世界的な水不足問題を考える

清浄にして低廉な水の確保は地球的課題

 「『水の惑星』といわれる地球だが、水のほとんどは海水で、人間の生活に利用できる水の量は、0・01%にすぎない。世界で安全な水を飲めない人口は8人に1人、9億人近い。地球温暖化や人口増加、途上国の生活様式の向上で、さらに水は足りなくなる。世界は水不足に直面している」。

 このような問題提起から始まる(株)エステム(鋤柄修会長)主催の第19回環境フォーラムに参加し、水問題を学ぶことができました。

 (株)エステムの若手社員が企画運営した環境フォーラムには、約500人が参加。同社社員によるシャープな問題設定と環境に関する啓蒙が光ります。講師は、沖大幹氏(東京大学生産技術研究所教授)と吉村和就氏(グローバルウォータ・ジャパン代表)。両氏は、水に関する学問とビジネスのオピニオンリーダーの双璧です。

 豊かな水に恵まれている日本ですが、実は日本人の生活は世界の水に支えられているという話は衝撃的でした。食料自給率がカロリーベースで40%しかない日本は、食料を輸入することで実質的に海外の水に依存しています。穀物や畜産物を育てるには膨大な水が必要。例えば、牛丼一杯には約2トンの水が必要とのこと。この水の量をバーチャルウォーター(仮想水)と言うそうです。沖教授の研究によれば、食料輸入に伴う仮想水の総量は、年間640億立方メートル。日本人が使う水の4割になり、日本は世界最大の水輸入国になっています。

 このような事実からも、水、食料、エネルギーは三位一体で考える必要があるという提起は説得的でした。食料やエネルギーと同じく、水は世界の安全保障の問題としてとらえられます。

 実は、中同協でも水の深刻な問題について警鐘を鳴らしています。「現在、世界各地で水不足が起きています。工業化や生活水準上昇による地下水の過剰汲み上げや水質悪化、砂漠化が進行しています。…このような水不足は食糧危機にも直結する重大問題です。水不足を解消するには4兆ドル程度の投資が必要と見られ、国を超えた世界的な取り組みが必要な段階にあるといわれています」(中同協第38回総会議案、2006年)と強調しました。

 水資源を確保する手段としては、海水の淡水化と下水・排水の再利用など水のリサイクルがあります。その際に使われる分離膜は日本発の技術であり、大きな世界シェアを占めますが、部品として買われるだけで、大きなビジネスにはなっていません。

 水ビジネスでは、フランスなどの巨大世界企業が有名ですが、米国のGEやドイツのシーメンスも海水淡水化事業などに乗り出しています。なんと、IBMが水ビジネスに参入し、5年以内に200億ドルを超える市場規模とすると発表していることも驚きです。

 フォーラムの討論では、水の確保は基本的人権の問題であり、水インフラの整備は国家や自治体が責任を持ちつつ、健全な水循環の確保のため、公共と民間の適切な協力が望まれるとまとめました。有意義な情報とヒントにあふれたフォーラムでした。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 6月 15日号より