【アメリカ視察報告】(3) 日米中小企業家の熱い思いを交流

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アメリカ視察では、全米独立企業連盟(NFIB)と全米女性経営者協会ニューヨーク支部(NAWBO―NYC)の2つの中小企業団体と懇談しました。

NFIBは、35万人の会員を擁する1943年設立の団体であり、強力なロビー団体と評価されています。

同連盟の政策アナリスト、ウェイド氏によれば、米国の中小企業の生存率は、5年以上が49%、10年以上が34%、15年以上が26%。同氏は、 15年でわずか4分の1しか生き残らないことが問題であり、連盟は経営環境を整備し、生存率を伸ばす努力をするのが使命と強調しました。米国の中小企業団体の気概が伝わってきます。

同連盟の会員構成は、90%以上は従業員40人以下の企業であり、半分は10人以下と小規模企業が主体。従業員が25人以上になると人事部等が必要になるなど行動様式が大企業に似てくるので、25人以下の「オーナー経営者が何でもやらなければいけない企業」に対象をしぼって活動していると同氏は説明。興味深い組織方針でした。

NFIBは、ロビー活動の政策の優先順位を決めるため、4年ごとに会員各社にアンケートを実施。75項目の政策・要望事項の中から7項目を会員が選択し、企業規模別などに集計したデータを取って公表しています。また、毎月「中小企業楽観指数」を発表しており、米国の中小企業分野の代表的な景気指標とみなされています。データで説得力を持つという姿勢は大いに参考になりました。

次に、NAWBOとの懇談では、4人の女性経営者の役員が対応。視察団とお互いに一人ひとりが自己紹介を行い、日米の中小企業家の熱い思いと心意気を交流することができました。同協会は、1975年に設立され、80支部7000名を擁する「女性企業家の利益を代表する唯一の会費制の組織」(米国中小企業庁)。交流の中では、女性経営者同士の情報交換のネットワークが優れているから入会したとか、非常に経営が難しいときに同協会に助けてもらったという経験なども話題になりました。

今回の視察で共通の話題となったのが健康保険改革問題。日本人の視察団1行にはなかなか理解しがたい面がありました。

「2007年に、健康保険に加入していないアメリカ人は約4600万人、その多くは中小企業で働いていた。…中小企業で働くほぼ1600万人―ほぼ 4人に1人―の民間部門賃金・給与労働者が何らかの理由で健康保険に加入していなかった。…さらに、370万人の自営業者が健康保険に加入していなかった」(『アメリカ中小企業白書2008・2009』)。

このような状態であるにもかかわらず、健康保険改革に多くの中小企業団体が反対してきました。それは、「給料も十分に払えない状況で高額な保険掛け金を負担することはできない」(NAWBO幹部)という意見に集約されます。

米国では医者が医療過誤の訴訟を恐れて高額の保険に入るため、医療費・保険料が異常に高くなるとのこと。オバマ大統領の健康保険改革は、「従業員数50人以上の企業の強制加入」と妥協することで成立しました。

健康保険問題での意見交換では、アメリカ社会の病理の一端に触れたような気がしましたが、アメリカの中小企業が抱える問題の難しさ、困難さも垣間見ることになりました。

(中同協政策局長瓜田 靖)

「中小企業家しんぶん」 2011年 1月 5日号より