≪パネルディスカッション≫新卒採用の継続で企業が変わる~東北合同企業説明会準備例会より【宮城】

 「東北合同企業説明会準備例会」が2月18日、仙台市民会館を会場に宮城同友会共同求人委員会の主催で開催され、東北各県会員・学校関係者・行政の参加者も含め76名が参加しました。今回の準備例会は、(1)採用を「経営指針・社員共育・共同求人」の三位一体の視点でとらえ、企業づくりの中でどのように生かされてきたか、3名のパネリストの取り組みから学ぶ(“企業づくり”の視点)、(2)宮城県に東北各県から多くの学生が集まる地域特性を踏まえ、“地域に若者を残す運動”として東北各県会員企業と学生が出会う場「東北合同企業説明会(案)」開催の提案について意見交換をする(“地域づくり”運動の視点)、の2点をねらいに企画されたものです。当日のパネルディスカッションの概要を紹介します。

パネリストの会社概要

≪パネリスト≫ ※( )内は宮城同友会内役職
(株)パンセ 社長 菊地 肇氏(経営労働委員長)
設立 1989年 資本金 3000万円 社員数 200名 事業内容 ベーカリーショップの展開
(株)真壁技研 社長 真壁英一氏(社員共育委員長)
設立 1952年 資本金 1000万円 社員数 17名 事業内容 精密機器製造販売
(株)ヴィ・クルー 社長佐藤 全氏(共同求人委員長)
設立 2006年 資本金 2400万円 社員数 34名 事業内容 車体製造事業、リサイクル事業、製品開発及び販売事業
≪コーディネーター≫
(株)佐元工務店 社長 佐藤元一氏(代表理事)

各社を取り巻く経営環境と経営指針の取り組み

菊地 当社はパンの宅配からスタートし、1993年から本格的に大手スーパーのインストアベーカリーの店舗展開をはじめました。2000年~2001年のピーク時には18店舗となりましたが、2005年から郊外型の路面店に大きく方向転換しました。2008年までの3年半の期間でインストアベーカリー18店舗中17店舗を撤退、路面店を5店舗出店しました。

 この大転換を決意したのが、経営労働委員長として参加した「第15期経営指針を創(つく)る会」(2004年)です。受講生への課題として出した「自社の10年ビジョン」をきっかけに、わが社の10年後を考えるようになりました。 大手スーパーの熾烈(しれつ)な競争の中で、インストアベーカリーの店舗展開の継続だけではわが社の未来はないとインストアから路面店の転換を決意しました。会社名も(株)パンセへと変更し、本社も移転しました。

 理念と共に働く社員以外は全て変わったのが現在までの取り組みです。

真壁 私は「第16期経営指針を創る会」(2005年)で経営指針を成文化しました。主に東北大学で形状記憶合金などの新しい材料をつくる際に使用する研究開発の装置をつくっています。

 成文化後、もっと地元に生かした取り組みにしていきたいと東北大学発のベンチャー企業を設立し、地元の中小企業や地域に貢献できる小規模でも価値の高い商品をつくっていくことをわが社の使命として取り組んでいます。

 取り巻く環境は、リーマンショック以降、多くの研究開発が凍結され、一昨年の10月から急激に売り上げが落ち込んでいる状況です。

佐藤(全) 私は「第15期経営指針を創る会」で経営指針を成文化しました。その中で「人、車、地球を元気にするメーカーになる」という方向性を見出し、板金・塗装以外にも製品開発事業に取り組むようになりました。

 現在では、バス用路肩灯などの自社製品を新車の7割まで搭載して頂いています。ほかにもバス業界、それに関連した企業を元気にしたいとIT事業にも取り組んでいます。

 取り巻く環境は、円高の影響から海外からのお客様が3割減、国内はインフルエンザ問題で修学旅行などの団体旅行のキャンセルが相次ぎ、直接のお客様であるバス会社の経営は著しく悪化しました。「新車が買えないから修理をしよう」が「修理さえできない」という厳しい状況です。

新卒採用と会社の変化

菊地 2001年までは出店に伴ってパン職人の中途採用が中心でした。2002年から幹部候補を育てようと新卒採用をはじめました。以降、毎年2~6名の新卒採用をしています。中途採用については、パンづくりの経験は一切問わず、人物本位で採用するようになりました。

 インストアベーカリー時代はローコストの経営で1店舗正社員1名、あるいはパートさんだけの組織づくりでしたが、路面店の経営はいかにお客さんに喜んでいただくかの組織づくりに変化し、社員にとっての働きがいは大きく変化したと感じています。

真壁 経営指針成文化前までは補充という形の中途採用が中心でした。経営指針成文化以降、毎年1名新入社員が入社しています。残念ながら今年の採用は控えている状況です。

 現在の構成は、中途採用と新卒採用が50対50の比率です。新卒採用で入社した社歴の一番長い社員が、「生涯この会社で働きたい」と言っているのを聞くと、大きな喜びと同時に責任を感じます。

佐藤(全) 「人を育てながら新しい仕事をしていかなければ会社の未来はない」と、厳しい経営状況の中でも新卒採用を16年間継続してきました。現在の社員の多くは新卒採用です。

 経営指針成文化後、共同求人活動に参加し、「人を採用する活動」から「地域の若者を育てる活動」だと気づきます。合同企業説明会では勤務条件を話すのでなく、今後の会社の方向性や社員とのかかわりについて熱く語ってきました。

 大きく変化したのは、わが社を選ぶ条件が勤務条件、給与、業種から経営理念への共感になりました。入社後も、考え方のスタートラインは全く違いますので、社員の成長のスピードは明らかに変わりました。

「社員共育」の具体的取り組み

菊地 具体的な取り組みとしては、定休日に「ひまわり塾」というものを開催しています。私が塾長を務め、塾生は新入社員と一昨年入社した中堅社員です。(1)仲間の前で自分の考えを話す、(2)社長である私がどんな人間であるかを理解してもらう、(3)仲間同士の対話を大切にしています。私が指定した本の読書感想文の発表や数字の勉強、先輩社員の体験報告・グループ討論などをしています。

 また、「社長面談」を春秋の年2回行っています。口外しないことを約束に社員が抱える仕事や家庭、人生の悩みについて話す機会を設けています。その他にも「店長会議」、「全国の有力同業他社店での研修」、講師を招いての「販売促進講座」などを行っています。

真壁 全社員を対象に「社長塾」というものを月1回開催しています。その中で「企業変革支援プログラム」を活用しました。技術系の会社の特徴ですが、「製品やサービスの企画・設計」や「間接部門サービスの運営」の分野について意識は高いのですが、「社員の自主性の発揮」「共に学び共に育ちあう社風づくり」の分野については非常に意識が低いという結果が出ました。

 現在は「人とのかかわりとは何か? コミュニケーションとは?」をテーマに毎月グループ討論をしています。ほかに「個人面談」などにも取り組んでいますが、経営者自身が使命感を持って継続していかなければ社員は育っていかないと感じています。

佐藤(全) 採用の際に、私ではなく幹部社員に選んでもらっています。以前は「もっとよい人を採用して下さい」という声がありましたが、現在は幹部社員自身が採用にかかわっていますので、「必ず一人前にしよう」という社風になってきました。

 また、朝礼前の幹部とのミーティングの際に、社長の私が怒られる場面もあります(笑)。会社の中で自分たちはどうしたいかをしっかりと持って話し合いに参加していることを感じます。そのほか、給料の時に手紙を書いています。家族の方々に手紙を通して会社の方向性を理解してもらいたいと思い、継続しています。

経営指針・社員共育・共同求人を三位一体として

菊地 経営指針成文化後、経営指針書を毎年更新し、実践し続けることを当たり前にできる宮城同友会にしたいと考えています。残念ながら更新していない企業が多いのが現実です。成文化はゴールではなくスタートです。わが社も15年更新し続けていますが、まだまだ未熟です。更新し続けて、少しずつ浸透していくものと確信しています。

 昨年から「経営指針を創る会」が終了した3ヵ月後に、「フォローアップ」の場を設けました。実践中の悩みや課題を励ましあいながら解決していく場にしています。

 経営指針を毎年更新し、実践し続けていくことを全員で約束しましょう。(拍手)

真壁 経営指針が成文化されていることが前提です。(1)「経営者と社員の人間的成長が会社の発展」であること、(2)「社員自ら考えて行動できる」、(3)「社会人として当たり前のことが当たり前にできる」、(4)「中小企業で働くことに自信と誇りが持てる」の4点を根底に、「新入社員合同入社式・共育研修会」、「フォローアップ研修会」、「社員共育塾」に継続して取り組んでいきます。

佐藤(全) 経営指針の実践の中で、社員の成長を最も感じるのは後輩を迎えた瞬間です。新しい仕事への挑戦に社員の成長は不可欠です。地域では若者が流出し、結果的にマーケット自体も縮小しています。地域に若者が残るかどうかは地域の未来にもつながります。宮城県は東北から多くの学生が集まっています。地元に戻って働きたいと話す若者がたくさんいます。

 今回、東北各県の同友会に「東北合同企業説明会(案)」開催を提案させて頂きました。1つでも多くの県が共同求人活動に取り組み、若者が地元で働くことができる地域づくりにつながればと願っています。

コーディネーターのまとめ

佐藤(元) 同友会の「よい会社」の定義は、(1)経営理念が明確である、(2)お客様、取引先、地域社会から信頼が厚い、(3)社員が生きがい使命感を持って働いている、(4)どんな環境下でも、雇用を守り、永続的に利益を出し続ける会社、と大変厳しい定義です。

 3名のパネリストの取り組みには3つの共通点があります。1つ目は経営指針・社員共育・共同求人を三位一体として継続していること。2つ目は社員を最も信頼できるパートナーとして位置付け、社員を育て、信頼関係の構築に努力をしていること。3つ目は、経営者自身が厳しい経営環境の中でも前向きであり、謙虚な姿勢と素直な心を持ち続けていること。まさに同友会運動の原理、原則に基づいた経営実践例です。

 厳しい環境下の中でも中小企業憲章制定がいよいよ現実的なものとなってきました。私たち中小企業が灯台となり、東北6県が連携し、明るく豊かな東北をつくる時代がいよいよやってきた感があります。今こそ同友会運動の旗を正々と掲げ、堂々の事業、まさに正々堂々この時代に挑んでいきたいと思います。共に明るく豊かな東北地方をつくっていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2010年 4月 5日号より