「成功の妄想」に惑わされない学び方とは

『なぜビジネス書は間違うのか』を読んで

企業経営に「成功方程式」などというものが本当に存在するのか。そのような以前からの疑問に「ない」と明快に答えたのが、本書『なぜヒ゛ジネス書は間違うのか』(フィル・ローゼンツワイグ著、日経BP社)です。

 私たちにも馴染みのある『エクセレント・カンパニー』や『ビジョナリー・カンパニー』、『ビジョナリーカンパニー・2』など、ベストセラーとなったビジネス書を例に挙げ、「これさえすれば成功が約束されると思うのは妄想だ」と厳しく批判します。

 本欄ではかつて、これらのビジネス書を「失敗学の書」として読み込んだ方が成果を得られると提起し、「結局は、何か方程式をなぞっていけば必ず成功するという『成功の方程式』はないのではないか」と疑問を呈しました(本紙2006年7月15日付)。本書は、それへの1つの回答と評者は受け止めました。

 本書の真骨頂は、大半のビジネス書が陥っている「妄想」を9つに分類して例証していることです。

 第1の妄想はハロー効果。ハローとは後光が射している様子で、まばゆい光に幻惑される心理傾向のこと。ビジネス書は、企業の業績を見て、それをもとにその企業の文化やリーダーシップ、価値観などを評価し、業績を決定づける要因だと分析しますが、たんに業績から跡づけた理由にすぎない場合が多いことです。

 第2の妄想は、相関関係と因果関係を混同すること。2つの事柄に相関関係があっても、どちらがどちらの原因であるかはわかりません。たとえば、社員が仕事環境に満足していると、会社の業績は上がるというよりも、会社が成功しているから、社員はそこで働くことに満足感を覚えるととらえることの方が正確であることを、調査結果が示しています。

 第3には、理由は1つという妄想。特定の要素、たとえば望ましい企業文化や顧客志向、すぐれたリーダーシップによって業績が向上することは調査によって示されていますが、これらの要素は相互に強く関係しており、個々の影響は調査者が主張するほど強くないことです。しかし、書き手は、明快なストーリーを望む読者に応(こた)えたり、自分の専門分野の重要性を強調したくなる誘惑にかられる傾向があります。

 そのほか、「成功例だけをとり上げる」、「徹底的な調査」、「永続する成功」、「絶対的な業績」、「解釈のまちがい」、「組織の物理法則」などの妄想も挙げています。

 では、以上のビジネスの常識にはびこる妄想をとり払ったら、次はどうするか。本書は、「ビジネスの核心には根本的に不確実性があることを認識したうえで、あらためて企業パフォーマンスを決定する要因にとり組むこと」とし、「戦略の選択と実行」にたどり着くとしますが、詳しくは本書を。

 著者の本書に込めたメッセージは、同友会での学び合いにも共通します。「利口になれというのではない。…足りないのは知恵のある経営者だ。洞察力があり、ものごとを深く考えて成否の判断ができる経営者である。…見識を備え、人のいうことを鵜(う)呑みにせず、単純なノウハウやその場しのぎの手軽な解決策に惑わされない経営者に」。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2008年 6月 15日号より