【〈シリーズ〉復興―我われが牽引する】被災地の中小企業の課題を政策要望に

 9月14~15日、社団法人自治体問題研究所・地域経済のあり方研究班(代表:鈴木誠愛知大学教授)による福島同友会いわき地区を中心にした視察に、瓜田中同協政策局長が同行しました。視察先の現状とヒアリング内容を紹介します。

立ちはだかるさまざまな課題

 福島同友会いわき地区(会員数210名)の役員の方々数名にヒアリングをしました。いわき市は工業製品出荷額1兆円超の東北随一の工業地域であり、どうしても行政の意識はそちらに向く傾向があります。とにかく、行政の意思決定が遅すぎるとの意見がありました。行政の「後出し」的対応に漁業や林業の人たちはやる気をなくしている状況です。放射線量の安全基準がバラバラであることも影響していて、どこまでが安全なのか、正しい情報がわからないのが問題だと指摘していました。食料の安全基準の半分以下のデータであることを示しても、風評被害で「いわき産」というだけでダメになっているといいます。

 金融関連では、地銀や信金を含む全ての金融機関が原発事故後、新規融資をストップしているとのこと。「二重ローン問題」以前の話だと言っていました。リスク回避を理由として、金融機関の融資判断が極めて慎重になっており、新規事業に取り組もうとしてもお金が借りられない状況が生まれています。特に、小さい企業は借りられず、また、リース会社からはリースの設備機器を「買い上げてくれ」と言われているなどの実態がわかりました。

 また、いわき市では復興バブルのような復興需要、原発対策需要が発生しているが、「特需後の展開は見通せない」との現状でした。

建設関連の会社の会員の声

 建設関連業では、人材を募集しても地元では人が集まらない、他県から来た人が働いているなどの課題や、地域全体の課題として失業手当などで生活していけるため働かない人がたくさんいて、「朝、アミューズメント施設の周辺で渋滞が起きているのがなげかわしい」と深刻な状況を聞きました。要望として、「地域の実態に合ったお金の使い方をしてほしい」「いわき市のような街中では、一時的な使用の仮設住宅でなく、長期に使える住宅が必要ではないか」「地元に新しい産業を生み出すようなお金の生きた使い方をしてほしい」とありました。

 新しい仕事づくりとしては、「除染」に注目していました。最近、いわき市は清掃活動の行政区を事業の受け皿として、一律50万円を補助する除染事業をスタート。しかし、素人が高圧洗浄機を使いこなし、雨どいなど放射線量の高いところを探し出して除染するのは容易ではありません。作業で出た汚染物を処分するのも大変で、組合をつくり、除染事業に取り組むことを考えていました。

いわきの板かまぼこ業界の状況

 従業員数40名の板かまぼこの生産をしている会員にヒアリングしました。

 いわき市は板かまぼこ生産量日本一を誇っています。しかし、自前ブランドで売り出すメーカーは少なく、関東などに業務用として出荷するケースが多いとのことでした。今回の震災では、かまぼこ製造の同業者(30社)が半分になってしまったとの現状を聞きました。

 売り先の変化として、高速道路のサービスエリアなどに問屋が置いてくれて、仙台の笹かまぼこの代替的な売れ行きはあったものの、地元いわき市の販路である魚屋や土産物屋では売上が激減。弁当屋への売上は戻ってきつつあるものの、スーパーは半分以下のままです。

深刻な風評被害

 かまぼこの原材料は海外からすり身で輸入しており、地元の特徴をだそうとメヒカリなども使っていますが、震災前に漁獲したものを使っています。水も市が放射線量を常に測っている水道水であり、安全・安心のものを提供しているのですが、風評被害は深刻。スーパーのバイヤーは、「いわきのものは置きたくない」と言っていると聞きました。

 先の見通しが不透明で次の一手が打ちにくいとのこと。手作り製品を増やすなど小ロットで成り立つようにし、スーパーは取引をやめる方向で動くと言っていました。「他所で商売をやる気はない。地元でストーリー性のある商売にこだわるしかない」と熱く語っていました。

資材商社、プラント関連業界の状況

 資材商社の方々にヒアリングしました。従業員数60名、大正3年創業以来、小名浜港とともに発展し、現在、住宅設備資材や太陽光発電システムなどにも乗り出しています。震災では、4営業所のうち、南相馬は全壊しましたが、現在は再開しています。富岡営業所は原発の20キロメートル圏内にあり閉鎖しました。本社の被害はありませんでした。

 現状では、震災後のインフラ関連・プラント関連の復旧は活発で売上は下がっていません。しかし、原発事故問題で先が見えない状況とのこと。プラント関連業界の復旧はもう1巡した可能性もあり、メンテナンス関係や下請企業は仕事がなく厳しい状況です。課題として、設備投資に資金が向かっていないこと、ガレキ処理にブレーキがかかっていることや、子どもたちに対するケアが進んでいないなどを挙げていました。

小名浜の水産加工 関連の状況

 37社で構成している水産加工の組合の役員の方にヒアリングしました。

 三陸方面の漁港と小名浜の漁港との違いは、「三陸は設備が復旧すれば仕事ができるが、われわれは復旧しても仕事ができないことだ」とありました。小名浜は津波でダメージを受けた加工業者もいましたが、停電にはならず、水道は止まったものの、電気が通じていれば当社のように井戸水を汲み上げることができました。つまり震災直後から工場を稼働させることができましたが、原発事故により半年間まともな仕事ができない状況。震災では三陸などの漁港の惨状を見て、「小名浜が先頭に立ってがんばらなければと思ったが、原発事故で出鼻をくじかれた。なまじっか復旧しても動けない状況。復旧しなかった方が良かったのかなと思うことさえある」と悔しさをにじませていました。

 風評被害では、「いつまでも商品を出さないと自社ブランドから、よその業者に販路をとられてしまう。いわきでは小田原のOEM生産もやっているが、それがなくなった。福島県産というだけで売れない。また、消費者がというより、中間取引業者、スーパーのバイヤーがリスク回避に動いて福島県産製品を取り扱わないことによるものが大きい」と言います。

「もう限界。商売をやめるか、商売を変えるかの岐路にある。年内に再開できなかったら、力のある業者もやめざるを得ないと思う。いくら良い融資制度があっても、再開の目途が立たないのに事業計画は出せないので借りられない。制度があっても利用できない」と深刻な状況を聞きました。

放射能検査の即応 態勢が不可欠

 小名浜は出漁を禁止されているわけではありません。いわき沿岸海域の検査もされており、安全は担保されています。しかしながら、築地市場に出荷しても、荷受けの大手では全製品の放射線量の検査を要求してきます。市が毎日検査している水道水を使っていても、使った氷や水の検査データも出せと言ってきます。しかし、検査機関に持ち込んで検査してもらうには現状では3日間かかります。これでは生鮮は商売になりません。

 加工業者が望むことは、港に検査機関・機械を置いてほしいこと。放射能検査の即応態勢が不可欠。専門家が配置された公的機関がやらないと誰も信じてくれません。検査機械の導入を要望していますが、半年経っても実行されていないのが現状です。今後の加工業者の経営の方向としては、検査体制の確立による事業再開と風評被害など原子力賠償に取り組むこと。また、震災以前から、福島以外の港で水揚げされた水産物原料を小名浜まで陸送し、加工することをしていましたので、それを続けることを対応策としてあげていました。

今回の視察の政策的合意

○震災による事業への打撃をくい止めるには迅速な対応が不可欠であるが、行政の支援が遅いために逆に事業への意欲を削ぐ結果となっている。特に、水産関連業で著しい。

○行政の早急な対応で望まれることは、(1)小名浜港や相馬などへ放射能検査機関を設置し、海産物の即時の検査態勢を確立すること、(2)放射線量の安全基準の明示、(3)原発事故の収拾の見通しを示すこと、である。

○福島県内の金融機関に原子力災害復興のための公的資金注入を実施し、経営再建に取り組む事業者への新規融資できる環境をつくること。金融機能強化法の改正。

○放射能で汚染された地域の除染を地元中小企業等を活用して徹底的に実施すること。除染事業として地元建設業者などへ計画的発注を進めること。

中同協政策局長 瓜田 靖

「中小企業家しんぶん」 2011年 10月 5日号より