【〈シリーズ〉復興】震災における経営指針の果たす役割~東京同友会大田支部が被災地を訪問

 8月20~21日に東京同友会大田支部を中心に東京同友会の会員のみなさんが被災地を訪問し、岩手同友会、宮城同友会の会員のみなさんと交流しました。訪問に参加した(株)善設計の鈴木善彦氏の報告を抜粋して紹介します。

経営者の仲間の心を支えた経営指針

 岩手同友会の陸前高田ドライビングスクール田村社長からお話しを聞きました。高台にある校舎は津波からの被害を受けず、震災直後から、支援物資の受け入れや、被災者の受け入れ、また、自衛隊などの支援活動の拠点になりました。被災後の厳しい状況の中、経営者の仲間の心を支えたのは、経営指針であり、雇用を守ることを第1に考えました。田村社長は「雇用を守るということは、命を守ることになる。社員やその家族、同友会の仲間の企業の多くは、自宅や会社が被災し、家族を失っている。その人たちが、家や避難所にこもってばかりいると、よくないことや悲観的なことを考えてしまう。だけど、会社に来て、働いていれば、気がまぎれ、やりがいも出てくる。だから、雇用を守ることは、命を守ることになり、非常に大事なことだ」とおっしゃっていました。

経営指針があるから支援活動ができる

 岩手同友会の蔵ホテルの松田社長からも話を聞きました。ホテルは岩手県の内陸部の一関市にあり、津波による被害は全くありません。地震による被害も軽微で済んだそうです。蔵ホテルでも被災者の受け入れと救援物資の集合場所となり、支援者たちの拠点ともなりました。

 松田社長は「経営指針があるから、会社を守りながら社員みんなで支援活動が出来る。経営指針が会社を強くした。その経営指針を創(つく)る機会を作ってくれた同友会に感謝している。そして、経営理念、指針にのっとり、地域への貢献をしていきたい」とおっしゃっていました。その事例として、昨年暮れにオープンしたばかりの大浴場を、被災した地域の人たちに開放しました。1日に400人程の人が入浴したので、出費も大変でしたが、経営指針のおかげで、社員の理解も得て、続けることが出来ているとお話しがありました。

ぶれることなく、指針にのっとり経営を

 宮城同友会の東洋産業の玄地専務から話を聞きました。父親が経営するビル清掃機材の卸をする会社に勤めていましたが、同業者からの依頼があり、東洋産業を引き受けることにしたそうです。当時の東洋産業は、社員がバラバラに勝手なことをやっていて、その会社をどう立て直すか、大変苦労していたときに同友会に入会しました。玄地専務は「経営指針を創る会で学んだことで、社員と一体になり会社の改善につながった」といいます。社員と積極的に話しあい、経営指針を創りあげたとのこと。

 「経営指針のおかげで、ぶれることの無い経営の軸を得ることができて、今回の震災においても、淡々と、ぶれることなく、経営指針にのっとり経営していくのが大切だ」というお話に、なるほどと感心させられました。

 3人の方たちのお話で共通しているのは、経営指針が会社を助けるということです。そして、その経営指針を教えてくれた同友会には大変感謝しているということを感じました。われわれも、改めて、経営理念、経営指針の大切さを、教えられました。

訪問を終えて感じたこと

 東京同友会として、何かできることを見つけたいと思って企画した今回の被災地訪問でしたが、あまりの悲惨な状況に、無力感を味わいました。何かできるだろうなんて、なんて傲慢な思いだったのかとまで、感じました。しかし、今回、この企画をし、参加したことは本当に良かったと感じています。現地に来て、いろいろなものを見て、いろいろな人たちと交流を深め、いろいろなことを気づかされました。同友会の強い結束とネットワークのおかげと聞かされ、改めて、同友会のすばらしさを認識しました。

 いま、東京同友会に出来ること。結局、それは、わかりません。でも、東北の人たちは、被災地に来てくれることを望んでいるし、交流できる事を期待しています。まずは、そこから、始めるしかないであろうと思います。

(株)善設計 鈴木善彦

「中小企業家しんぶん」 2011年 9月 5日号より