広がる『金利引き上げ要請』
関東で4割、厳しい企業に追い討ち

立教大学 経済学部 教授 山口義行(中同協・企業環境研究センター委員)

 中同協は四半期に1回、会員企業を対象に景況調査(DOR)を行っています。その7~9月期調査分のオプション項目として金融問題を取り上げ、金利引き上げ要請等について調査しました。中同協企業環境研究センター委員の山口義行立教大学教授に分析していただきました。

(編集部)

4社に1社が「金利引き上げ要請あり」、関東では4割

 「不良債権処理に伴う損失を穴埋めしなければならない」、あるいは「貸出先企業の信用リスクに応じて貸倒引当金を積むことを金融庁から要請される」などの事情から、金融機関が借り手企業に対して金利引き上げの要請を強めている。

 このことはすでにマスコミ等でも話題にされつつあるが、今回のDORオプション調査も、そうした最近の傾向を鮮明に示す結果となった。

 「過去1年間で金融機関から金利引き上げ要請がありましたか」という問いに対し、771社が回答し、そのうち24・3%にあたる187社が「ある」と答えている。(図1)

図1 過去一年間の取引金融機関からの金利引き上げ要請の有無

 ほぼ4社に1社の割合である。

 関東地域では、とくにその割合が著しく高く、41・3%にまで達している。

「要請に応じた」が7割、大半は納得できないまま…

 重要なのは、金融機関からの金利引き上げ要請を断わることが、現状ではきわめて難しいという点である。

 今回の調査でも金利引き上げ要請を受けた企業のうち、70・2%が「要請に応じた」と答えている。

 しかも、そのうち「納得できる説明があった」と答えている企業は34・9%にとどまっており、32・8%の企業が「融資が止められることを懸念した」ためと答え、さらに26・6%の企業は「一方的通告」による金利引き上げだったと答えている。(図2)

図2 金利引き上げ要請への対応と応じた場合の理由

 およそ6割の企業が、納得できないまま、金利引き上げを受け入れた、と答えているわけである。

「資金繰り厳しい」企業を直撃

 「金利引き上げ要請」の対象になっている企業は、どのような企業なのか。

 回答企業の「資金繰り状況」と対比すると、鮮明にその傾向が見て取れる。資金繰りに「余裕あり」と答えた企業では、「金利引き上げ要請があった」としている割合が8・6%にとどまっているのに対し、「やや窮屈」と答えた企業では32・0%、「窮屈」と答えた企業では51・4%に達している。

 資金繰りの厳しい企業に対し金利引き上げが直撃していることがわかる。

 しかも、「余裕あり」企業では要請に応じた企業が52・9%にとどまっているのに対し、「やや窮屈」企業では70・6%、「窮屈」企業ではなんと91・7%が要請に応じている。

 要請に応じた理由についても、「余裕あり」企業では42・9%が「納得できる説明があった」としているのに対し、「窮屈」企業では45・5%が「融資が止められることを懸念した」からと答えている。(図3)

図3 資金繰り状況別金利引き上げ要請の有無

 ひとたび資金繰りが厳しくなると、それに追い討ちをかけるように事態が窮していく状況が見て取れる。

業況が「やや良い」企業も対象に

 今回の調査結果からは、会社の業績がいいからといって安心できないことも示されている。
「採算水準」や「業況水準」を問うた結果と、「金利引き上げ要請」の「ある・なし」とを対比してみると、いずれも「やや良い」とする企業への要請が比較的高いという結果が示された。(図4)

図4 業況水準による金利引き上げ要請の有無と採算水準による金利引き上げ要請の有無

 たとえば、採算水準で「やや黒字」と回答した企業のうち、「金利引き上げ要請」が「あった」としている割合は25・6%に達しており、全体の水準である24・8%を上回るだけでなく、「赤字」企業の回答割合である30・6%に次ぐ高い割合となっている。

 業況水準についても同じで、「やや良い」と答えている企業のうち「金利引き上げ要請」を受けた割合は25・6%に達し、「悪い」と回答した企業の28・2%に迫る数字を示している。

 一般に、金利引き上げの要請は、金融機関による信用格付けのうち、「正常先」の「下」あるいは「要注意先」の「上」がターゲットになりやすいとされている。

 なぜなら、「正常先」の「上」の場合には、金利引き上げを要請すれば、他の金融機関に客を奪われる可能性があるし、「要注意先」の「下」を対象にすれば、金利引き上げが契機となって「破綻懸念先」に転落して多額の引当金を積む必要が生じ、収益にかえってマイナスの影響がでることを懸念しなければならないからである。

 今回の調査結果は、ほぼこうした傾向を裏付けるものであったといえる。

金融行政に変更迫る声を

 今後、竹中平蔵金融担当大臣は、金融機関に対し、利益目標の設定とその達成を強く促す方針であると伝えられている。

 ゼロ金利政策下にあって、しかも資金需要が低迷している昨今、金融機関が利益を稼げる資金運用機会は著しく限られている。そういうなかで、収益力の向上を促す竹中大臣の方針は、金融機関をして、否応無しに中小企業に対する「金利引き上げ」へと走らせることになる。

 「要請あり」が4割を超えるという関東地域の状況がやがて全国的レベルのものに広がる可能性も十分にあり、中小企業経営者はそのことをしっかりと認識しておく必要があるだろう。

 こうした竹中路線の背後には、「金融再生なくして、経済再生なし」という、金融機関の収益回復を優先、強制する思想がある。しかし、これは明らかに発想が逆立ちしている。本来「経済再生なくして、金融再生なし」でなければならない。企業活力をどう生み出すか、行政はそれをどう支援するかが本筋であり、金融再生はその結果として達成されるべきものである。

 自社の経営改善に向けた粘り強い努力とともに、金融行政に変更を迫る力強くかつ幅広い中小企業家の連帯が、中小企業の厳しい現状を打破する上で不可欠であることを今回の調査結果が示している。

同友会景況調査要領

調査時 2002年9月5~15日
対象企業 中小企業家同友会会員
調査の方法 郵送の方法により自計記入
回答企業数 2,060社より939社の回答(回答率45.6%)
平均従業員数 従業員数(役員含):40.7人 臨時・パート・アルバイト:30.2人

山口義行氏
立教大学経済学部教授。 金融論専攻。「政策工房J―Way」代表。テレビ東京、BSジャパンにレギュラー出演。1951年名古屋市生まれ。立教大学大学院修了。
93年より立教大学経済学部助教授、昨年4月より現職。

「中小企業家しんぶん」 2002年11月5日号より