【第25回社員教育活動全国研修・交流会in神奈川】記念講演

“今どきの若者”その背景を考える―社員が輝く会社をどうつくるか

横浜市立大学 国際総合科学部教授 中西新太郎氏

貧困化が若者の“生きづらさ”を生みだしている

 現在の20歳前後の若者は1990年代前半に生まれ、1997年の就職氷河期、2003年以降の「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」問題、2008年のリーマン・ショックと「派遣切り」問題など、社会に出て働くうえでの困難を目の当たりにしてきました。大企業を中心として正規雇用は大きく減り、非正規雇用が拡大してきました。親の世代にあったような、ふつうに勉強して大学を卒業したら就職できるのではないかというイメージは到底持つことができません。

 また若者を取り巻く貧困→が広がっています。非正規雇用の拡大や、正規雇用であっても低賃金の状態が広がっていることが背景にあります。研究者仲間の後藤道夫さんの試算では子育て家庭の貧困率は24・5%と実に4世帯に1世帯に達します。さらに、家計破たんぎりぎりの子育て家庭が少なからず存在することを示す調査結果もあります。

 1990年代後半から始まった若者を使い捨てにする経済モデルが、若者の貧困状態を拡大させてきました。すさまじい長時間過密労働が原因で働くことができなくなり、再就職しようにも、まず体を治さなければならないといったような実態が山のようにあります。

「教育改革」の進行に組みこまれた新しい競争

 同時に、学校教育の世界では「教育改革」の名のもとに“新しい競争”と言うべき状況が展開してきました。例えば神奈川県の高校では近年、進学校とそうでない進路多様校ではコスト配分に差を持たせています。また“新しい競争”の下で、個々の家庭では独自にお金をかけて教育するしかないという風潮が強まり、子どもの時期からコミュニケーションスキルを鍛えるキャリア教育も登場しています。こうしたスキルを鍛えて、応答は爽(さわ)やかに相手にうまく合わせるけれど、自分の本音は決して表には出さないことが1つの若者の文化となっています。このような若者をとりまく環境の全体が、「社会人」として生きる上で困難な壁になっていることをよく理解する必要があります。

変貌する若者のライフスタイル、ライフコース

 ライフコースも変貌しています。高卒ではかなり多くの人が、高校時代のアルバイトを延長するような形で就労します。大阪府の高校では授業料免除率が3割近くに達していますが、そうした状況では家計のためにアルバイトをせざるを得ません。彼らに「フリーターになるな」と言っても全くかみあいません。大学生の就職活動は、企業の人事担当者が「自分が受けても受からない」と言うような難しい試験をクリアするために、大学生活の半分近くを費やして活動します。その結果、足がすくんで働けない、働きたくないという人も出てくる状況です。

 結婚をめぐっては巨大な変化があります。2005年の国勢調査では30~34歳男性では未婚率47・7%で2人に1人、35~39歳では30・9%で3人に1人は結婚していません。将来、好きな相手と結婚したいと考えている人は20代前半で実は9割くらいいますが、子育てが可能な水準である年収450~500万円に達するには大企業でも20代では厳しく、非正規雇用の場合は30代の2人で働いてやっと達するという水準です。結婚したいと思っても結婚できないのです。

声なき声を聞きとるだけの力量が求められる

 働き方については、低賃金や過酷な長時間労働から、30代以降も働き続ける見通しをもつことができず20代後半に離職する傾向が見られます。企業側が展望を若者に示せるかどうかが大変重要です。一方で若者に対して「不満があるなら声を出して改善したらいいじゃないか」という見方もあると思います。しかし若者の間には社会、会社、仕事はそもそも理不尽なもので、要求しても受け止められるような世界ではないという強い確信があります。そこに「思っていることは言ってごらん」と口でだけでいっても変わりません。若者の声なき声を聞きとるだけの力量が社会の側、大人の側に問われているのです。

若者たちがつくっている「社会」

 若者がつくっている友だち関係というのは大人が思っているようなイメージとはずいぶん違います。本当に大切な友だちになるべく負担をかけないようにと高度な気遣いを欠かさず、平均して100~150人の「友だち」と携帯アドレスを交換して自分の存在の余地を確保するという姿があります。友だちはいわば「集団安全保障条約」か「セーフティネット」の位置付けです。そして学校を中心とした人間関係のなかには上下の序列が厳然として存在します。思春期からそういう世界に生きているので、お互いが悩みを相談するとか、一緒に力を合わせて生きていくという感覚を持つことは極めて困難です。

若者とともに生きるアート(技法)を

 では若者と共にどうやって一緒に生きていくのか。1つは、地域社会で安心して生きられるような社会経済モデルをつくることです。働き続けることのできるイメージや展望をもちたいという若者が多いことは、地域社会に生きる中小企業にとって有利です。もう1つは、若者が孤立させられている状況の中で、本当の意味で頼りにされる存在になることです。若者が社会に出て、自分が頼れる人間を見つけ、何かを助けてもらう、そのタイミングで信頼されるかどうかが大きな条件だと思います。

 若者の職業的な自立をどう支えるかを考えた時に、労働の場が持つ力は大きな意義があります。言葉で伝えるだけではなく、実践を通して本人が納得するような「染み込む作用(実践環境)」が機能するよう、仕事の場を形作ることが重要です。人を互いにつなげ、「他者とともにいられる(生きられる)」智恵や技法をもった「アート」に習熟した実践家が求められています。

「中小企業家しんぶん」 2011年 12月 15日号より