【元気印の企業訪問】「山賊焼」で地域活性化を~(有)本郷鶏肉 社長 山崎 肇氏(長野)

産学官連携で信州から全国に発信

 全国各地でB級グルメがブームになるなど、地域の食文化への関心が高まっています。長野県中信地域の伝統食「山賊焼」を生かし、産学官も連携して地域の活性化につなげようと奮闘する(有)本郷鶏肉社長・山崎肇氏(長野同友会会員)の取り組みを紹介します。

 鶏の1枚肉をニンニク醤油のたれに漬け込み、片栗粉をまぶして揚げ、豪快に食す「山賊焼」は、長野県中信地域に半世紀以上根付いている伝統食です。現在では、松本市・塩尻市・安曇野市など中信地域の多くの飲食店やスーパーの総菜売場での定番として、広く家庭に親しまれています。

 「山賊焼」の名前の由来は、塩尻市内にある飲食店・元祖『山賊』の初代店主が、ひげを生やした山賊のような風貌だったことから名づけられたと言われています。現在は油で揚げる調理法が主流であるものの、戦後当時は油が貴重品であり、たっぷりと油を使わずに、少量で揚げ焼きのような調理をしていたため、「揚げ」ではなく「焼」と呼ばれるようになったそうです。

 (有)本郷鶏肉は、1952年に鶏肉・卵・牛乳を販売する本郷農協鶏肉牛乳直売店として創業。焼き鳥やチキンコロッケ、ローストチキンなど松本市内では初めて惣菜の製造販売に取り組みました。

「山賊焼」との出合い

 「山賊焼」との出合いは、同社が市内の山賊焼専門店に鶏肉を納入していたことから始まります。今から約50年前、「一杯飲むお父さんたちのおつまみ」として飲食店でしか食べられなかった「山賊焼」を、先代社長が家庭に持ち帰り夕食のおかずとして楽しめる惣菜として、いち早く製造販売に取り組み、冷めても美(お)味(い)しく食べられるオリジナルの「山賊焼」を作り上げました。

 10年前に現在の本社工場に移転してから「山賊焼」の販売を本格化し、県内一円や近隣の県外のスーパーや百貨店の総菜売場にも商品が並ぶようになり、近年は信州物産展の一員として全国各地で「山賊焼」を広めてきました。一昨年には、冷凍にしても、鶏の旨みや衣のサクサク感を保つため、半年ほどの研究開発を重ねた初の自社ブランド商品となる冷凍の「山賊焼」の発売をスタート。当初は長野県のお土産用として、県内のサービスエリアのみの販売であったものの、購入した県外の顧客から「美味しかったのでまた食べたい。送ってほしい」との声を受けて、昨春からはインターネットによる通信販売も開始しました。

 (有)本郷鶏肉の総菜は全て手作りであり、山賊焼も粉付けから揚げ作業に至るまで、全て社員の手作りで行っています。惣菜の「惣」は「物」に「心」と書きます。「心を込める」というこだわりは創業以来大切に守り続けられてきた精神であり、「おいしいものを気軽に家庭で食べてほしい」という想(おも)いは、「だんらんの創生」という同社の経営理念として、現在も受け継がれています。

産学官で「考える会」

 「山賊焼」が松本市の名物として定着したものの、発祥の地である塩尻市民からは「塩尻が元祖なのに山賊焼が松本のもののようだ」といった声が聞かれるようになり、両市には見えない確執が生まれつつありました。「山賊焼を、発祥の地である塩尻市、発信の地である松本市が一体となった中信地域の宝として、もっと大きく広げていきたい」「そして山賊焼を柱に地域の良さを発信していきたい」との強い想いが山崎社長を動かし、4年前から「山賊焼を考える会」の準備会を立ち上げました。

 一昨年秋から正式発足した「山賊焼を考える会」には、松本市・塩尻市の飲食店や鶏肉店経営者、行政関係者、松本大学の関係者など産学官のメンバーが名を連ね、両市の行政や地域の枠を超えた情報の共有と、味や質の基準や保証、インターネットを利用した周知方法などの議論を重ねてきました。

 昨年3月には、3月(3(さん)ぞく)8日(8(や)き)を塩尻市の「山賊焼の日」、翌9日(や9(く))を松本市の「山賊焼の日」と定め、両市が各々趣向を凝らしたイベントを開催し、当日は会場に入りきらないほどの来場者が列をつくるほどの盛況ぶりとなりました。

 また、「山賊焼を考える会」の発起人の1人である松本大学総合経営学部観光ホスピタリティ学科の白戸洋教授のゼミの学生と「山賊焼」の新しい食べ方の研究提案なども活発に行い、「山賊焼でクリスマスを盛り上げよう」とゼミの学生が考案したクリスマスバーレル(ボックス)が松本、塩尻の飲食店で販売されるなど、その輪は確実に広がりつつあります。

第6次産業化をめざして

 全国各地でB級グルメがブームとなっていますが、「商品のネーミング、ボリューム、味、存在感、ストーリー性のどれをとっても、山賊焼は全国に発信できる逸材」「地産地消という本当の意味での松本平の名物とするためにも、山賊焼にふさわしい地元での鶏肉の生産から、加工、流通・販売を一貫して行う第6次産業化を図ることが次なる目標」と語る山崎社長。

 山崎社長、そして(有)本郷鶏肉の夢と挑戦はこれからも続きます。

会社概要

創立 1952年
資本金 3600万円
社員数 79名 (うちパート・アルバイト55名)
業種 食肉・惣菜の製造・販売
所在地 松本市市場
URL http://www.hongo-keiniku.co.jp/
社長ブログ 山崎鳥類研究所http://www.i-love-bird.com/

「中小企業家しんぶん」 2012年 1月 15日号より