【全研特集】呼び起こそう、経営者の魂を!切り拓こう、地域の未来を!

第41回中小企業問題全国研究集会(2011年3月3~4日 於:岡山)

 3月3~4日「呼び起こそう、経営者の魂を! 切り拓こう、地域の未来を! 今こそ同友会理念の実践と検証を」をテーマに岡山で開催されました。

【記念講演(概要)】地域の未来と文化力 財団法人大原美術館 理事長 大原謙一郎氏

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 記念講演では「地域の未来と文化力」と題して、倉敷市にある(財)大原美術館理事長の大原謙一郎氏が講演を行いました。

 大原氏は、数多くの写真を映しながら、また全国のさまざまな事例を交えながら、地域の未来と文化力の関係、中小企業の役割、地方の視点の大切さなどを、約70分にわたって語りました。

 その中で大原氏は、西国は民間人の街であることに触れた後、「最近、『新しい公共』ということがよく言われますが、西国では民間が公共的機能を担っていくというのはある意味では当たり前でした」と指摘。京都では、明治時代に国が「小学校をつくりなさい」と命令を出した時に、町衆がすでに60いくつもの「番組小学校」を立派につくりあげていたこと、阪神間では、明治から昭和のはじめにかけて、民間人が「阪神間モダニズム」というすばらしいコミュニティをつくりあげていたことなどを紹介しました。

質の良い世界と日本の出合いの場を

 続いて大原氏は、大原美術館の入り口にある児島虎次郎という画家の描いた絵を紹介。「彼がベルギーに留学中に、ベルギーの少女に和服を着せて描いた絵です。このように世界と日本の出合いを形にしたいというのが、私たち大原美術館の理念です」「大原美術館は、日本の民芸も非常に重視しています。生活の中に美しいものがある。それが私たちの世界に対する大きなアピールになるからです」と語り、大原美術館の理念や考え方などを紹介しました。

 また大原氏は文化の果たす役割について触れ、「文化はどのように働くのでしょうか。クリエーションのクオリティーを高めます。生活のクオリティーを高めます。アートと生活は、民芸を橋にして1つになります。これは日本に独特の世界に発信できる文化です」などと述べました。

 さらに日本の絵や文化の特徴について、「枠の外にある世界といろいろ響きあうのが日本の絵です。それが日本の床の間のしつらえになっています。床の間があり、書院があり、障子から光が入ってくる。その光が朝の鮮烈な光である時と、夕方のやわらかい赤っぽい光である時とでは、床の間にある軸は景色を変えます。これが日本の美術です。そしてそれを季節に合わせて、掛け軸の絵を『そろそろ桃の花に変えようかな』と考える。そして障子越しの光の移ろいを楽しむ。これが日本文化です」と語りました。

 また、「21世紀は文化の世紀」と言われていることに触れ、「間違ってはいませんが、意味をもう少し深刻にとらえる必要があります」と指摘。21 世紀に入り、貧富の格差はますます大きくなっていること、このままではこの地球は、環境負担に耐えられない状況になることなどを述べた上で「文化の深いところでお互いにわかり合わなければ、この地球の抱える問題は解決しないのではないか。そのように私たち文化に携わる者は考えています。異文化の融和をもっと考えなければなりません。そして日本もそのわかり合いのサークルの中に入らなければなりません。だから大原美術館は、質の良い日本と世界の出合う場であることにこだわっています。質の良い世界と日本がもっと深いところで出合うことが大事です。多くの文化を理解するための装置として美術館はあるのです」と語りました。

日本の文化を支える中小企業

 大原氏は、「街のつくり方」についても触れ、倉敷市の「花七夕祭り」や「倉敷屏風(びょうぶ)祭」などを紹介しながら、そのようなイベントをつくる時に、(1)公共心を持った民間人、(2)NPOマインドを持った行政、(3)プロフェッショナル、の3つが重要なことなどを指摘。

 さらにそのような街づくりを進めてきた成果として、倉敷への出店希望者が増えてきていることなどを紹介しました。

 その上で、このようなことが日本全国津々浦々で行われていくこと。それぞれの地域が自分の値打ちに気がつくこと。それぞれの企業が、「サイズは小さいかもしれないが、自分たちはこんな機能を果たしている」ということを改めて認識することが大事であることなどを語りました。

 そして、「中小企業が産業だけでなく、日本の文化を支えているのです」と強調しました。

 最後に大原氏は、地方の視点で国のあり方を読み解くことの大切さを指摘。「北国の深み、東海の輝き、西国の闊達、南国の剛毅と関東武家文化などの各地のDNAを大事にしていただきたい。流氷漂う北の国から、黒潮踊る南の島まで、国の全てがこの国の風格を創っているのです」と語り、参加者に「岡山や倉敷では、文化も企業も頑張っています。全国も頑張りましょう」と力強く呼びかけました。

「中小企業家しんぶん」 2011年 4月 5日号より