素材価格高騰・調達難で調査
DORオプション調査より

 中同協・企業環境研究センターでは、同友会景況調査2004年7~9月期調査(908社回答)のオプション項目で、素材高騰・調達難について調査を実施。結果について、同センター研究委員の吉田敬一氏に執筆いただきました。

モノづくり関連中小企業を直撃
7割で価格上昇、4割が価格に転嫁できず

駒澤大学経済学部 教授 吉田 敬一

 輸出と設備投資を牽引役にして日本経済は回復軌道を着実に歩んでいる、という景気判断を政府は下しています。しかし、現実を見ると、大企業と中小企業、製造業と非製造業、機械・電機系とその他の製造業、輸出関連企業と内需中心企業、首都圏・中部圏とその他の地域圏などの間の不均等な発展・格差構造に加えて、素材価格の高騰・調達難が、薄日の差しかけてきた中小企業の経営基盤に暗雲を漂わせています。

素材問題の背景

 年初来から中小企業経営を圧迫し始めてきた素材問題(価格上昇と仕入れ難)の原因は、以下の諸要因に端を発しています。

 第1は、北京5輪・上海万博に向けた空前の建設ラッシュに沸く中国での過熱気味ともいえる素材需要の増加に端を発したものであり、第2に中国は世界最大のコークス輸出国でしたが、自国消費優先により輸出を削減しつつあり、その影響が世界に及び、日本でも多くの鉄鋼メーカーが原料不足により、フル操業できない状況を生みだしたことが、品薄・価格上昇に拍車をかけました。

 第3に、先行き有望な中国向け輸出を重視する素材メーカーは自動車や造船など国内大手顧客向けの安定した利益の見込める特殊鋼などの生産には優先的に対応していますが、ロットが小さく需要が変動しやすい建設用鋼材などの国内向け生産は後回しにしていることが、中小企業分野での素材不足現象をとりわけ深刻にしている要因となっています。

 第4に、デフレ不況下で在庫の削減が極限にまで推し進められてきた結果、需要増に素材メーカーがタイムリーに対応できない状況にあったことが素材異変の度合いを大きくしたと考えられます。そして第5に、原油価格急騰の背後に見られる国際的投機資本の動向が無視できません。

 そこで同友会景況調査2004年7~9月期でのオプション調査結果に基づいて、素材問題が会員企業に及ぼしている影響を考えてみましょう。

景気回復先導役の製造業へ大打撃

 年初来の素材価格の上昇(図1)は、「今も上昇」「上昇したが一段落で横ばい」あわせて70・6%で、サービス業を除き、多くの中小企業を直撃しています。とくにこれまで景気回復の先導役であった製造業では「今も上昇」の比率が最も多くなっています。これをさらに20業種分類でみると、製造業のなかでも、鉄鋼・非鉄金属(71・4%)、化学・石油製品(64・5%)、金属製品(58・3%)および機械器具(52・7%)では過半数の企業が仕入れ価格の持続的上昇に巻き込まれており、景況の先行き不安感を強める要因ともなっています。

DOR67号オプション調査図表1

 次に素材の仕入難易度の状況(図2)を見ると、この点でも製造業での悪化が注目されます。「困難」と答えた企業は3社に1社の割合であり、そのうちの6割近くは品不足と価格上昇のダブルパンチを受けており、とくに金属・機械関連業種では6割前後が仕入難にあえいでいます。

DOR67号オプション調査図表2

 また「素材価格上昇の販売価格への転嫁」の実情をみると(図3)、回答企業全体では5%強の企業しか「完全に転嫁」しておらず、「まったく転嫁できず」にいる企業が43・7%にも達するという驚くべき事態が生じています。また20業種分類でみると、運輸業でその比率が93・8%と突出しており、今後の原油価格の動向が懸念されます。

DOR67号オプション調査図表3

 また、まったく転嫁できない状況にある企業の割合を規模の大小でみると、20人未満の36・4%に対して50~99人では58・8%、100人以上では51・4%と過半数に達しています。

 このように、「原料高・製品安」という古典的な中小企業問題が、厳しい価格競争下での経営努力の成果が水泡に帰しかねない局面が生じています。

 図4は、素材価格の上昇と品薄現象が経営に与える影響を示したものですが、モノづくりにかかわる製造業で約7割、建設業では6割強の企業が圧迫感を訴えており、とくに製造業では「かなり圧迫」されている企業が14・0%、7社に1社という高率に達しています。これを20業種分類でみると、食料品(26・9%)、化学・石油製品(19・4%)、木材・木製品(18・2%)、金属製品(16・2%)、機械器具(15・3%)、および運輸業(13・3%)の分野で問題性が鋭く現れています。

DOR67号オプション調査図表4

水面下であえいでいる業種・企業の足を引っ張る素材問題

 また、素材問題はデフレ不況下の受注難で苦戦している企業・業種ほどダメージが大きくなっています。

 たとえば、「かなり圧迫」と答えた企業の割合は、前年同期比で売上高が「増加した企業」では5・5%であるのに対して、「減少した企業」では12・3%と2倍以上となっています。

 さらに、業況水準を基準にすると、「良い」と答えた企業では「かなり圧迫」の比率は8・2%ですが、「悪い」では2倍の16・2%に達しており、「価格転嫁がまったくできていない」企業の割合も、「良い」では26・5%であるのに、「悪い」では57・7%と過半数を超えている点が注目されます。

 「原材料価格上昇を製品に転嫁できず、数で利益を出してきました。しかしながら、消耗戦もここらが限界、皆疲労感でいっぱいです(神奈川・機械器具製造業)」という発言が象徴的に示すように、良い経営者になろう、良い会社をつくろうという経営努力の積み重ねも、流した汗と涙が正当に報われる経営環境が欠落していると努力の成果も実を結ばず、中小企業は生き残りを賭けた椅子取りゲームから脱することはできません。

 その意味で、国民の雇用の8割近くを支える中小企業の経営環境改善を経済政策の基本に据えることを目指した「中小企業憲章」制定運動の意義が再確認されるのではないでしょうか。

「中小企業家しんぶん」 2004年 11月 15日号より