【アメリカ視察報告】強い権限持つアドボカシー・オフィス

中小企業憲章制定後の課題を探る

 中同協は10月17~24日、「中小企業憲章アメリカ視察団」(団長・広浜泰久中同協幹事長)を米国のワシントンとニューヨークに派遣しました。主な目的は、日本での中小企業憲章制定後の課題を探求するために、豊富な歴史的経験を持つアメリカの中小企業の実態と政策を調査することでした。本稿では、視察の様子と知見を4回の連載でお伝えします(中同協政策局長 瓜田靖)。

 視察団は、10同友会・中同協の15名で構成。コーディネーターとして大林弘道氏(神奈川大学教授)に同行いただき、行政関連機関や中小企業団体など7カ所を訪れ、懇談しました。

 連邦中小企業庁(SBA)では、4名の担当者から米国経済と中小企業の現状、同庁の中小企業政策の概要、災害対策、マイノリティ・女性企業家支援策などについて説明を受け、活発な質疑応答となりました。同庁の中小企業政策は、(1)事業融資、(2)起業家育成・経営支援、(3)連邦調達、(4)アドボカシー・オフィスの4つの柱で展開しています。

 資金調達支援では、まずローン保証プログラム(平均貸付金額24万ドル)があります。これは、民間金融機関の通常審査では借入れが困難な中小企業に対しSBAが保証するもの。

 また、地域の経済発展を促進する公認開発公社(CDC)ローン・プログラムや小口短期融資のミクロローン・プログラム(平均貸付金額1万3000ドル)などもあります。

 米国の中小企業政策で驚かされるのが起業家支援の手厚さ。無料で個別カウンセリングを提供する経営支援のネットワークが張り巡らされています。まず、全米に938カ所設置されている中小企業育成センター(SBDC)は多くが大学内に所在し、官民が協力し運営する起業家育成と経営支援の拠点となっています。今回の視察では、ニューヨーク・マンハッタンのペース大学に拠点を置くニューヨーク州のSBDCを見学しました。

 また、1万500名の退職した中小企業経営者などを経営相談のボランティアとして組織し、全米370カ所にあるSCORE(スコア)も充実しています。

さらに、108カ所に拠点を置く女性ビジネスセンター(WBC)や、19カ所の米国輸出支援センター(USEAC)、事業計画や起業情報などの研修をオンラインで実施している中小企業研修ネットワーク(SBTN)など、至れり尽くせりの支援体制をしいています。

 米国政府は世界最大のモノとサービスの購入者であり、現在5000億ドルの調達・財政支援をしています。SBAは、この連邦調達予算の23%を元請契約金額で中小企業が獲得するため24省庁と交渉するなど権限を発揮しています。

 SBAの視察で最も印象的だったことは、アドボカシー・オフィスの存在です(11月15日付「同友時評」参照)。同オフィスは、議会の全ての立法をチェックし、公聴会などで中小企業の立場で意見を述べたり、必要な場合は連邦政府に対する訴訟を支援することもできる法的権限と強い独立性を与えられています。時には自らの方針に逆らう独立した機能を政府機関内に抱えるアメリカの懐の深さに驚嘆させられました。

 フランスの思想家トクヴィルは、19世紀にアメリカ合衆国を旅して著した『アメリカのデモクラシー』のなかで、「アメリカ人の重大な特典は、他の諸国民よりも文化的に啓蒙されていることではなく、欠点を自ら矯正する能力を持っていることにある」と述べています。今回の視察中に米国社会がさまざまな問題を抱えていることを垣間見ました。しかし、もう一方で自己修正力の伝統を受け継いでいるアメリカ民主主義の一端をSBAのアドボカシー・オフィスの存在に見ることができたことも大きな収穫でした。

集合写真

「中小企業家しんぶん」 2010年 12月 5日号より