

(3) 累進税率の導入…深刻な歳入欠陥、税収不足の中で国際競争力を理由に法人税率の一層の引き下げが叫ばれている。法人税において累進税率を提案する理由は、財源確保ということだけでなく負担すべき能力のある企業が財政上の負担をするという社会的な要請として考えなければならない。応能負担原則は法人税においても実現すべき原則であり、次のような累進税率の導入を提言する。すなわち、所得1500万円まで15%(資本金1億円未満)、所得5000万円まで25%、所得5億円まで34.5%、所得5億円以上40%。ただし、個人にたいして法人が相対的に有利になることを是正するために、現行の法人税を個人事業も対象に含めた企業税(仮称)に改めることも税率と合わせて検討すること。なお、このような累進税率を導入した場合でも、財政にたいしては中立すなわち増減税ゼロになる。

(4) 交際費課税の全額損金算入…交際費課税については、2003年度改正から中小企業(資本金5000万円超1億円以下の法人)の損金算入制度の定額控除限度額が0円から400万円に引き上げられた。さらに現在中小企業の損金算入枠が20%削られているが、その枠を10%に引き下げた。この措置は中小企業の実態に合わせた一定の改善として評価できるが、中小企業の交際費損金算入枠は、本来の「全額損金算入」に戻すべきである。さらに、交際費の範囲を明確にして、中小企業の経営の実態に即した交際費課税になるように改善を図るべきである。

(2) 消費税について

(1) 消費税の税率引き上げに反対する…日本経団連をはじめ政府・与党内にも消費税の税率引き上げに積極的な意見が多い。税率引き上げの主な理由は、少子高齢社会における社会保障費の需要増大に備えるためであるというが、実際には消費税は公共事業費や国債の返済・利払いに充てられてきた。仮に消費税の税率を引き上げたとしても、膨大な国債の返済に充てられ、社会保障費に回る可能性は少ない。また、大型間接税=消費税は所得税の納税義務のない低所得者にまで同一の負担率を求める不公平税制であり、福祉財源として最も相応しくない税制である。加えて、消費税の税率引き上げは更なる景気後退をもたらす。景気回復のためには消費税の税率を引き上げるのではなく、反対に消費税減税を行ない国民・中小企業者の負担を軽減すべきである。

(2) 中小事業者特例の縮小に反対する…政府・与党は消費税の透明性を確保する(益税をなくす)として、事業者免税点を3,000万円から1,000万円に、簡易課税適用上限を2億円から5,000万円に引き下げる方向を打ち出した。新たに課税事業者に巻き込まれる小規模事業者はおよそ150万、簡易課税制度が適用されないこととなる事業者がおよそ56万社と推定される。これらの中小事業者は消費税を完全に転嫁する制度上の保証がなく、益税どころか、消費税を自己負担することとなる。その結果、大量の滞納が発生するおそれがある。現に消費税の滞納税額は毎年7,000億円(消費税収入のおよそ7%)も発生し、約100万の事業者(全納税義務者のおよそ45%)が滞納している。これは消費税が完全に転嫁できていない証拠である。免税制度や簡易課税制度は完全転嫁ができない中小事業者の生業権を保証するための特例であり、憲法の要請する応能負担原則に適う制度である。特例の縮小は中小零細事業者に実質的な増税をもたらし、資金繰りを圧迫し、倒産の引き金となりかねず、長引く不況を一層深刻なものにするので、中小事業者特例の縮小は行わないこと。

(3) 消費税の内税化に反対する…与党税調は、「消費者に対して商品の販売等を行うに際し、その商品等に係る消費税の額を含めた総額を明らかにすることを義務付ける」としている(2004年4月1日から適用)。これは現在、デパートやスーパー等が消費税を外税方式によっていることを改め、内税方式(総額表示方式)にするというもの。総額表示方式とは定価を示したうえ、そのうち消費税が○○円含まれていると表示する内税方式で、税が価格に埋没し、消費税が見えにくく不透明になる。内税化は実務的にも価格の付け替え作業などの煩瑣をもたらす。すでに日本チェーンストア協会は流通業界の要望として、「消費者は外税に慣れているし、便乗値上げも考えられなくもない」として内税に反対の意向を表明している。内税化は税率引き上げの前提となり、安易な税率引き上げを招くことになるので反対である。

(3) 所得税について

(1) 配偶者特別控除の廃止反対…政府・与党は配偶者特別控除廃止を2004年1月1日から実施するとしている。配偶者特別控除は1986年10月の「税制の抜本的見直し」において、大型間接税導入による家計の負担軽減措置として導入されたものである。政府税調は配偶者特別控除の廃止理由として、この制度が男女共同参画社会形成の観点から好ましくなく、女性の社会進出を阻害しているからだという。だが、女性の社会進出を阻害しているのは、不況による労働市場の減少と社会環境整備の遅れにある。もし配偶者特別控除を廃止するなら、その分を基礎控除に回すべきである。配偶者特別控除の廃止は中・低所得者に税負担をもたらす各種所得控除廃止のための先鞭的役割を果たすものであり、景気を一層後退させる結果となるのでその廃止に反対する。

(2) 給与所得者を中心とする所得税大増税の方向に反対する…中・低所得者層に対する所得税大増税の方向は配偶者特別控除の廃止をはじめとして次々に用意されている。与党税調は次年度以降の検討事項として、給与所得控除の縮減、生命保険料・損害保険料控除の廃止、年金課税の強化、社会保険料控除の縮小などをあげている。このほか、特定扶養控除、同居老親控除、勤労学生控除、寡婦・寡夫控除の廃止、老年者控除の縮小などを視野に入れ、課税最低限の大幅引き下げを図るとしている。とくに給与所得控除額の圧縮による増税は、給与所得者の手取額を減少させ可処分所得を小さくする。その結果、消費意欲は一層低下し景気はますます後退する。景気を回復させるためには国民の多数を占める中・低所得者層の懐を暖めることが得策である。そのためには、所得再分配機能を持つ超過累進税率構造を強化し、中・低所得者層の減税を行うべきである。

(3) 年末調整制度の廃止…給与所得者に対する年末調整制度は、従業員のプライバシーを侵すなど違憲性がある制度であり、また、企業の事務負担や経済的負担も大きい。給与所得者は個々の実情に基づき、事業者と同様、必要経費を実額によって控除することが望ましいが、仮に給与所得控除制度を残したとしても、年末調整を行うか否かを選択制にするとともに、給与所得控除と実額経費控除についても選択制にすることとする。

(4) 中小企業の事業承継について

政府税調は2003年度の相続税・贈与税の改革において、高齢化の進展に伴って次世代への資産移転が大幅に遅れてきているとして、生前贈与の円滑化に資するため相続税・贈与税の一体化の措置を導入するとしている。この措置が中小企業の事業承継を円滑に行う上で有効なものと考える。しかし現行の最高税率で課税されている相続は年間10件ほどに過ぎず、ごく少数の資産家に限られている。個人所得税を補完し、富の再分配を図り社会の公正化・活性化を促進するという相続税の役割からすれば、現行の累進税率を維持すべきである。また富の再分配機能のためにはこれ以上課税ベースを拡大すべきではなく、むしろ現行の基礎控除を大幅に引き上げ、一定水準の資産家に限定して課税すべきである。さらにアメリカの97年度税制改正に習い、わが国においても中小企業の事業承継が円滑に行われ日本経済の健全な発展に寄与出来るよう抜本的な相続税の改革が必要である。

(1) 相続税の基礎控除を1億円程度に引き上げること。政府税調は中期答申で「平成10年では死亡者100人当たり約5人(5.3%)」が対象になっているといっているが、高度成長によって地価が騰貴する前の昭和30年代は100件の相続事例のうち相続税の対象になるのはわずか1件(課税対象割合1%)。その後、地価高騰により相続税の対象となる割合が著しく増大した。富の再分配を必要とする一部の資産家に対する税である相続税の本来の姿に戻すためにも基礎控除を1億円程度に大幅に引き上げること。

(2) 事業用資産については、事業を承継するという条件の下で事業承継猶予制度を設けて10年以上事業を承継した場合、一定額を免除すること。事業承継は、事業自体の存続を前提にするから取引価額で資産を評価すること自体が問題である。事業用資産については、事業を継承するという条件の下で以下のような事業承継猶予制度を設けること。

イ)事業用資産については通常の評価額とは別に「事業承継価額」で評価する。
ロ)事業承継者は事業用資産を「事業承継評価額」で評価した税額を納付し、通常の評価額で評価した場合の税額との差額は猶予される。
ハ)10年以内に事業を廃止した場合は当該差額を納付する。
ニ)10年以上事業を承継した場合には当該差額を免除する。

 上記中期答申では、農地に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例は、農業政策の視点から、法律上、その利用・転用・譲渡が厳格に制限されていることなどから認められているとしているが、中小企業の事業承継にもこのような制度が必要である。なお、アメリカやドイツでは5年~10年の事業承継を条件とした事業承継制度を導入している。

(3) 自社株式評価には企業の利益水準をベースにした収益還元方式による評価方法を導入すること。株式評価については、自社株式は流通性がなく資金化が困難であることに加えて企業の存続を前提にすると、企業の利益水準に基づいた収益還元方式による評価が適切である。純資産価額方式の評価において、土地の評価は上記の「事業承継価額」とすることが、収益還元方式へ移行するまでの経過措置として残されている。

(5) 地方税制について

(1) 外形標準課税の導入反対…商工団体の反対運動の中で、課税標準を付加価値だけでなく所得割や資本割りとしたり、資本金1億円超の法人に限定し一定の緩和措置をとっているが、イ)担税力のない赤字法人にも大きな負担を強い、中小企業の7割に達する欠損法人に深刻な問題をもたらす、ロ)報酬給与額などを課税標準とする「賃金課税」であり、企業の人的投資を妨げて雇用抑制する、ハ)規模が小さい法人ほど税負担倍率が大きくなるという問題点の解決にはなっていない。従って、不況をさらに深刻にし、日本経済の活力削減につながる重大な欠陥がある税制であるので導入を中止すること。

(2) 固定資産税・都市計画税は担税能力に応じた方式に…固定資産税の地価公示価格に連動した評価は、多くの訴訟や自治体の反対決議に見られるように連年の地価下落の状況にもかかわらず税額が増額するなど非現実的である。固定資産においても負担能力に対応した収益還元による評価方式に徹底すること。さらに、都市居住・営業が確保されるためには都市計画と結びついた適切な軽減措置をとること。また、都市計画財源のために徴収されている都市計画税の存在意義を明確にして適切な都市計画財源として企業の経営環境確保のための都市形成に使用すること。

(6) 税務行政の執行に関する手続規定の整備について

(1) 納税者権利立法を…総務庁行政監督局(当時)は、国税庁に対し、行政監察に基づき改善を勧告した(2000年11月)。先進諸国では、納税者権利立法を中心とした税務行政の改革が行われている。よって、税務行政の公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資する観点から、早急に国税通則法の改正を行うこと。

(2) すべての税務取扱通達の事前手続、事前・事後審査、国会での関与と、事務連絡等を公表すること。

(3) 租税法規の解釈に関する事前表明手続(アドバンス・ルーリング、クロージング・アグリーメント)を制度化すること。

(4) 文書による調査の事前通知、理由開示及び終了通知を徹底すること。

(5) 国民に周知されぬままKSK(国税総合管理)システムが全国展開され、電子申告制度の導入に移行された。早急に自己情報の公開とプライバシー保護措置を講ずること。

(7) 納税者番号制度について

導入に向け、具体的な成案を得るべく早急に検討を開始するとあるが、具体的な活用の仕方、個人のプライバシーの保護と厳格な各種の規制など、種々の問題が十分検討されない上、周辺法の整備も不充分であり、採用すべきでない。「住基ネット」の住民票コードの利用は行わないこと。

(8) 税の使途に関する情報公開

納税者としての社会的責任がある立場から、租税収入の中身と租税の使途、予算、決算の対比を正確に知る権利がある。単年度会計制度の弊害として、公共事業費、防衛関係費等の後年度負担と消化主義がある。企業会計と同じく発生主義による複式簿記会計方式及び財産目録の明示、または後年度負担項目については脚注に詳述すべきである。財政公開は憲法第91条に定められていることからも、国の財政情報を制度的に整備すること。

(9) 低金利国債への借り換えと累増にストップを

税収、国債発行額ともに戦後最悪の水準で、国債依存度は44%、国と地方の長期債務残高は686兆円で国内総生産(GDP)の1.4倍にもなり、欧米諸国に例のない水準となっている。利率の最高は3.3%、加重平均で2.68%だが、公定歩合が0.1%という超低金利の時期にあっては、「国債規則」に基づき、低利借り換えで利払いを圧縮すること。また、不要・不急の大型公共工事を凍結し、抜本的に見直すこと。

【2】 2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

5.透明で公正な市場のルールをつくり取引を適正化する公正競争の確立

(1) 市場の歪みを「市場原理の尊重」下で是正するには中小企業の市場参入の機会が公平に保証されなければならない。それには中小企業に不当な不利益を与える不公正取引に対して市場のルールを守るべく厳正・迅速な政策的対応が不可欠である。そのために、(1)独占禁止法の「厳格な運用」と新たな強化をはかり、遵守させること。(2)公正取引委員会の権限の強化と司法機能の強化および独禁法の私訴規定のさらなる充実を図って、ルール違反防止と不公正取引の是正・防止を厳正に実施すること。(3)経済産業省設置法でうたっている「市場における経済取引に係る準則の整備」を取引適正化のために行うこと。

(2) 行政手続法等を活用し、許認可手続きの迅速化、手数料負担の軽減など中小企業の日常業務の規制撤廃・緩和を進めること。行財政情報の開示を行なって透明度を高めること。

(3) 公正な取引の視点から以下の3点について取引条件の確立を図ること。

  1. 海外展開、低価格等を理由にした中小企業への一方的な発注の停止、大幅削減、取消、買いたたき、取引条件の変更などの不公正取引の実態を自治体と共同して正確に調査すること。その上で不公正取引発生にたいする適正化措置として、データの公表(企業名公表)を含む情報公開等の緊急対応体制と相談体制の整備を図ること。
  2. 公正取引委員会は、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法などの法律に沿って下請取引の実態を調査・監視し、強力に指導して健全な取引環境づくりに努めること。
  3. 独禁法の「優越的地位濫用」による「下請いじめ」規制を発動できるように整備すること。特に、下請企業から声を上げないと調査が入らないシステムを改めて、第三者と当事者を組み合わせた監視システムをつくること。また、下請企業は親企業の発注に対応した生産設備・人員を抱え、簡単に転換することができないので継続的下請取引の一方的解除に歯止めをかけることができる措置をとること。

(4) 公正取引委員会は、2001年7月に『金融機関と企業の取引慣行に関する調査報告書』を公表しているが、その中では調査結果をふまえて「独占禁止法上の考え方」を整理し、金融機関のいかなる行為が独占禁止法の問題になるかを示している。これをふまえ、金融機関と融資先中小企業との歪んだ取引慣行を是正する「ガイドライン」の作成、行動指針的なルールづくりを行うこと。

6.中小企業を核とした地域振興による地域産業と商店街の活性化

大企業の事業所の撤退・閉鎖や海外移転などによって地域経済の空洞化がすすみ、地域集積・地域経済の衰退が進行している。その影響をできるだけ和らげ、新たなものづくり、新しい産業などを興して地域経済の再構築・再生をはかることが21世紀の日本経済の大きな課題になっている。地域と共に歩む中小企業をその再構築・再生の核に位置づけて、地域の中小企業を重視する政策スタンスが求められている。

(1) 大企業の事業所の突然かつ一方的な撤退・移転は地域経済に甚大な影響を与える。そうした工場移転、閉鎖などにあたっては、その計画段階から地元の自治体・地域代表者と協議するというルールを制度化すること。また、地域開発政策等の一環として地方進出した大企業の事業所が企業側の事情で早期撤退・閉鎖する場合は、国や自治体が負担した公共経費と事業所税・固定資産税などの減免措置相当分を返還するというルールを制度化すること。

(2) 地域経済の発展、地域コミュニティづくりに大きな役割を果たしてきた商店街の多くが存亡の危機にさらされ地域の衰退が危惧されている。そこで街の崩壊、地域の衰退状態を打開する新たなルールづくりと具体的な振興策が急がれる。次の施策を講じられたい。

  1. 街づくりの主体者は商店街、中小企業、地域住民であることを明確にして、商店街における中小小売業の事業活動の機会を適正に確保することを基本ルールに据えること。「街づくり政策・商店街振興政策の公募事業」を積極的な自治体を支援して進めること。
  2. 大店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の「街づくり3法」を活用して抜本的な新しい街づくり策を積極的に推し進めて、既成市街地の活性化、良好な都市生活環境の確保を図ること。中心市街地活性化法施行によってつくられたTMO(タウンマネージメント機関)については、イ)推進計画をバックアップする2ケタに及ぶ省庁の窓口の一本化、ロ)手続きの簡素化、ハ)認可から実施までを短縮化させるなどの改善措置をとること。
  3. 地域住民が街づくりに積極的に関わる仕組みとして「街づくり会社の株主公募制度」などを検討すること。

(3) 地域コミュニティの主体となる商店街と個店の活性化を進めること。

  1. 零細店舗など商売上の工夫を考える自由な時間をつくりたくとも従業員雇用のできない層に対し、商店街ごとに販売のサポーターを派遣する制度を検討されたい。
  2. 空き店舗対策として、「商店主公募」やチャレンジショップ制度など店舗の家賃補助の支援策を拡充すること。空き店舗を借り上げ、リサイクル施設等の公共スペースを設置するなどの対策を講じること。特に、家屋の広い諸外国では女性が自宅で起業する場合が多いが、日本の住宅事情で女性起業家を多く輩出するためには、空き店舗や遊休施設の活用が決定的に重要であり、そのための施策を拡充されたい。
  3. 地域の社会的な問題解決のためのコミュニティビジネスの創業支援を進めること。「中小商業者が行う新たなビジネスモデル策定に対する支援」策をより拡充すること。各店舗の事業継承を支援する「後継者育成塾」の開催。

7.豊かな人間として育つための教育環境の重視

(1) 中小企業と教育

(1) 青年や子どもたちが健全な労働観や地域社会観を形成していく一つの機会としての労働体験を中学校・高等学校の授業の一環に組み込み、その現場として中小企業を積極的に活用すること。また、日本のものづくりの機能を保全するため、中学校以上の教育に、技術・技能教育を積極的に取り入れること。

(2) 大学生のインターンシップ制度の実施にあたっては、企業の採用活動とは完全に切り離し、仕事のノウハウを覚えるという狭義の職業教育にするのではなく、学生が働く意味や生き方を学ぶ機会となるような教育理念のもとで行うように指導すること。

(3) 長期的視野に立って人材を育成するためには、教師、父母、行政、企業経営者等が協力し合い、地域内で共に努力を積み重ねることが必要である。そこで、これら4者による懇談会やシンポジウムなどの試みに対して積極的に支援すること。学校評議員制度の実施にあたっては、地域の企業経営者の任用を検討すること。

(4) 中小企業についての正確な認識がはかられるように、学校教育等では中小企業の最新の実態に基づいた正確な姿を教えること。その一環として、中小企業の経営者を授業の講師とすること及び教師が中小企業の現場で研修することを積極的に計画すること。

(2) ゆとりある教育に向けて

(1) 教育基本法の改正が論議されているが、教育基本法そのものの基本精神を損なう、教育の現場から遊離した上からの一律的「改革」を拙速に行うのではなく、各学校の実情に応じたていねいな援助が可能となるような教育行政自体の改革をすすめること。

(2) 子どもは子どもの中で育つという子どもの集団自身が備えている育ち合う力を信頼し、子どもたちで自主的に過ごす時間を増やすために、また教師が一人ひとりの子どもと向き合うゆとりが持てるようにするために、学習指導要領の改善と教師が30人学級で自主的に授業内容・授業時間を組み立てられるように改善すること。

【2】 2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

8.労働環境改善と人材育成、雇用対策の拡充のために

(1) 安心して働ける社会保障制度の構築と労働環境の整備

(1) 企業年金や中小企業退職金共済を、労働移動が発生した場合でも勤労者が個人単位で継続できるような制度に改めること。また、厚生年金基金ではバブル崩壊後、多くの基金が資金運用に苦しんでおり、とくに中小企業が集まって設立しているいわゆる「総合型厚生年金基金」では長引く不況下で、基金の将来設計の見通しが立たないばかりか、経営状況の悪化に苦しむ加入事業者も多く、基金からの脱退や、基金そのものの解散を考えるところが増えている。しかし、解散時や脱退時に加入事業者が補填しなければならない積み立て不足額の大きさから、解散もできないジレンマに陥っている。社員が安心して働けるようにと、本来国が行ってきた代行部分の資金運用も含め企業が引き受けてきた厚生年金基金が機能不全状態にあるのは、制度設計時には国自身が予測できなかった経済環境の激変によるものであり、代行部分の積み立て不足に対する国の支援措置を検討すること。

(2) 企業が新分野に進出したり、急激な技術革新等に対応するため、企業内での労働能力向上のための教育訓練が不可欠となっている。現在行われているキャリア形成助成金など教育訓練への助成制度を、教育訓練を就業時間外で行わざるを得ないなどといった中小企業の実態にあわせて柔軟に活用できるものとするとともに、申請手続きの簡素化をはかること。また、新たな制度創設にあたっては、中小企業の実態にあった活用しやすいものとするため、立法過程から中小企業の意見を反映させるものとすること。

(3) 中小企業の経営実態に配慮し、労働時間短縮のための環境整備を推進すること。中小企業の時間短縮については、自企業の企業努力だけではなく関連企業・業界の協力、取引慣行等の転換が必要要件となっている。そこで、イ)省力化投資等に積極的な支援策を講じること、ロ)取引慣行を見直して業種ごとに労働時間短縮を促進する施策を行うこと、ハ)発注方式等取引改善指導事業、下請代金支払遅延等防止法、下請中小企業振興法の運用強化等、労働時間短縮のために下請取引適正化施策の一層の強化を図ること。

(2) 育児・介護休業制度と保育所の拡充等による女性の社会進出支援

少子・高齢化社会において、育児・介護休業制度を実効性あるものとするために、雇用保険法による休業給付金の拡充を行うこと。さらに、利用者のニーズに対応した保育施設・学童保育所の増設・充実、在宅介護支援制度の充実を図り、女性の社会的進出を支援すること。特に、産休あけ、育児休業あけの保育所の拡充や出産育児により長期に就労から離れる女性に対して社会復帰をはかるための教育訓練など施策を充実させること。

介護休業制度では、休業の認められる期間が一家族当たり最長3カ月となっているが、介護の実態とは離れており、短時間勤務との組み合わせや期間の上乗せなど、それぞれの介護の実情に合わせた実効性のある介護休業制度とすること。休業給付金の支給も、その実情に合わせ、支給日数の延長や給付額の引き上げなど一層の拡充を図ること。また、介護者が昼間安心して働けるよう、保育所のように高齢者を預かる「宅老所」の普及・促進を図ること。

(3) 高齢者と障害者の就労環境の整備と雇用の促進

(1) 公的機関が高齢者の多様な就労ニーズを高齢化社会のテンポにあわせて実現させるための環境整備を図ること。リタイヤした中高年齢者の技能・スキルを中小企業経営や地域づくりに活かす施策を検討すること。

(2) 高齢者の日常生活を支援するために、住宅、設備の修理や改修、掃除などを公的に援助することにより安価に利用できる制度を行政と中小企業とがタイアップする方式で設けること。その際、能力や技能のある高齢者を優先的に活用すること。

(3) 中小企業における障害者雇用を促進させるような支援策の拡充と利用手続きを簡素化すること。障害者雇用を実際に職場で支援する「ジョブコーチ派遣制度」は、職場実習の場合も利用できるようにするなど、一層の充実を図ること。特に、イ)ジョブコーチの養成と増員を急ぐこと、ロ)障害者とジョブコーチのペア雇用を進めること、ハ)社員にジョブコーチの資格を取らせる場合に援助すること。

(4) 障害者作業施設設置等助成金などの適用にあたっては、障害者雇用を前提として施設の設置や整備を行った場合、雇用前であっても助成金の支給を実施すること。障害者雇用の現状は、大企業より中小企業の方が進んでいる。障害者の雇用状況を発表する際は、実情が正確にとらえられるように、法定雇用率適用外の従業員規模55人以下の企業における障害者雇用の状況も必ず発表すること。

(4) 雇用対策の拡充について

失業率の上昇は続き、今後も不良債権の早期処理等により失業者の急速な増加が予測されており、セーフティネットと教育訓練機能の強化が急務となっている。雇用のミスマッチをなくし、再就職を支援するため、職業訓練を前提に失業保険の支給額と支給期間を拡充すること。また、創設された若年者安定雇用促進奨励金(トライアル雇用制度)の対象年齢の拡大や支給額などの拡充を図ること。

9.清潔な政治・行政の確立と武力によらない国際貢献、国際交流の推進

(1) 政府の役人・政治家と民間業者との贈収賄事件や高級官僚による不祥事は、あとを絶っていない。政治腐敗を招く根元である政党への企業献金・団体献金は禁止すること。政治・行政に対する国民の信頼を回復させるために、公務員倫理の確立と厳正な実行、高級官僚の関連業界への天下り禁止、国民への情報公開などについて、さらに真剣な努力を行うこと。

(2) 米国での同時テロは、沖縄の観光業界など日本の観光業界に多大な被害を与えたが、米英の対イラク戦争でも甚大な影響が心配され、平和裏に経済活動に専心できる環境づくりが国の内外で切望される。日本国憲法の平和理念にのっとり、国際社会の平和のために日本の役割をいっそう強化すべきである。国際紛争は国連を通じて平和裏に解決する努力が求められている。

(3) 外国人研修生受入事業の充実として、外国人研修生受入れにたいする支援措置の拡充ならびに研修生の入国手続きの簡素化等環境整備を図ること。また、外国人労働者の宿泊施設、住宅の提供、住宅の斡旋、労災保険や健康保険等の制度の充実を図るとともに、社会生活に対する相談センターや日本語ほかの知識を習得するための研修機関を整備すること。

10.中小企業を経済発展と雇用の主役に位置づける「中小企業憲章」の制定を

(1) APEC中小企業大臣会合が積み重ねてきた中小企業の重要な役割についての共通認識をさらに発展させ、アジア各国での中小企業の発展と経済共生の理念の確立に努めること。2002年の第9回APEC中小企業大臣会合共同閣僚声明では、「政策環境の改善」として「資金調達のアクセス改善、人材育成の強化、技術移転の促進」などを課題としているが、さらに「中小企業の不利是正と健全な競争ルールの確立」や「起業文化の普及」、「教育体制整備と職業訓練政策の拡充」、「雇用と技能・知恵を守り、地域社会を支える中小企業の役割重視」などの課題も盛り込み、EUの「欧州小企業憲章」(リスボン憲章)やOECDの「中小企業政策に関するボローニャ憲章」を参考にして、日本政府はアジア経済の発展に対応した政策イニシアチィブを発揮すること。

(2) 日本政府は、中小企業を国民経済の豊かで健全な発展を質的に担っていく中核的存在として位置づけ、日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正確かつ正当に評価することを通して、中小企業政策を産業政策における補完的役割から脱皮して中小企業重視へと抜本的に転換することを「宣言」し、日本独自の「中小企業憲章」を制定すること。また、「憲章」の主旨を地方公共団体にも徹底するため、「中小企業振興基本条例」を未制定の自治体に制定を促すこと。

(3) 「中小企業憲章」で検討する理念や課題を実現するためには、中小企業に関連する予算を急速に拡充することが求められている。国の総予算に占める中小企業対策費の割合は現在、0.23%と1%に満たない極めて低いレベルが継続しているが、この比率をとりあえず1%以上にすること。

(4) 地方分権によって地域経済の活力を地域の中から築いていくことが出来るように、権限委譲に比べて遅れている財源委譲を速やかに実施すること。2002年6月の政府税制調査会答申では、「地方税の改革の方向については、地方税の充実確保の一環として、…税源移譲を含め国と地方の税源配分のあり方について根本から見直すべきである」としており、国から地方への税源移譲こそが直ちに取り組まれる必要がある。国税の一部を地方税に回す財源委譲措置が適切である。

(5) 市町村合併は自主的に行うべきものであり、強制しないこと。人口が一定規模に満たない市町村を、「小規模市町村」位置づけ、その権限を制限・縮小することは絶対に行わないこと。