【運動としての経営指針づくり】愛媛同友会の実践

 中同協が活動方針で経営指針(理念、方針、計画)づくりを提起した1977年から約30年。経営指針は実践を伴って初めて企業を変え、地域を変える力となっていきます。今号は、労使見解、経営指針、社員教育の三位一体の活動をすすめ、さらに経営指針の成熟度、活用度を高めようと企業変革支援プログラムに取り組む愛媛同友会を紹介します。

「入会したら指針の確立」が会風に

 三位一体の活動で同友会の3つの目的を広く深く【愛媛】

人づくりを活動の基本に

 愛媛同友会の経営指針成文化運動は、1987年の第1回経営指針成文化セミナーを開催してスタートしました。2007年3月までに51回の経営指針成文化セミナーを開催し参加者は延べ263名にのぼっています。当初は、講師を吉本洋一・中同協経営指針専任講師にお願いしていました。吉本氏が亡くなられて以降の1996年、第13回からは講師を東京同友会の奥長弘3氏が担当しています。

 愛媛同友会が最初に取り組んだのは、社員教育活動でした。北海道同友会の大久保尚孝相談役や中同協の国吉昌晴専務幹事をたびたび講師に招き、同友会運動の真髄について理解を深めました。そのため、創立草々から、同友会とは人づくりの会であり、“豊かな人や企業づくりを通して豊かな地域社会”づくりを目指すことだと確認しました。

 「人づくり」を基本活動に置くため、第4回社員教育活動全国研修交流会開催の誘致を決め、“同友会らしい社員教育”の理解について深めました。また、教育の原点を学ぶために「同友会における社員教育とは」や、「日本国憲法」「教育基本法」などの勉強を繰り返し行いました。

 その結果「自社の教育に責任を持てるものは、社長をおいて他にない。社長が真剣にならないと人任せでは教育問題は解決できない。謙虚な姿勢で自分を変え辛抱強く社員と接する。いい加減な、場当たり的なことは言わず言行一致に心がける。そのためにも経営理念を確立し、それと矛盾の無い形で、社員教育を経営指針に位置づける」を1988年11月に明文化し、経営指針と社員教育の関係を整理しました。

三位一体の考え方へ

 その当時(1990年前後)はバブル景気に国内が沸(わ)いていました。会員からも「経営理念より経営戦略を大切にすべきでは」「同友会の経営指針は役に立たない」といった声が聞こえてきました。経営指針成文化が目的になっており、実際の経営に反映されないことや、経営指針活動が緒についたばかりで未熟さや体現者不足もあり、そういう声を実践的に突破できない状況にありました。

 そういう時に、講師の吉本氏から「経営指針は『労使見解の精神』を実践する窓」と教えられました。早速、第8回中小企業労使問題全国交流会開催の誘致を決め、京都同友会から上野修氏(現中同協経営労働委員長)を招いての学習会を行いました。

 1年間の学習を経て定式化したのが、愛媛同友会の基本方針となっている「三位一体の考え方」(労使見解を学び、経営指針を確立し、社員教育を実践する)です。

 その間の経営指針成文化運動を通して気づいたことは、(1)「労使見解」の精神を柱とした経営指針を確立すること。(2)小規模企業や家族中心企業こそ経営者の責任を明確にした同友会らしい経営指針を確立すること。(3)強靭(きょうじん)な体質と強靭な企業をつくる視点での経営指針成文化を戦略的・組織的視野を持った運動として位置づけることでした。

これを受けて、1993年に、経営指針成文化セミナー卒業生の会(あら草の会)を設立しました。その後、経営指針成文化は会内で飛躍的に広がっていきました。現在は、経営労働委員会が担当しています。

企業変革支援プログラムの作成

 しかし一方で、(1)経営指針を作成しても1~2年試行錯誤して終わる企業、(2)経営指針を継続して作成して、活用している企業との格差が表れてきました。同時に、「良い会社とはどんな会社なのか」「人を生かす経営とはどんな経営か」など、同友会で学びあい、お互い分かったようなつもりでも、イメージはそれぞれに違うことも浮き彫りになってきました。

 そこで、経営指針の成熟度や活用度を上げるにはどうすれば良いか、という問題意識で着手したのが企業変革支援プログラムです。2003年度から愛媛大学・松山市との産学官連携で研究・実証を重ねてきました。目的は、体系化されたいくつかの観点(尺度)を参考に自社の強み弱み分析を行うことで、より客観的に自社の経営課題を分析し、中長期的な経営指針の策定において、経営課題を効果的に戦略に盛り込むことで、環境変化に強い、自立的な理念型経営を目指すものです。

 このように、愛媛同友会における活動の特徴は「三位一体の活動の質と量を高める」活動そのものであり、入会すれば経営指針を確立しようという会風になっています。

夢と誇りの持てる、活力ある企業に

 (株)大栄電機工業 社長 大野栄一氏(愛媛)

 大野栄一・(株)大栄電機工業社長は、自分自身の経営の勉強のためにも、社員教育をしていく上でも、どこか学ぶところはないかと探していた時に、同友会と出合いました。

 1985年9月に愛媛同友会が発足。大野氏は、翌86年11月に愛媛同友会に入会しました。現在、代表理事を務めています。

 経営指針を作成したきっかけは、87年に開催した愛媛同友会第1回経営指針成文化セミナーに参加したことでした。以来18年間、経営指針の作成、発表、実践を行っています。

経営にウルトラCはない

 経営指針の作成、実践を通じての教訓を、大野氏は3つあげています。

 (1)経営指針の浸透と実践のプロセスこそが、人材育成の実践である。経営指針を社員教育の中心に置くことが重要。人材育成の基本は、経営理念を理解し自主、自律、自尊の精神を発揮して、P・D・C・Aを回すことができる人の育成である。(2)経営者は理想とする人材像を明確にし、社員の人生に責任を持つこと。わが社の人材像は、自主、自律、自尊の精神を持った人材であること。たとえ辞めることがあっても、他の会社で生き抜く力を養成すること。人材育成とは社会貢献である。(3)経営にはウルトラCはない。経営指針をしっかり作成して積み上げることこそ、経営者の任務。

 「経営者は、たくさんやることがあるが手を抜かず、社員と正面から向き合って地道にやること。そうでないと、うまくいかない」と語ります。経営指針を作成し、そして浸透と実践をする中で、ずいぶん会社の様子は変わってきたといいます。

社員の成長が自社の成長に

 最近では、介護先進国スウェーデンのウメオ大学と愛媛大学、そして松山市と共同で「認知症診断決定支援システム」を開発するなど、18年前には考えられなかった事業の広がりを持つようになってきました。

 「経営者は経営に責任を持ち、あきらめずにやり抜く覚悟とやり続けることが大切。もちろんうまくいったことばかりではないが、1年1年、経営指針を通して社員がP・D・C・Aを進めていく歩みは、私のテーマである“夢と誇りの持てる、活力ある企業”へと確実に自社を成長させてくれた」と語る大野氏です。

【会社概要】
創業
 1957年
資本金 1000万円
年商 8億5000万円
社員数 28名、パート・アルバイト 10名
業種 ITコンサル・コーディネート業
所在地 松山市南吉田町2821-4
TEL 089-968-8883
URL http://www.tectas.jp/

「中小企業家しんぶん」 2007年 4月 5日号より