【チャレンジ市場創造】会内ネットワークと連携から生み出された通信設備業の挑戦

自社が地域にできること~手作り学校教材「理助」シリーズの開発

(有)浜名シスコム 代表取締役 杉本 敏雄 氏(静岡)

静岡県浜松市で通信設備工事業を営む杉本敏雄氏((有)浜名シスコム代表取締役、静岡同友会会員)は、昨年度から同市内の小中学校で、理科の授業(電気実験)で使用される手作り実験セット「理助」(商標登録済)を開発し、シリーズ化しています。自社を取り巻く環境を改めて見つめ直し、同友会で得たネットワークを通じて、未経験の市場に展開している実践事例を紹介します。

業界を取り巻く厳しい環境

(有)浜名シスコムはモノづくりの街、静岡県西部の浜松市で通信設備工事業を主に営んでいます。杉本敏雄氏は1978年、勤めていた企業から独立し、1991年に同社を設立しました。大手通信メーカーや官公庁、地元企業から工事を受注し、通信機器や電気部品の販売、配線を手掛けています。

「通信設備業界は企業の設備投資に自社の業績が大きく左右されてしまう」と杉本氏は言います。リーマン・ショックから企業や官公庁の通信設備投資が減少するとともに、浜松地域の事業所数も減少しているなか、同社も厳しい状況に置かれています。業界の技術革新の進歩も速く、業績回復の見込みが立ちにくいのが現状です。

「理助」シリーズの開発へ

売上の落ち込みからの脱却を模索しているとき、モノづくりが好きな杉本氏に、知人の理科教師が「授業で使える電気実験セットはないか」と相談がありました。それが、手作りの学校教材「理助」シリーズの商品開発のきっかけとなった瞬間でした。厳しい本業のかたわら、教師と何度も話しあい、試作品の改善に努めました。新教育方針にも準拠させ、シリーズ第1弾となる「電気実験キッズ」が開発されました。

「理助」は現在、試作中も含め6種類で展開しています。「掲示用電気実験セット」や光反射を学ぶ「ワンダースコープ」、回転の慣性を学ぶ「ジャンピングCD」や「紙多面体セット」、「バランスセット」(試作中)などがあります。理科以外にも、算数の教材にも挑戦しています。

連携を学んだ障がい者問題委員会

「理助」シリーズ開発にあたり大切にしてきたことは、「地域活性化」でした。どこまで地域に関わり、役に立てるのかと考えて取り組んできました。

同友会への入会は1997年。「人脈をつくりたい」という思いがきっかけでした。支部例会や障がい者問題委員会、支部長も経験して、異業種の経営者と交流を深めてきました。

障がい者問題委員会では、障がい者雇用の厳しい現実の中で雇用が直接できなくとも、間接的に企業が関わることで貢献できると知りました。委員会では、多くの貴重なアドバイスを受け、商品開発に活かし、「理助」シリーズを商標登録することができました。各シリーズの部材の調達では、首から提げる紐は、こるどん(株)(組紐製造業)、ボール紙加工を(株)金沢紙工(紙加工製造業)にそれぞれ依頼しています。2社とも静岡同友会静岡支部の会員企業であり、会内ネットワークを活かしています。

実験キッズの量産の課題を抱えていたとき、不況に喘ぐ地元製造業に障がい者を雇用する余裕がなくなっていることもあり、障がい者授産施設に木材部品加工や製品組立検査、説明書印刷を依頼しました。他社製品で使用される各部品はプラスチック製が多いなかで、地元のひのきの間伐材を使用して、石油製品の削減に配慮しました。また電極板も点字印刷で使い捨てられる原版を再利用。電磁石やニクロム線は、例会に出席したオブザーバー企業に依頼。連携と業務分散で、地域企業や障がい者施設の雇用創出と活性化に繋げています。

教育現場をサポートする

2009年7月には経営革新の認定を受け、同年12月には、電気実験キッズの正式発注を受け、浜松市に約1800セットを納品しました。「学校教材に関わるということは、単に実験セットを納品するだけではなく、教師や子どもたちの未来に関わることができる壮大な事業です」と杉本氏は言います。教師と子どもが共に学びあうために電気実験キッズの全11種類の実験部品は敢えてバラバラにし、子どもたちの創造性を育むようにしました。教育現場からは教師の実験準備も減り、授業内容に集中できるという意見も聞かれました。また、売上の一部を教師の研究会に支援し、モノづくりの街の浜松市で、理科離れの子どもたちを理科好きにする活動にも積極的に参画しています。

「理助」シリーズの開発は、同友会、学校、教師、市教育委員会、教育研究会、地元企業、商工会議所、障がい者授産施設が商品開発に関わり、「産・官・学」+「福祉」の4つの連携で生まれました。

地域にできることを第1に

現在は地元の学校や学校生協経由で販売しています。以前は商社と販売委託契約をした時期もありましたが結果が出ずに、販売方法を模索しています。「自社の営業力が弱く、販売につながらないことは課題だが、商品数を増やし販売量を上げることが連携している事業者様への恩返しです」と語ります。自治体や企業の産業フェア等へも積極的に出展し、販路拡大に力を注いでいくこととあわせて、会社を知ってもらい本業の通信設備工事の受注につなげていくことを目標にしています。

環境、福祉、学校、企業は、地域の一部分ではなく、密接にからみあっています。単に業界の先行き不透明感に捉われているのでは、新商品は生まれません。支部例会や障がい者問題委員会の活動を通して人脈が広がり、企業連携や情報交換から生み出された「理助」シリーズでは、未経験分野でも経営の活路を同友会で見出すことができました。

同友会で学び、「地域に根ざす企業が地域にできることは何か」から始まった企業連携。杉本氏の新たな挑戦が今後も続きます。

会社概要

設立 1991年
社名 (有)浜名シスコム
所在地 静岡県浜松市中区新津町
業種 弱電・電気通信設備業
HP http://www.hamana-sys.com

「中小企業家しんぶん」 2011年 10月 5日号より