時代の転換期に生きる

元旦の新聞各紙の社説を読んで

 今年の元旦社説は、ほとんどすべての社説が東日本大震災と原発事故に触れ、災害の教訓と復興について書いています。

 今年を復興の年と謳(うた)うタイトルを掲げたものも目立ちます。「復興元年、つながる心 等身大の思想で希望を紡ぐ」(河北新報)。「再生の年に 被災地と共に未来を築きたい」(京都新聞)。「復興元年、円熟と共生へ転換の時」(中国新聞)。

 ここでは、震災を機に新たな価値観の模索が始まっていると説く。「等身大」「足元」がキーワード。「3・11を経て、価値観が変わりつつある。手掛かりは『等身大の思想』。立脚点を『いま』『ここ』に置いて一歩一歩、前進していくしかあるまい」(河北新報)。「豊かさ、便利さを享受してきた私たちの暮らし方が大震災を機に問われている。マネー至上主義が行き詰まり、新たな生きる価値観を模索する動きもある。足元の暮らしを見つめ直すことが1人1人に求められている」(神戸新聞)。「自分たちの足元を大切にする『地産地消』の発想はさまざまな分野で生かせる。例えば雇用」(北海道新聞)。

 そして、経済成長の限界にも議論は及ぶ。「戦後日本が一丸で目指した『成長第1』の社会システムは既に揺らいでいた。大震災と原発事故がその揺らぎを決定づけた」(西日本新聞)。「エコノミストの水野和夫さんは、福島第1原発事故に『近代史』の終わりをみている。近代の爆発的な成長を支えてきた技術の進歩神話が崩れ去ったからだという。…利潤を求め膨張を続けてきた資本主義に限界が見えてきた」(京都新聞)。

 朝日新聞は、「ポスト成長の年明け」と題して、この問題を正面から論じています。曰く「戦後ずっと続いてきた『成長の時代』が、先進国ではいよいよ終わろうとしている」「従来の手法が経済成長を生まない。そんな歴史の大きなトレンドが変わりつつある」と。

 さらに、日本経済新聞に至っては「資本主義の危機」にあると言い切ります。ところが、「世界のいたるところで政治が、経済が、うまくまわらない。民主主義、資本主義の危機と言われるのは決してオーバーではない」と大上段に提起しますが、「民主主義、資本主義のあり方を改良しながら使っていくしかない」と処方箋はいたって抽象的です。

 この点では、前日の大晦日に掲載された同紙コラム「大機小機」の方が切れ味抜群。「先進国で広がる体制の危機は、四半世紀に及んだ経済運営の諸矛盾が限界に達したことを示している。行き過ぎた経済のグローバル化、市場化、金融化の弊害だ」「効率優先の市場主義は…経済と国民生活を不安定にしただけではない。…中間層がやせ細る富の偏在と格差拡大の社会的不均衡を生み、社会の分裂を招いた」と問題を明確にします。

 その処方箋としては、「グローバル化の土台となる国際通貨制度の改革、貿易収支の不均衡に歯止めをかけ、短期の資本移動を抑制する国際的な枠組み作りが重要だ」「金融を規律付ける再規制は喫緊の課題」「所得と資産格差の是正は、税・財政による再配分機能を強化する政府の役割である」と指摘。「資本主義の自浄能力が問われている」と結論づけています。

 2012年は歴史の変わり目の年となりそうです。足元を一歩一歩踏み固めながら、時代の転換期を進んでいきましょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2012年 1月 15日号より