「人を生かす経営全国交流会」in 滋賀 歴史を変える局面、「いま同友会の出番」

パネルディスカッション「人が育つ企業と地域づくりのために」

パネルディスカッションを受け、40グループでグループ討論

 11月20~21日、滋賀で開かれた「人を生かす経営全国交流会」(中同協主催)2日目は、前日行われた6分科会の座長をパネリストにパネルディスカッションを行いました。テーマは「人が育つ企業と地域づくりのために~各分科会での論議から」。論点は、(1)厳しい時代だからこそ、企業づくりで大切にしなければならないこと~「中小企業における労使関係の見解(労使見解)」、(2)同友会で学んで、企業の総合的実践をすすめるとはどういうことか~経営指針、採用・教育のサイクルはなぜ必要か、(3)「人を生かす経営」に対する地域からの期待と、地域とともに「共に人が育つ地域づくり」への取り組み~同友会の出番、以上の3点です。

 パネリストの発言要旨および交流会アピール全文を紹介します。(編集部)

パネルディスカッション参加者

左からパネリストの金森弘和氏、梶原啓子氏、大久保尚孝氏、八嶋祐太郎氏、小暮恭一氏、上野修氏、コーディネーターの大野栄一氏

パネリスト (1~6分科会座長。以下、分科会順、敬称略)
金森 弘和氏 (株)冨久や社長(滋賀)
梶原 啓子氏 (株)ププレひまわり副社長(広島)
大久保 尚孝氏 中同協前社員教育委員長(北海道)
八嶋 祐太郎氏 八嶋合名会社社長 (富山)
小暮 恭一氏 (株)エム・ソフト社長 (東京)
上野 修氏 中同協前経営労働委員長 (京都)
コーディネーター 
大野 栄一氏 中同協経営労働委員長/(株)大栄電機工業社長(愛媛)

人間尊重経営は「労使見解」の実践

中同協前経営労働委員長、京都同友会相談役
((株)アドバンスド代表取締役)上野 修氏

 今、34年前に発表された「労使見解」の先進性を強調したいと思います。これは先輩たちの涙、汗、愛の結晶です。『中同協30年史』(1999年発行)でも、人間尊重の経営は「労使見解」の実践にあるとしています。

 労使の信頼関係を基礎に、共に育ちあう話し合いの母体なくして企業の成長はない。1973年の全国総会で採択された「同友会3つの目的」の2番目、すばらしい経営者をめざすことは、どんなに経営が苦しくとも安易な人員削減には走らないことです。

 もう1つは、同友会理念の根底にあるのは、人権の意識ではないでしょうか。今年の12月10日人権デーは、「世界人権宣言」が国連で採択されて60周年目です。同友会が提唱する人間尊重は、人権の理念と合致し、意味が深いと思います。

「何のための経営か」 を問い続ける

滋賀同友会副代表理事
(株)冨久や代表取締役 金森 弘和氏

 滋賀同友会では長年「経営指針を創(つく)る会」を継続し、私も携わってきました。

 問い続けてきたことは、自社の社会的存在意義を明確にすることです。とはいえ、仕事がどんどん減少することもあります。「本当に存在意義はあるのか」迷い、苦しみます。そんな時は、一歩も二歩も下がり、社会的存在意義を見つめ直す、「何のために経営をしているのか」徹底して問い続ける。そうすると自分の生き様と一致した「生きた経営理念」となり、方向性も見えてきます。

 滋賀は、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の理念を築いた「近江商人」発祥の地です。

 彼らの家訓として守られてきたことは、単に金を儲ければ良いではなく、お客様と世間(社会)への貢献を第1に考えているということで、現代にも通用するものです。

強い意志がなければ経営指針の実践は進まない

富山同友会理事・経営労働委員長
八嶋合名会社代表取締役 八嶋 祐太郎氏

 「経営指針は作った、しかし実践できない」という声がよく聞かれます。実践できない理由として、「底が浅いのでもう1度考え直したい」「時代が変わってきたので(実行に踏み切る)自信がない」等というものです。要は、実行が面倒なのではないでしょうか。

 「こういう経営をやりたい」との強い意志がなければ、社員を巻き込み、経営指針の実践に踏み込むことはできません。もうひとつ大事なことは、目標達成したなら、分け前(成果配分)をきっちり出すことです。それがなければ楽しくありません。楽しさこそ継続の力であり、目標達成をみんなで祝う全社的雰囲気づくりが大切です。

求人、社員教育での学び多い同友会

広島同友会理事・求人社員教育委員会副委員長
(株)ププレひまわり副社長 梶原 啓子氏

 私自身の実践に絞り込んで発言します。

 「新卒採用がしたい」という動機で、1995年同友会に入会。当時7店舗、正社員22名のドラッグストアであったのが、現在67店舗、正社員280名(パート含めると1000名)、年商265億円になりました。

 13年間『人を生かす経営』(「労使見解」を所収)にある経営者の役割を素直に実践してきました。本気、本音で社員と向き合い、「何のために働くのか、仕事を通しての自己実現をめざす」ことを大事にしてきました。結婚後子育てしながら働ける職場環境整備も重視しています。

 求人、社員教育の両方で多くの学びがあるのが同友会の良さで、今年は30人の新卒を採用、来年は45人採用予定です。

共同求人活動での信頼関係が地域づくりの力に

中同協共同求人委員会副委員長、東京同友会副代表理事・共同求人委員長
(株)エム・ソフト代表取締役 小暮 恭一氏

 中小企業の採用は、補充(中途)採用と新卒採用があります。新卒採用は教育の期間と費用はかかりますが、企業文化に対する価値観の違いを早目に克服し、計画的経営を可能にします。そのためには、人材育成を社風にすることです。

 昨日の大田講演で地域を経済の視点だけではなく、「人間関係から生まれる新しい地域像」を提起されたのは目からウロコでした。人と人との信頼関係から地域への愛着も生まれます。

 共同求人では、同友会間(地域間)の相互乗り入れも盛んで、経営者同士の信頼関係が自然に形成されていきます。

 東京の会員が沖縄で採用した若者を、将来故郷へ返すために沖縄に子会社を設立、これは経済効果もあります。共同求人で生まれた信頼関係が地域づくりにも貢献できるという成果でしょう。

経営者、社員が誇り高く生きる同友会運動

中同協前社員教育委員長、北海道同友会相談役理事 大久保 尚孝氏

 「新卒の採れる企業づくり」をめざして始まったのが共同求人活動です。

 世間からあてにされ、安心できる企業となるようお互いにチェックし合う。学校訪問し、中小企業経営者の人間としての優しさを伝えてきました。

 教育とは育ちあうこと(共育)、学びあうこと(共学)。自社の実態を率直に伝え、社員が誇り高く生きる、その思いを駆り立てるアドバイザー、コーディネーターが経営者であることも共同求人、社員教育活動の中で学びました。

 同友会運動は、経営者も社員も誇り高く生きる場としての企業づくりを進め、そのような企業で地域を埋め尽くすことです。

 行政も同友会に頼ることが多くなってきました。私たちは決しておごることなく謙虚に憲章、条例の運動を進めていきましょう。まさに時代は「同友会の出番」、歴史を変える決定的局面ではないでしょうか。

コーディネーターのまとめ 「人が育つ企業と地域づくり」は同友会運動の使命

中同協経営労働委員長 愛媛同友会代表理事
(株)大栄電機工業代表取締役大野 栄一氏

 3委員会合同の初の交流会は、テーマに掲げた「人が育つ企業と地域をつくる」同友会運動の使命をさらに明確にすることができました。

 未曾有の経済危機が私たちの周辺に押し寄せてきていますが、歴史の試練を経てきた「労使見解」の精神を常に学び、全社の叡智(えいち)を結集して、経営指針の作成、見直し、実践を続けるならば必ず道は開けるとの確信をつかむことができました。

 中同協では現在「企業変革支援プログラム」の試験運用を行っています。これは、同友会がめざす企業づくりの進展状況を自己診断できるシステムで、皆さんの協力のもと、さらに充実をはかっていく予定です。人が育つ企業と地域をつくることは私たち経営者の責任です。

 この崇高な使命を担うことに誇りを持ち、時代の先導者としての決意を固めあうことを確認し、本交流会のまとめといたします。

「中小企業家しんぶん」 2008年 12月 15日号より