首都圏同友会発展のための条件と課題 (2) 神奈川大学経済学部教授 大林 弘道氏

「都市再生」の担い手として会員を増やす

 6月18日に行われた第3回首都圏会員増強連絡会(埼玉・千葉・東京・神奈川)での、大林弘道神奈川大学教授の報告の後半を紹介します。(前半はこちらのページでお読みいただけます

首都圏における会員増強の課題

 それでは、首都圏における会員増強運動の課題についてはどうでしょうか。

 確かに、数年前まで、大都市の会員増強の課題は産業サービス化への対応が重要でしたが、現段階ではそれには限定はされないと考えています。

 むしろ首都圏の産業構成の在来の多様性と、それに対応した会員増強の取り組みの重要性に着目する必要があります。

 1つは、首都圏に存続する機械金属、繊維雑貨、食品等の中小製造業や中小卸小売業が、地域経済に不可欠な存在であることへの深い理解を推し進めることです。

 2つには、増加するサービス業への対応です。一般的に、サービス業はたいへんなスピードで変化する経営環境に共通点を見いだしにくく、企業の個別事情によって経営の発展度合いが決まることが多いものです。こうした特徴を持つサービス業の経営者に、中小企業運動に持続的に参加する意義への共感・共鳴を広げることが課題になっています。

 3つ目は、農林水畜産業における新しい中小企業運動の構築の意義が大きくなっていることです。“首都圏だからこそ”と言えるほど重要な課題です。

地域としての首都圏問題とは

 では、地域としての首都圏問題とは何でしょうか。それは「東京問題」の、首都圏への拡大ということだと考えます。

 「東京問題」の主なものとして、(1)「都市再生」の進展、(2)既存商店街の「衰退」、(3)工業地域の「縮小」と広域化・国際化、(4)安全性・公共性の不足、(5)地域リーダーの不在化、などが挙げられます。

 そこでの問題点として、「都市再生」に中小企業が見えないこと、東京は国内的“繁栄”と、国際的な地盤沈下の両面をもっていること、産業構成の多様性が後退する可能性があること、それらとあいまって「道州制」の地域への影響がはっきりしないこと、などが考えられます。

首都圏同友会への期待

 最後に、首都圏同友会が全国の同友会運動の先頭に立つという期待をこめて、問題を提起しておきます。

 第1に、中小企業にとって「都市再生」の問題への対応は必須であり、避けることはできないということ。基本戦略として、「中心核」の再生に参入し、「周辺」の再生の担い手となることが要請されます。

 第2に、首都圏の諸産業の新しい展開の激化が今後も考えられる中で、その展開に直面する会員の意見の集約を通じて、具体的、実証的な分析を行い、あるべき方向性を示す提案をすることです。

 第3に、首都圏の中小企業家を囲む経営環境の激動・激流に対峙(たいじ)する、経営の特有の悩みと誇りに応(こた)える活動を展開することです。

 第4に、支部例会の充実をはかり、報告者の報告内容の、社会性・科学性・人間性に基づく“分析の眼”を強化することです。

 この間の同友会運動の発展を、私自身予想できませんでしたし、同友会が“並み”の団体ではないことをあらためて認識しました。今後の発展のために、回復・前進の教訓を論議することを期待しています。

「中小企業家しんぶん」 2008年 8月 15日号より