武蔵野の柿の木畑にダチョウがきた~オーストリッチハウス並木屋 代表 並木 大治氏(埼玉)

都市近郊農家の跡継ぎが切り開く未来

オーストリッチハウス並木屋 代表 並木 大治氏(埼玉)

並木代表

武蔵野の風景にダチョウが似合う

 東京有数の繁華街、池袋から電車とバスを乗り継いで40分もしないうちに、畑の中に雑木林や住宅地が点在する武蔵野の風景が広がります。そんな風景にとけ込むように、「だちょう牧場」はありました。

 簡単な木の柵で囲われただけの牧場には柿の木が葉を茂らせ、その横でダチョウがのんびりエサをついばんでいます。柵に近づくと、あの長い首をぐーんと伸ばして、見学者を四方八方から眺め回します。思わず身を引くと、「ダチョウは好奇心が強いんですよ」と並木大治さん(オーストリッチハウス並木屋代表、埼玉同友会会員)。

 並木さんは、埼玉県新座市で代々農業を営む農家の12代目。元をたどれば、先祖は鎌倉武士だといいます。そんな並木さんがダチョウにとりつかれたのは14年前、何気なくテレビを見ていたら、島根でダチョウを飼っている人が紹介されていました。

 畑作中心の親の跡を、跡継ぎだからといってただそのまま継ぐのはいやだと考えて大学で畜産を学んだものの、何かないかと模索の日々を送っていた並木さん。ダチョウの話にこれだとひらめくものがありました。そんなとき、商社に勤める友人から、ダチョウ産業を立ち上げることになったといって紹介されたのが、小久保謙さんです。

 並木さんが「私の師匠です」と仰ぐ小久保さんは、本来アフリカに生息するダチョウの家畜化に注目した日本のダチョウ産業のパイオニアの1人で、現在も北海道・東藻琴村でダチョウ産業を展開する(有)オーストリッチジャパンの代表(北海道同友会会員)です。

肉も卵も皮も油もみんな活用できる

ダチョウ

 「ダチョウを飼おう」。そう決意した並木さんの元に、早速ある動物園がダチョウの払い下げ先がなくて困っている、買わないか、との話が持ち込まれます。「忘れもしない、1997年4月、3羽購入したのが始まりです」。1羽98万円でした。

 初めて作った飼育場は、まるでバッティングセンターのように高く金網で囲った代物でしたが、すぐに、人なつこく、ケンカもほとんどしないダチョウの生態が分かり、現在の簡単な柵に落ち着きました。

 ダチョウの肉は、高タンパクで低カロリー、鉄分は牛の2倍と健康志向にぴったり。鶏卵の25個分はある卵も料理やお菓子の素材として活用できる。皮はもちろんオーストリッチ製バッグなどと人気が高い。オイルは化粧品に、羽は羽で活用範囲が広い。しかも、飼育方法は簡単で、糞尿などの臭いもなく、声帯がないので静かで、都市近郊で飼っても近所迷惑にならない。減反対策にもなる。そんな夢がどんどん広がっていきました。

 そして、農家も「経営」という発想が必要と、同友会にも入会しました。

始まったダチョウとの模索の日々

 ダチョウ産業がブームになりかけた頃で、埼玉県では初のダチョウ飼育でした。市役所の環境課からは、もし臭いがきつくて近所から苦情が出たら、「公害」として問題視する、と警告が入る一方、珍しさからマスコミでも大きく取り上げられ、見学者もたくさんやってきました。

 しかし、名前だけは先行したものの、「ダチョウを飼って、繁殖させ、肉や卵を売る、月25万円もあれば一家族が暮らしていける」という考えがいかに甘かったか、痛感させられる日々が始まります。

 まず、ダチョウの肉には食肉としてのマーケットがありませんでした。パイオニアたちの努力で、食材としての認可は得られたものの、ダチョウ専用の屠畜場が東京近郊にはなく、山形までダチョウを運ばなくてはなりませんでした。一番期待していた肉の販売でしたが、屠畜場が近くにないばかりに、売りたくても売れない状況が続きます。

商品開発に力いれ、観光牧場に活路

 そこで5年前、観光牧場へと転換を図ります。入場は無料ですが、ダチョウの卵を中心に商品を開発・販売することにしました。

 商品開発第1号が、ダチョウの卵を100%使った「だちょうのたまごサブレ」です。世界で一番大きい鳥の卵というダチョウの卵と同じ大きさにしました。埼玉県が地域ブランド商品の開発を応援しようと行っている「ジモトのおやつ」にも選ばれました。

 県内の酪農家と提携して商品化した「だちょうのたまごアイス」も好評です。そのほか、ダチョウの卵を使ったどら焼きや白パンもあります。

 アイスの開発では、提携した酪農家がたまたま学生時代に同じ研究室の仲間だったことから、「大いに助けられた」と並木さん。ダチョウ産業に入るきっかけも友人でした。今は、高校の同級生の協力でプリンの商品化も進んでいます。

 しかし、この間、企画から生産まですべてプロデュースしてバッグの製造販売にも挑戦してみましたが、皮革産業への参入も壁が厚く、それ以上深入りすることはできませんでした。

都市近郊農家がダチョウ産業で地域貢献

 一時はブームになって、あちこちでダチョウ牧場が立ち上がりましたが、最近では、「屠畜場が少ないため、食肉としてのマーケットが広がらない」などから、撤退・廃業が相次いでいるといいます。廃業した業者の依頼でダチョウを引き取ることもあり、並木牧場のダチョウは現在16羽。

 最近になって、国や県、市から視察がきたり、外国からも観光客や視察に訪れる人が増えました。

 並木さんにとっては、ダチョウ産業の未来への明るい兆しと感じられました。「ダチョウの可能性は大きい。とくに都市近郊で飼える家畜としてダチョウが注目されている」といいます。

 今後は、「観光に力を入れ、ダチョウの卵を使ったお菓子づくりの体験もできるなど、魅力あるコンテンツを増やしていきたい。また、農商工連携のようなことも考えていきたい」「これまで多くの人と知り合い、支えられてきた。お互いに認め合い、協力していくことを大事にしながら、新座市の地場産業として地域貢献していきたい。商売で一番大事なのは人情だと思うから」と、人なつっこい笑顔で語る並木さん、40歳です。

 今回の取材の間にも、地域情報紙が取材にきたり、まちづくりを推進するNPOが訪ねてくるなど、地元で生まれ育ち、地元に根を下ろし、地元と共に生きていこうとする並木さんのネットワークの広さを垣間見る思いでした。

プロフィール

創業 1997年
従事者 従業員1名と家族
規模 敷地1600坪、ダチョウ16羽(ダチョウの飼育、肉・卵・皮を使った商品開発、観光牧場)
所在地 埼玉県新座市池田3-7-16
TEL 048-478-5546
http://www.namikiya.com/

「中小企業家しんぶん」 2010年 5月 25日号より