東日本大震災発生から3カ月時点の経営への影響について~地域・業種を越えて中小企業を直撃した東日本大震災

【同友会景況調査(DOR)2011年4~6月期オプション調査より】

駒澤大学教授 吉田敬一

 中同協企業環境研究センターでは2011年4~6月期の同友会景況調査(DOR、1017社回答、平均正規従業員数37・4人)のオプション項目として、東日本大震災発生から3カ月時点の経営への影響を調査しました。その結果について、駒澤大学の吉田敬一教授に分析していただきました。

震災直後の予想を上回る経営環境の悪化

 3月11日の東日本大震災が発生した後、企業環境研究センターでは3月28~30日にかけて被災地を除いた13道府県を対象としてDOR1~3月期の補足調査を実施した。その時点では売上状況は震災前と比較して「減少」は34%、「変わらない」が56%、「増加」が6%であったが、3カ月後の今回の調査では、震災発生直後(3月11日から1カ月間)で売上が減少している企業は41%とさらに悪化した。何らかの震災の影響があった企業の割合は60%に達しており、今後影響が出ると答えた企業(19%)を加えると、約8割の中小企業で震災による経営環境の悪化が生じている。「震災の影響あり」の比重が高かった業種は製造業(63%)と流通・商業(64%)であり、地域別では(図1)被災地が属する東北(74%)および被災地と経済的関係が深い関東(76%)で高いが、北陸、近畿でも6割以上の企業が影響を受けた。また「今後影響が出てくる」と予測する企業は建設業(25%)とサービス業(23%)であり、地域別では大震災の直接的影響の度合いが相対的に低かった北海道(25%)および遠隔地の中国(21%)および九州・沖縄(24%)では今後の震災影響の顕在化が強く懸念される。

図1 大震災の影響について

具体的な業態によって異なる大震災の影響

 売上状況から業種別特徴をみると(図2)、大震災や原発事故による素材・部品調達の断絶や分工場・協力企業の被災、燃料不足と交通網の分断などの広範囲の影響を受けた製造業(特に鉄鋼・非鉄金属、印刷関連)および運輸と消費自粛・品不足による商業(特に卸)で、悪影響は大きく現れた。売上減少の具体的理由としては、(1)自粛ムード(料飲店、旅行、宣伝広告、印刷など)、(2)仕事はあるが資材不足による受注制限、(3)先行き不透明感による受注減、(4)主な取引先の被災やサプライ・チェーン断絶による納品延期・取り消し、(5)全般的な民間需要の減退、(6)公共事業の削減、(6)原発事故の風評被害などが指摘されている。これらの要因には一時的なものと長期化するものとが混在化しており、自社の売上減の主要な要因がいずれに属するかを的確に判断して経営計画を作成する必要がある。

 規模別では100人以上の企業では震災後に売り上げが「増えた」(25%)と「大きく増えた」(3%)の割合の多さが注目される。震災後の特殊な需要(東北と競合する分野、旅行の行き先変更、節電関係など)や震災に関わらない需要(地デジTV需要、海外への輸出拡大など)に対応した分野に属する限定された業種で、急増する緊急の需要に対応できる相対的に規模の大きな企業であったと推定される。その結果、大震災発生後に売上が増えたと回答した企業の増加理由(複数回答)についての質問では、「復興に関する需要の発生」(22%)、「防災に関する需要の発生」(13%)、「被災地支援に関する需要の発生」(11%)、「被災企業に代わって新たな取引の開始」(11%)に対して、最も多かったのは「その他」(48%)で半数近くに及んだ。

図2 震災直後と比べた売上状況

業種別・地域別にみた売上減少理由の多様性

 中小企業の経営環境悪化の主因である売上の減少理由(複数回答)をみると(表1)、業種別特徴として建設業では「被災地に関係なく物資不足」が半数近くを占め、「被災地に間接の取引先があり、部品や資材などの調達困難」「価格引上げ」が上位3位であった。製造業では「予約・注文が入らない」が過半数を越え、「被災地に間接の取引先があり、取引減少、債権回収困難増加」「被災地に直接の取引先があり、取引減少、債権回収困難増加」が続き、加工組立型の自動車・電機産業を中心にしたサプライ・チェーンの断絶による生産停止の影響が出た。流通・サービス業では多様な産業の生産活動の停滞と買占め需要の発生による供給不足現象の結果、「被災地に関係なく物資不足」、被災地に間接・直接の取引先があり「部品や資材などの調達困難」という品不足に関わる3要因が売上減の原因であった。宿泊・飲食業など生活関連営業を含むサービス業では、消費の自粛や原発事故の影響が重なり「予約・注文が入らない」「突然のキャンセル」「風評被害」が上位3位を占め、他の3業種とは異なった傾向が示された。

 これを地域別にみると、被災地の東北と有名な観光地が所在する東海、中国・四国では「予約・注文が入らない」の指摘割合が高く、「風評被害」は福島から遠隔地の北海道、東海、九州・沖縄で相対的に高くなっている点が注目される。被災地に直接・間接の取引先があり、取引減少や部品等の調達困難の要因は当然の結果として東北では多かった。

 他方、被災地に直接の取引先があり、取引減少や部品等の調達困難により売上が減少した企業は被災地と生産・サービス連関の度合いの強い関東で多く、遠隔地では被災地に間接の取引先が所在する結果としての売上減少の指摘割合が高かった。いずれにしても「被災地に間接の取引先があり、部品や資材などの調達困難」の指摘割合の高さは、生産分業システムの広域化を象徴する結果であり、この問題は他の地域で大きな災害が発生しても生じることから、生産・流通ネットワークの危機管理体制に関して、コスト中心のJIT重視からあらゆる事態に対応できるJIC(ジャスト・イン・ケース)という発想で再検討する必要性を示唆している。

 中小企業憲章の前文では「中小企業は経済を牽引する力であり、社会の主役である」「中小企業がその力と才能を発揮することが疲弊する地方経済を活気づけ……日本の新しい未来を切り拓く上で不可欠である」と明記されており、政治が復興の妨げとなっている今日、この憲章の精神が復興政策の基本に据えられねばならない。

「中小企業家しんぶん」 2011年 8月 5日号より