【酒蔵7】その地の米と水、そして人と伝統にこだわって 美冨久(みふく)酒造(株)(滋賀)

その地の米と水、そして人と伝統にこだわって
美冨久(みふく)酒造(株)(滋賀)

近江米と鈴鹿山脈の伏流水で育てられ

 琵琶湖600万年の歴史の中で、およそ百数十万年間湖底であった滋賀県甲賀市水口町。湖底時代に積もった豊かな土壌が育てる近江米、日本の東西を2分する鈴鹿山脈からの豊かな伏流水があるこの地で、こだわりのお酒を追求する美冨久(みふく)酒造(株)(藤居宗治社長、滋賀同友会会員)を訪ねました。

 1917年(大正6年)に、蔵元の三男に生まれた創業者が親元を離れて水口で創業。以後、地元の造り酒屋として成長を続けてきました。

 太平洋戦争時は、米不足など休廃業する酒蔵が多い中で、伝統の銘柄を守ってきた老舗(しにせ)酒造です。

 屋号の由来は、天恵の「美」、豊穣の「冨」、伝承の「久」、藤居宗治社長は、「美しく、冨くよかで、久しい、黄金の和(環)を求めつづけています」と穏やかに語ります。

本当の日本酒ファンを呼び戻したい

 2代目の社長が病気のため、1996年に社長に就任。食生活の変化や過当な価格競争により、酒蔵が激減する中で、社長自ら3年間蔵に入り、美冨久の酒づくりと未来について思いを深めます。

 歴代社長から中国の古典太宗(貞観政要)の一節、「創業と守成いずれが難きや」の教えから、蔵人や社員と話し合い、伝統と新風を「酒とその文化を創造し、お客様と社会に貢献する」という理念にまとめました。

 その地の米と水、育った人や伝統の酒造りに意欲を持って地酒づくりに取り組み、忘れられつつある本当の日本酒ファンを呼び戻そうと、社長と杜氏を先頭に研究に励んでいます。

伝統技法「山廃仕込」が主

 現在、科学的に開発された酵母と市販の乳酸を加えた速醸タイプの酒が出回るなか、美冨久酒造は「山卸廃止もと仕込(山廃仕込)」という通常の3倍もかかる醸造方法が主。代表の「美冨久」は、古来の酒造りを生かした伝統のお酒です。

 米本来の味や甘味をすべて引き出すため、自然界の微生物がせめぎ合い、健強な清酒酵母を育て上げていくもの。その味わいは酸味が多く、コクがあり、夏の熟成を越すとまろみが増し、熱燗(あつかん)が恋しくなる季節にはぴったりです。

 このお酒は、蔵人の酒造技術向上と、外部評価を得る目的で、独立行政法人酒類総合研究所が主催する平成16(2004)年度全国新酒鑑評会に初めて出品し、見事金賞の栄誉を得ています。

日常生活にとけこむお酒

 米・水・酵母の自然の力と作り手の思いが1つになった美冨久のお酒は、地元や出張イベントで直詰めの量り売りが行われており、その季節限定の特別なお酒として好評です。

 この直詰めの販売・試飲キャラバンでは、オリジナルラベルと、王冠のない特殊栓瓶が使われており、2003年滋賀県の経営革新支援法の認定事業となっています。

 また、酒蔵見学も行われており、先人が培った技術の命の物語まで味わってほしいと、無料の見学会も受け付けています。

 水口は、東海道五十三次の宿場町。この地で生まれる新しい「日本酒とその文化」を広めようと、直詰め販売・試飲キャラバンを組織して、上京も始めています。

【会社概要】
創業
 1917年
資本金 1000万円
年商 2億円
社員数 6名
業種 日本酒の製造販売
所在地 甲賀市水口町西林口
TEL 0748-62-1113
URL http://www.mifuku.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2005年 7月 25日号より