【特集】第14回女性経営者全国交流会 地域にたくさんの幸せをつくる姿が感動を呼ぶ

 6月9~10日、「知りあい・学びあい・はげまし愛~今こそ生かそう“結い”の精神!」をメインテーマに、第14回女性経営者全国交流会が、ホテルアソシア静岡を会場に開催され、34同友会677名が参加しました。吉村紙業(株)社長の橋本久美子氏の記念講演、広浜中同協幹事長の問題提起、懇親会で特別あいさつした福島同友会の高橋相双地区会長のあいさつを紹介します。

【記念講演】社員一人ひとりが主人公の企業づくり~信じて任せて、組織の成長を実現

橋本氏

吉村紙業(株) 代表取締役社長 橋本久美子氏(東京)

 「明日の飯担当」として、社員一人ひとりを信じて任せていく橋本氏の姿は参加するみなさんの共感を呼びました。社員と共に取り組んだ土俵づくりの実践事例を紹介します。(編集部)

モノの戦いからコトの戦いへ

 会社がどこで生きるかということを、私は土俵の切り方といっています。会社の事業領域を考える時に、大切なことが2つあります。1つは、「誰に売るのか」、もう1つは、「何を売るのか」です。

 「誰に売るのか」ということでは、当社は茶海苔業界の全国8000軒のお茶屋さんがお客様です。ここが一番の特徴です。売上の半分はオリジナルで依頼されて作ったものです。また、3000アイテムの既製品も持っています。オリジナルの場合は低価格競争の世界。既製品では一定の利益を取れます。この2つを両輪として回しています。

 次に「何を売るのか」ですが、茶袋の生産をすべてできる一貫製造設備が焼津の自社工場にあります。それは昭和47年、社員の大反対の中、家内工業からメーカーになることを決意し、父が作りました。ですから、超特急のミラクル納期も可能です。しかし、私が社長になってからこだわったことは、これからはモノの戦いからコトの戦いに持ち込むのが大切ということです。そこでデザイナーを採用し、各営業所に配置。提案型のデザインができるようにしました。またマーケティングもしています。

小さくても耕して、花を育てて実を取る

 茶業界はペットボトルのお茶が登場してから、金額も量も減少しています。また販売する場所も変化しています。専門店が減少し、量販店が増えています。量販店で買う人にインタビューしてみると、スーパーの特売のお茶を買うという消費行動があります。どんどん安いお茶を買うようになり、お茶の入れ方も分からず、水よりまずいお茶を買ったと言う人もいました。

 私はそのことに強い危機感を覚え、茶業界にご恩返しをしていこうという強い思いから茶業界から立ち位置を変えないと決めました。売上が落ち込んだときにも、「異業種に行きましょう」と社員から言われましたが、2番煎じでは、勝てるわけはありません。だったら、この茶業界で変化を創造していこうと思いました。変化は対応するものではなく、創造するものです。需要も同じです。小さなところで種をまき、水をやって育てて、花が咲き実を結んだら、みんなで喜ぶ、そんな仕事をしようと社員に言いました。

「茶業界のビジネスパートナー」として

 茶業界を活性化するためのビジネスパートナーとして自分たちに何ができるかと考えて動くことであり、日本茶の市場を広げるお手伝いをすることと決めたことで、やっていいことと悪いことが見えてきました。

 マイボトルを持参するといれたてのお茶を給茶してくれる「給茶スポット」というものをつくりました。これは、ペットボトルのお茶に慣れた10代の女の子の意見を参考にしています。今協力してくれているお茶屋さんが全国で280軒になっています。お茶屋さんに対面販売するのではなく、この茶業界全体の問題をどうやって解決しようかと一緒に考える側面営業で業界のパイを広げるお手伝いをしていこうということです。

 また、お茶の試飲フェスティバルも企画しています。お茶はとても奥深いものですが、それが若い世代に伝えられていません。そこで20種類のお茶を無料で飲み比べてもらい、好きなお茶に投票してもらいます。そうすると、これが一番おいしいと思った高いお茶を買って帰りました。これは値段ではありません。ここで気づいたことは、「今は価格競争だから安いお茶しか売れないと、自分たちで土俵を切っているのではないか」ということでした。安売りをしないと決めたら、見えてくるものがあります。買いたくなる気持ちにスイッチを入れることです。その仕掛が一番大事なのだと学びました。

明日の飯担当と今日の飯担当

 私は大学卒業後、父の経営する吉村紙業に入社し、出産を機に1度退職、約10年間の専業主婦生活を経て、会社に復帰しました。義弟が継ぐと思っていましたから、6年前に父が「社長を私に」と言った時はびっくりしました。その時に父の言葉が「お前は明日の飯担当、鉄也(義弟)は今日の飯担当」でした。

 今日の飯担当の義弟は、営業と工場を回しています。私は父から「お前は明日何をしていったらいいかを考えて動け」と言われて05年代表取締役社長に就任しました。義弟は副社長で、代表権は2人で持っています。

長所と短所はコインの裏表

 当時はコンプレックスの塊でした。自己表現のセミナーに行き、2つ学びました。1つは「あなたは!」と攻撃的になることではなく、「私はこう思う」と、自分も相手も大切にする自己主張、自己表現をすることです。もう1つは、「長所を伸ばして短所を改めろ、と言いますが、そんなことできるわけありません。おおらかだからおおざっぱなので、おおざっぱだからおおらかなのです。自分の短所を書き出し、それをひっくり返して長所にしなさい」ということです。目からうろこでした。

 社員に対しても、「も~まったく、どうしてこうなの」と思うことがいつもありましたが、「短所を長所にひっくり返すんだ」と自分に言い聞かせました。例えば、新入社員がお茶のことをまったく知らない。それをひっくり返して、茶業界に染まっていない、常識にとらわれていないという長所があるのだと思い、新入社員だけで「柔らか頭プロジェクト」を作りました。この中で生まれたのが、「いっぷくん」という当社のイメージキャラクターです。モノを売るのではなく、一服するというコトを売るのだということです。これが任せるということの力です。上の人間がこうあるべきというよりも、ずっと大きな力があると思いました。

チームであり、ホームである会社

 チームというのは、否定されず何でも言える会社です。ホームであるというのは、傷ついて帰ってきても大丈夫、受けいれてくれる会社というイメージです。こんなことを考えるようになったのは、共に一生懸命仕事をしてきた課長がパーキンソン病になったことがきっかけでした。彼は「迷惑をかけるから辞める」と言いました。私は「一生懸命やっていた人が病気になったから辞めたという会社にはしたくない、みんなに助けてと言える会社にしたい」と言いました。彼は自分の病気をオープンにして会社に残る決断をしてくれました。全社員に私の思いを伝えると、社員から温かい言葉が返ってきました。また、女子社員がうつ病で辞めたいと言いました。その時も朝礼の時にみんなの前で、「彼女は今ガス欠状態だとお医者さんに言われたので、満タンにして帰ってきます」と言って休みました。その子が3カ月後に力強く帰ってきました。

 私はいろいろな色を持った人たちがいることが大切だと思っています。100点を取れる子が優秀かというと、100点の問題を作った人より上にはいけないでしょう。ゼロから1を創る能力、手探りでトライアンドエラーしながら最後まで走りきる力、ここが私の中でとても大切にしているところです。

「中小企業家しんぶん」 2011年 7月 5日号より