【チャレンジ市場創造】新市場開拓の原動力~エイベックス(株)代表取締役会長 加藤明彦氏(愛知)

リーマンショック、大震災不況を克服するわが社の経営戦略~売上が激減する泥沼状態から売上増へ

 リーマンショックでは、その影響で大幅に売上が落ち、そこから立ち直り始めた時に震災がありました。

 震災後一時落ち込みましたが、6月以降受注増になり、結果的には売上増という状況になっています。現在、生産が追い付かないということで、急きょ設備を手配したり貸し工場を必死になって探し、やっとめどが立ったところです。

 売上増はありがたい話ではありますが、今後、メーカーの国際戦略のなかで、自動車業界の海外戦略が進み国内から海外へ移すことが見込まれ、ここ3年ぐらいで海外生産が進むと考えています。

 数年後には仕事は減少していくと見込み、必死になって仕事を確保しようと動いています。これからは技術力をさらに高める人材育成を行い、国内生産を基軸としながらも、海外市場を視野に入れなければならないと考えています。

市場創造と人材育成 なぜここまで回復したのかといいますと、1999年に21世紀型企業づくりを学んでから10数年、いまでも経営戦略のなかにしっかり根付いています。

 1つ目に、市場創造をするべきだということ。今の仕事というのは常になくなるという前提のもとで新しい仕事を確保しなければならないということです。2つ目に、人材育成をしなければならないこと。人は必ずいなくなるという前提で人材育成を常にやっていくことです。

 この市場創造と人材育成をしっかりやっていくことで、21世紀に生き残っていく企業となると学びましたし、実際に経営実践をしてきて成果を上げることができました。

 この21世紀型企業づくりは、まさに危機感を持つことだと思います。危機の「危」は「危険」の意味。「機」は「機会」「チャンス」という意味です。私どもの会社では、そういった危機感をもって、リーマンショックのときも逆手にとって、危ない状況を認識しながら、「ここはビジネスチャンスとして乗り切っていく」ということを決意し、覚悟しました。

世界から仕事が集まる集団に

 国内のメーカーは海外に進出していますが、逆に日本に進出してきている企業と連携をして、海外に新たに市場を開拓していくことができるのではないかと考え、情報をあつめると多数進出していることがわかりました。

 これからのことを考えると、まずは日本に進出している海外企業と取引を目指し、そして海外メーカーにつなげていくということを考えています。そういった企業と取引していれば、海外市場についての情報やノウハウを得ることができ、仮に海外に進出することになったときは、リスクも軽減され、メリットもあると考えています。技術戦略、こだわりを追求し、「世界から仕事が集まる集団」になることを目指しています。

「鍛冶屋」の世界を築く

 『鍛冶屋』とは「自前」で、技能・技術の構築をすることにあります。「生産ラインは、モノを作るだけの場所ではない」ということです。この考え方がリーマンショックの時に、「市場創造と人材育成」が生きた一因ともなっています。基本的な考え方は、「自前でやる!」ということ。これがモノづくりのおもしろさ・深さで、創業者魂でもあります。

「より高いレベル」でのモノづくり

 他社との差別化については第1に、中古設備のオーバーホールをやっています。この技術を生かしメーカーに依存しないで故障修理ができます。 第2に自分で刃具が製作でき、研ぐことができます。現場での「モノづくり」のこだわりです。第3に設備をできるだけ「裸」で購入し、工程・刃具・プログラム検討が自前でできます。

 そういった差別化から、故障で使えなくなった機械を安く買い上げ、自社の技術力で修理し投入していくという取り組みをしています。また、中古設備の修理の際に、ベテラン社員と新入社員が一緒に修理に取り組むことにより、ベテランから修理の箇所がなぜ壊れているのか、どのように改善すればいいのかを新入社員に教えていきます。このことは、会社として人材育成にもつながり、技能・技術の継承にもなります。

 中古設備は新品とちがって修理費は掛かりますが、社内で修理や修繕ができ、結果的に新品を入れるよりも3分の1の低コストで設備拡大を行うことが可能となっています。

 この強みは、原価が下がるのでコストを下げることができ、海外との競争に勝つことができると思います。実際にこの取り組みによって技術力を認めてもらい、リーマンショック後に上場企業4社と新たに取引を開始しました。

 また、自社で修理した機械を使っていくうちに、機械の設定やプログラムも自分たちで考えるようになりました。その結果、品質も上がり、ノウハウも漏れることがなくなり、社内での技能・技術の応用が自前でできるようになりました。

ハイテクとローテクでの「知恵テク」

 中古設備の修理のおかげで、考えて知恵を絞って仕事をする、作業工程を考えるという習慣が身に付きました。知識を知恵に変えていかに応用できるかというのが大事なのではないかと思われます。

 社員が知恵を絞って考えたものが、形になって見えてくるので、やりがい、働きがいを感じてくれるのです。自主的にアイデアを出して、こちらが気付かないことまで発案してとても生き生きしています。それが社員の成長の要因だと思います。

 技術の構築は、ハイテクとローテクでの「知恵テク」が重要だと考えています。「知恵テク」とは、知識を『知恵』に変える応用技術のことで、結果的にコストも安くできますし、ノウハウも社内に蓄積されてきます。

「大震災不況」克服のヒント

 大不況の克服のヒントは、「絶対に雇用を守る」という意志を社員に示し、社員との信頼感を高めるということが大事なのではないかと思います。

 その雇用を守るために、ムダ、ロスを徹底的に排除し、さらに社員の意欲と創造性を引き出すために役割分担を決めました。

 例えば溶接のできる人とできない人を組ませることで、できない人ができる人のサポートに徹し、作業効率が上がり円滑に仕事ができるようになりました。人件費の確保を徹底して、他のコスト減に目を向けるようにしました。そうすると社員の士気が下がることなく、新たなムダも見つけることができ、結束も強まりました。

技術力と情報収集力で営業力強化

 今ある技術は何か、その技術を使って企業連携ができないかと考えるようになりました。その技術を売りに営業を掛けていたところ、大手メーカーの目に留まり、自動車用の燃費向上の部品製造の技術を提供して、リッター30キロの低燃費の軽自動車の開発に関わることができました。

 もう1つの取り組みとしては、既存の技術を新しい市場に売り込むという取り組みです。ある自動車部品が電子制御に移行するということで、その部品が自動販売機にも組み込まれているというのが分かり、自動販売機のメーカーに営業をかけることにしました。

 このように情報収集力が結果的に営業力強化につながっています。

製造部門と営業部門が一緒に営業を

 しかしそれだけではまだ営業が弱いということで、営業の人間だけではなく、製造の現場の人間と一緒に上場企業を中心に営業に回ることにしました。お客様の発注図面をその場で見て自社で請け負えるかどうかを判断し、可能であればその場で納期を示し引き受けるという形を取りました。

 そして、提示された納期よりも早く仕上げることにより、取引先企業の技術屋さんが自社の営業の代わりに調達部署に声をかけ紹介してもらえるようになり、信用を獲得し市場の拡大を図ることができました。

新たな戦略構築

 果敢に営業をし、新規開拓に取り組む姿勢を堅持し、トップが率先して事態を打開する姿勢を示していることが重要だと思われます。経営指針の浸透により、古き良きものは守り新しいものを取り入れていくことを実践しています。

 そして、創業の精神に立ち返り、すべての行動に意味合いをつけ、社員に自発的に行動してもらえるように働きかけています。ビジョンを掲げ物事を中長期で考え、どんな環境にも対応できる会社にしていきたいと思っています。

(10月3日~4日、第1回中同協企業連携推進連絡会の事例研究より)

会社概要

創立 1949年
資本金 1000万円
社員数 200名
年商 24億円
業種 高精度小物精密切削、研削加工
所在地 名古屋市瑞穂区内浜町
http://www.avex-inc.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2011年 11月 25日号より