現代資本主義に問われる進むべき道

ある市場原理主義者の「変身」によせて

 今般の世界金融危機が進行する中で、市場原理主義、市場万能主義が挫折したという認識が広がっています。市場原理主義とは、全てを市場に委ねれば公平さと繁栄が約束されるとする思想的立場。いわゆる新自由主義は、市場原理主義の思想を政府の経済・社会政策などに適用した考え方です。

 たとえば、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ・コロンビア大学教授は、「市場は自己修正をして、富を効率よく分配し、公共の利益に役立つという、市場原理主義者の見解」は、世界的な富と貧困の格差の拡大、世界的な金融危機によって間違いであることが証明されたと論評しました。

 このように、米国を中心とした金融が暴走してバブルが崩壊し、深刻な「グローバル恐慌」を招いてしまった主犯は市場原理主義にあるという見方が広がっています。マスメディアの論調も、かつての市場原理主義礼賛の姿勢は薄れ、批判的議論が目立つようになってきました。

 注目されるのは、日本の新自由主義的改革、「構造改革」の積極的推進者であった中谷巌氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長)の懺悔(ざんげ)(中谷巌コラム「資本主義はなぜ自壊したのか?」同社サイトより)です。

 「『なんでも市場に任せるべき』『国がどうなるかは市場に聞いてくれ』という新自由主義的な発想に基づく『改革』は、無責任だし、危ない」。「平等社会を誇っていた日本もいつの間にかアメリカに次ぐ世界第2位の貧困大国になってしまった」。「新自由主義的な発想に基づく『改革』でなく、日本のよき文化的伝統や社会の温かさ、『安心・安全』社会を維持し、それらにさらに磨きをかけることができるような、日本人が『幸せ』になれる『改革』こそ必要である」。

 そのためには、何が必要か。「底辺を底上げし、貧困層が社会から脱落していくのを防ぐこと。日本の奇跡的成長の原動力であった中間層の活力を回復しないと日本の将来はないと考えるからである。日本が富裕層と貧困層に2分されてしまえば、社会は荒み、日本の良さは失われるだろう」。

 実にまっとうな意見。中谷氏の見事な「変身」ぶりに驚かされます。このような深刻な反省のもと、新自由主義的な「小さな政府」でなく、「政府の役割」重視の経済政策が模索されています。

 今、「大きな政府」に戻るのか、「小さな政府」の手直しで行くのか、など二者択一的議論が花盛りですが、「大きな政府」でも「小さな政府」でも、大企業主体の経済構造を前提とした大企業優先の経済政策であったという実態は共通しています。それが「失敗」し、ビックスリーに象徴される大企業のビジネスモデルも頓挫しました。

 「したがって、現代資本主義経済に問うべき残された道は、中小企業本位の経済構造を構築し、中小企業本位の経済政策を実施する道」(大林弘道「DOR(ドール)の眼」同友会景況調査報告―DOR―85号)です。

 長引くことが予見される「グローバル恐慌」を克服するためにも、そして回復後も、中小企業を中軸に据えた草の根からの日本経済の新しい成長発展をめざす中小企業憲章の立場からの経済政策が求められており、私たちは実現可能な政策として提示していかなければなりません。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 2月 15日号より