人を採用している企業は元気がいい
DOR54号(2001年7~9月期)オプション項目より

 中同協・企業環境研究センターでは、7~9月期の同友会景況調査(DOR、978社回答、平均正規従業員数39.5人)のオプション項目として、雇用動向について調査しました。その結果がまとまりましたので紹介します。

複合不況による景気の後退

 労働力調査(総務省)の9月期の速報(10月30日発表)によれば、完全失業率は5.3%と過去最悪を記録しました。同友会景況調査の7~9月期の業況判断DIは4~6月期より9ポイント悪化し、マイナス29となりました。10~12月期の見通しはさらに悪化しマイナス38、2002年1~3月期はマイナス41とさらなる悪化が予想されています。しかもこれらの数値は、調査時点からすると9月11日の連続多発テロの影響は織り込まれてはいません。9月10日には国内で初の狂牛病(牛海綿状脳症)感染の確認は消費に冷や水を浴びせました。IT不況に小泉構造改革不況、これにテロ不況と狂牛病不況が重なり、新しい複合不況が押し寄せています。

採用実績と採用意欲

 7~9月期の同友会景況調査では、オプション調査として、新卒の採用及び採用予定、また社員数の変化と予定について聞いています。その結果を見ながら、今後の中小企業の雇用について考えてみたいと思います。

 8月に発表された平成12年(2000年)雇用動向調査結果速報によれば、入職者が約608万人(前年約583万人)、離職者が約661万人(同約623万人)でした。産業別に入職率から離職率をひいた入職超過率でみると、卸売・小売業,飲食店がマイナス1.3%、サービス業がマイナス0.3%、建設業がマイナス2.5%、製造業がマイナス2.2%と、いずれも離職超過となっています。2000年の失業率は4.6%から4.9%の間を推移していたことから見ると、2001年はさらに状況は厳しく、離職率が入職率を大きく上回るものと思われます。

 そうした中でDOR対象企業のうちオプション項目回答企業では新規採用が2001年度で42%(391社)の企業で行われ、2002年の予定でも38%(338社)が新卒採用を予定しています(図1、2)。また、2001年に採用し、かつ2002年に採用を予定している連続採用型の企業は265社にのぼりました。2001年の雇用管理調査結果速報によれば、2001年に新規学校卒業者の採用計画を持つ企業割合は38.%でした。このことから考えると、回答企業のうち新卒採用が42.0%にのぼっているのは、かなり健闘していることが分かります。地域別に見ると中国・四国で52.2%が採用し、採用予定でも43.3%と最も比率が高くなっています。さらに主要7大都市(北海道、東京、愛知、京都、大阪、広島、福岡)で見ると、東京が採用で45.9%、採用予定で40.7%と最も高くなっています。業種別で見ると、2001年は景気を牽引していた製造業が高くなっていることがわかります。

DOR54号オプション調査-図表0

厳しい経営環境の中での採用、雇用

 2001年に採用した新卒者の学校別内訳で見ると(表1)、1502人、採用した企業数1社あたり3.8人の採用数となります。大学の男子は203社で538人、同女子は128社で224人を採用し、高卒も男子が110社で204人、女子は70社で148人を採用しています。

表1 2001年新規・中途採用数

DOR54号オプション調査-図表1

 中途採用も837人を採用しています。中途採用では高卒の比率が最も高くなっています。

 厳しい経営環境の中で、2002年の新卒採用を予定している人数は、2001年の実績数より減っているものの、1160人が予定されています。その内訳を1社当たりで見ると、大卒では1社当たり平均2.58人、最も少ない短大・高専卒で同1.43人となっています。最大では、大学卒を1社で30人の採用を予定している企業もあります。

正社員が減り、臨時・パート・アルバイト社員などが増える傾向に

 今回のオプション調査では正規従業員、臨時・パート社員、アルバイト、契約社員、派遣社員と分けて、調査時点での人数、対前年比での増減、今後の増減予定についても聞いています。オプション項目回答企業で見ると、平均社員数は38.5人、臨時・パートが24.4人、アルバイトが18.5人、となっていて総社員数の平均は58.2人でした。

 昨年対比で見ると、正規従業員では増えた企業割合より減った企業割合が高く、そのかわり臨時・パート、アルバイト、契約社員、派遣社員が増える傾向にあることが分かります。

 また、今後の増減の予定については、いずれの社員形態でも現状維持のポイントが高くなっていますが、すべての社員について「増やしたい」という企業数が「減らしたい」という企業数を上回っています。複合的不況が押し寄せる厳しい状況だけに正規社員を「減らしたい」という企業も回答企業の22%にのぼっていますが、その厳しく、先行きの見えにくい中でも32.6%の企業は社員を「増やしたい」としています。(表2)

表2 社員数の増減と今後の予定

DOR54号オプション調査-図表2

業況・売上DIと雇用

 つぎに人の採用、雇用と業況とはどのような関係にあるのか見てみましょう(表3)。2001年の春に新卒の新入社員を採用したかしないかによっての各DIがどうなっているか見てみます。現在の不況を反映し、採算水準を除くすべての指標はマイナスとなっていますが、2001年春に新卒を採用した企業が、しなかった企業に比べ業績がいいことは一目で分かります。特に今期(7~9月期)の経常利益が黒字だったのか赤字だったのかを聞いている採算水準で採用した企業と採用しなかった企業との差が大きく、その差は27ポイントにのぼります。

表3 新規採用の有無とDI

DOR54号オプション調査-図表3

 来年の4月に新卒の採用を予定している企業とそうでない企業のDIの差もこれに準じていますが、採算水準の差はさらに広がり、39ポイントに及んでいます。

 総じて、全体的に景況感が悪い中でも、春に新卒を採用したところは元気が良さそうです。

 社員数の増減と売上高及び7~9月期は黒字だったか赤字だったかを聞いた採算水準の関係を見てみましょう。7~9月期の売上高DI(前年同期比)は4業種別(建設業、製造業、流通・商業、サービス業)、6地域別(北海道・東北、関東、北陸・中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄)、規模別(20人未満、20人以上50人未満、50人以上100人未満、100人以上)でみて、いずれの業種、階層でもマイナスでした。しかし、社員が増えたかどうかでクロス集計を試みると正規社員、臨時・パート社員、アルバイト、いずれの社員階層でも増えたところは売上高DIがプラスになっています。採算水準で見ても明らかに社員数が増えたところでは黒字になっている企業割合が大変多くなっていることが分かります。ここでは昨年10月対比で社員が増えたかどうかを聞いています。いわば過去1年間に人を採った結果として売上が増え、採算が好転ないし好転が持続していることが明らかになったわけです。人を採るからこそ売上高も増え、業況も良くなるということです。混迷を続ける日本経済の中で、中小企業が人を採る=雇用の担い手となることで、企業が元気になり、地域経済が活性化できることを物語るものです。

経営上の問題点と力点

 今回のオプション項目と問題点、力点とのクロス集計の結果(表4、5)を見ると、以下のようなことが見えてきます。

表4 新規採用の有無と経営上の問題点・力点

DOR54号オプション調査-図表4

表5 社員数の増減と経営上の力点

DOR54号オプション調査-図表5

 まず、2001年の新規新卒採用の有無で見ると、問題点の指摘は全体の集計結果と順位も変わりません。しかし、採用したかどうかで問題点の比率が違っているのがみえます。ここからは、採用を見送っている企業では経営上の問題点がより先鋭化していることが見えてきます。

 一方、同じ新規新卒採用企業の経営上の力点で見ると、明らかな差が現れます。力点の上位2位までは変わらないものの、採用予定企業では3位に社員教育、5位に人材確保と人に関する経営上の力点に重きを置く企業が多く見られるのに対し、採用を見送っている企業群の特徴は、新規受注(顧客)の確保の比率が際だって高くなっている(73.6%)ほか、財務体質の強化が3位にあげられるなど、厳しい経営状況を反映させた結果となっています。

 正規従業員の増減と、総社員数の増減を経営上の問題点との関係を見ると、ここでも問題点ではあまり差が出てきません。順位もほとんど差がありません。しかし、両者の向こう2~3年間の予定と経営上の力点を見比べて見ると差がはっきりします。1位、新規受注(顧客)の確保、2位、付加価値の増大とここまでは順位にかわりはありません。社員数を減らしたいと考えている企業群で新規受注(顧客)の確保が飛び抜けて高い数値を示しているのは、売上を上げることが企業存続のぎりぎりの瀬戸際まで押し詰められてきている反映でしょうか。

 一方、新卒の採用で見たように、ここでも社員数が増やしたいとする企業群では社員教育が3位に浮上しているように人の問題を重点に考えた経営を志向しているようです。

 総じて、今回のDORオプション調査からは雇用に熱心である企業は、経営環境が悪くても、売上、採算など総じて元気が良く、経営上の力点を常に人材育成など「人」に関わる問題や、情報化に関心を高く持っていることが明らかになりました。

 新たな複合不況と言われ景気が低迷する中、中小企業にとって変わらない問題は「人」に関する問題です。こういう時期だからこそ経営指針の見直しが待たれるわけですが、その中・長期の戦略の中に人材戦略をどう組み込んでいくのか、今の情勢と雇用・社員教育について全社的に論議していく必要があります。

「中小企業家しんぶん」 2001年 12月 5日号より