研究開発参加型で広領域の“ものづくり”へ(株)三栄機械 社長 齊藤 民一氏(秋田)

大学・研究機関・地元企業と連携して新分野に挑む

 秋田県の機械・電子部品産業が集積している由利本荘市や、にかほ市の地元企業でも、国内大手電機メーカー等からの受注量が急減し、生産の縮小を余儀なくされています。大手からの受注に依存してきた数社の企業では、工場の閉鎖や正社員を含む数百人規模の人員削減が行われ、地域経済にとっても深刻な影響が出始めています。

未経験の需要急減の中で

 前期(11月末)決算では20億円以上の受注で好調だった(株)三栄機械も、今期は厳しい予測を立てざるを得なくなっています。

 代表取締役の齊藤民1氏は「2月は前期比30%減。3月は前期並みでしたが、4月、5月は、今のところ前期比で50%減の受注」「これまでは、いくつかの分野で需要が急減しても、別な分野では高い需要が維持されたり生み出されていました。今まで経験したことのない需要の激減といえるでしょう。“ものづくり”に限らず、全業種に停滞感があります」と深刻な表情です。

 (株)三栄機械の歴史は、幅広い分野の“ものづくり”に挑戦してきた歩みです。07年度の受注高構成を見ると、航空機分野で32%、電子部品分野で25%、プラント分野で15%、建築分野で14%、その他が14%と多岐にわたっています。しかし、その幅広い受注領域をもってしても「生半可な覚悟では、将来が危い」のが現状です。

新分野、開発に挑戦してきた歩みの中から

 (株)三栄機械は1971年、オーダーメイドの機械メーカーとして設立されました。しかし、「なかなか、飯が食えなかった」ので、プラントの設計・製作・施工、メンテナンスという分野や、建築鉄骨分野にも取り組んできました。

 地元でも後発の会社だったため、地元の諸先輩に割り込んでまで当地の大手電機メーカーの仕事を確保すべきでないということもあり、新市場・新分野には当初から積極的に挑戦を続けてきました。中途採用者(Uターン者)の積極的な受け入れによる新技術の習得や、人的つながりを活用して受注分野を広げる努力も重ねてきました。

航空機分野で県内企業、研究機関とコンソーシアム

 98年ころには、金融の国際化に合わせるように、国内の“ものづくり”産業が空洞化。それまで受注していた省力・省エネ機械や設備の受注が減少していきました。

 多くの生産拠点が国外に移されていく中、危機感を持った齊藤社長。国内に残りそうな“ものづくり”産業は何かと考え、「大学との共同研究による新製品の開発、ゴミ焼却プラントなど生活関連設備の保守。その中で、航空機産業の将来性に着眼することができたのです」といいます。

 航空機関連分野に携わっていた人材が中途採用で確保されており、93年には航空機の整備用機材を受注した実績もありました。航空機関連分野を担う国内大手メーカーに、より積極的に足を運ぶことになります。

 ボーイング社が生産するB787(中型旅客機)の主翼などの生産を三菱重工が担当することになり、2006年4月から(株)三栄機械がその生産設備の一部を受注生産することになったことは、マスコミでも大きく報道されました。

 「B787の量産はまだ開始されていないので、本格的な受注はこれからです。しかし、すでに当社では実用生産設備の一部を製作・納品し、主翼の生産は開始されています。国産初のジェット小型旅客機の開発も始まりました。どちらも今後、大きく期待できるものです」(齊藤社長)。

 06年には、秋田県産業技術総合研究センターが中心となって「輸送機コンソーシアム」が設立されました。それによって県内企業や研究機関が協力し、航空機関連分野の受注をめざす体制が作られました。(株)三栄機械がそこに加わったのは、当然のことでした。

商品が変われば生産設備も変わる

 「自動車なども変わり目を迎えていますが、従来の商品が変わる時には、生産設備も変わります。B787の場合も、機体の主材料が、それまでの金属からカーボンという新しい素材に変わり、軽量化による省エネ効果が期待されているものです。そこに新しいニーズや需要が生まれることが、当社の受注に結びつくのです」と話す齊藤社長。

 3月には、特殊な風力発電装置を製作し、秋田県の鳥海山の麓に設置しました。これは、南極の昭和基地に設置する風力発電装置のモデルとして設計され、耐寒・耐久試験のために設置された装置です。

現在の変化が生み出す新しい仕事に明るい展望

 齊藤社長は、同社の特色と今後の展望について、次のように話しています。

 「当社の特色は、(1)幅広い事業領域、(2)設計技術部門がある、(3)大学・研究機関・同業者との技術ネットワーク、(4)開発能力、(5)部品調達力、(6)小廻りがきくということになると考えています。この特色を生かして、将来の“ものづくり”を担ってゆく展望を切り開いてゆきたい。

 今期は予断が許されませんが、後半には航空機関連分野の仕事が動き始めると予測しています。来期には、航空機関連に加えて、現在の変化が生み出す新しい仕事がありそうで、今期よりは、明るい展望を語ることができると考えています」。

社員と共に、生きがいと働きがいを求めて

 齊藤社長は、2007年3月に開講した宮城同友会の『第18期経営指針を創る会』を受講しました。

 「それまで必死にやって来たことが、大筋で間違っていなかったことが確認できました。

 当社の財産は、なんと言っても人材。やはり、社員と一緒に人間らしく豊かに生きてゆくことが第1の目標です。仕事を通して人々が豊かに生活できることに貢献し、役立つことで自分はこの社会に無くてはならない存在と自覚が生まれ、そこに生きがいを感じ、頼りにされる人間になっていくことに気づいていく。そのために力を発揮してもらいたいと期待しています」と力強く語りました。

経営理念

・私たちは、もの創りを通じてお客様の求める満足に応え、それによって自己の充実をはかると共に地域社会の発展につくします。
・私達はものづくりを通じて『真の産業創造』に挑戦する企業です。
・私達は自然に調和する『真の豊かで快適な生活の実現』で社会に貢献します。
・私達は『わくわく、どきどき』する夢のある人間集団を目指します。

〈スローガン〉
 夢の実現限りない可能性

会社概要

設立 1971年
社員数 88名
資本金 2700万円
年商 20億円
業務内容 各種機械の設計製作、プラント工事、鋼構造物製作、設備メンテナンス
所在地 秋田県由利本荘市川口字家妻
TEL 0184-23-1094
http://sanei-kikai.com/

「中小企業家しんぶん」 2009年 4月 15日号より