【同友会景況調査(DOR)2011年1月~3月期オプション調査】雇用動向について

採用する企業は人材育成にも力点を置いている

 中同協・企業環境研究センターでは、2011年1~3月期の同友会景況調査(DOR、1006社回答、平均正規従業員数38・0人)のオプション項目として、雇用動向について調査しました。その結果について、國學院大學の鬼丸朋子准教授に分析して頂きました。

2010年春の新卒社員採用状況・2011年春の採用予定および過去1年間の中途採用の状況

 「2010年春に新卒社員を採用した」と回答した企業は330社、回答企業の34%です。実際の新卒社員数をみると、「1~2名」を採用した企業が60%を超えた一方、「5名以上」採用した企業も10%強ありました(表1)。最終学歴別にみると、「大学・大学院卒」を中心とする比較的高学歴層を採用していることがうかがえます(表2)。とはいえ、業種別にみると、建設業・製造業では「高校卒」の採用が40%台にのぼっており、多くの高校生に雇用の場を提供していることがわかります。

 過去1年間に中途採用を行った企業は、523社(55%)と回答企業(945社)の半数を超えています(表3)。地域別にみると、「北海道・東北」地域(144社)の63%が社員を中途採用しており、他の地域と比較してこの1年の採用意欲が高かったことがうかがえます。

 また、前年同期比売上が「増加」した企業のうち中途採用を行った企業が39%であった一方、「減少」した企業では28%にとどまっています。これは、前年同期比に比べて売上高が増加した製造業ならびに流通商業で中途採用を行った比率が高かったことが影響しているようです(それぞれ44%、39%)。正規従業者規模別にみると、規模が大きくなるほど新卒採用と比較して中途採用を行った企業の割合が高くなっていることがわかります。

 2011年春の新卒社員採用を予定していた企業数は384社(40%)と、2010年度よりも採用意欲が増してきています(表4)。地域別にみると、全国平均(975社)のうち、採用「予定あり」が40%、「予定なし」が60%となっています。中国・四国地方では47%の企業が採用「予定あり」と回答している一方で、北陸・中部地方では「予定あり」の割合が33%にとどまっています。また、正規従業者規模別にみると、規模が大きくなるほど採用「予定あり」の割合・採用予定者数が共に増える傾向にあります。

 今回調査の回答はおよそ90%が3月11日の東日本大震災前に提出されたため、震災後に2011年度の採用計画の見直しを迫られた企業もあるかもしれません。しかし、多くのメディアで取り上げられた(株)八木澤商店(河野通洋社長、岩手同友会会員)のように被災で会社の存亡の危機に立ってなお新卒内定を取り消さなかった会員企業の例や、共同求人に参加して地域の若者の雇用の受け皿を提供しようとしている多くの東北の会員企業のように、採用への熱意を失っていない企業も多数存在しています。

経営状況からみた採用状況

 前年同期比の売上高別にみると、「増加」と回答した企業で39%、「横ばい」で32%、「減少」で30%でした。前年同期比と比較して採算悪化にもかかわらず採用を行った企業も101社にのぼっています。新卒採用は、直近の売上高や採算に必ずしも左右されることなく実施されているようです。

 中途採用でも、前年同期比の採算の良し悪しによる採用の有無にはほとんど違いがみられませんでした。すなわち、新卒採用の場合と同様に、採算好転・悪化と回答した企業それぞれ159社が中途採用を実施しています。リーマンショック後の景気の落ち込みからの回復基調の中で、会員企業が新卒のみならず中途採用の就職先としての役割を果たしているといえるでしょう。とはいえ、新卒採用の場合と比較して、中途採用社員の有無は、前年同期比の業況や業況水準の影響を比較的強く受けているようです(表5)。業況・業況水準の改善に応じて、中途社員採用で「ヒト」の面の充実を図ろうとしている会員企業が一定割合存在していると考えられます。

新卒・中途採用と経営上の力点―「ヒト」を採用する企業は人材育成に力点

企業のおもな経営資源として、しばしば「ヒト・モノ・カネ」の3要素が挙げられますが、表6をみると、新卒・中途採用を行っている企業はそうでない企業と比較して「人材確保」「社員教育」といった「ヒト」に関する部分に力点を置いていることがわかります。新卒採用「あり」企業のうち「社員教育」に力点をおくと回答した割合が44%であるのに対して、「なし」では32%と10ポイント以上の違いがあります。

 また、中途採用「あり」では「人材確保」「社員教育」に経営上の力点を置いているとする割合がそれぞれ19%、41%である一方で、「なし」ではそれぞれ10%、30%になっています。「付加価値の増大」や「新規受注(顧客)の確保」「財務体質強化」等その他の力点については、「ヒト」に関する選択肢ほど回答にバラつきがみられないことから、新卒・中途採用を実施した企業には「ヒト」・「ヒト」以外のいずれの課題に対しても積極的に取り組んでいるところが比較的多いようです。

中小企業が「ヒト」を雇って育ててこそ、社員も企業も地域も活性化する

 このように、新卒・中途いずれの採用に関しても、直近の売上や採算といった比較的短期的経営状況の変化のみに左右されない側面を持つことがうかがえます。会員企業が経営指針を明確に打ち出して雇用の担い手としての存在感を示し、さらに社員を育成していくことによって、社員のみならず企業も、ひいては地域も活性化します。震災後、先行き不透明さが増していますが、中・長期の戦略の1つの柱として人材戦略を改めて位置づけ、現下の経済・社会情勢をにらみながら雇用や社員教育に取り組んでいく必要があります。

 國學院大學准教授 鬼丸朋子

「中小企業家しんぶん」 2011年 7月 5日号より