リーマン・ショック前水準・震災前水準に戻るも2012年初、強い減退懸念

【同友会景況調査(DOR)概要(2011年10~12月期)】

 2011年10~12月期の中同協景況調査結果をまとめた『同友会景況調査報告(DOR)』98号が発行されました。中小企業景気は全体としてリーマン・ショック前水準・震災前水準に戻りました。しかし7~9月期に比べると回復力は鈍化しており、さらに次期は再悪化を予想していることから、改善が持続するかどうかは予断を許しません。

 10~12月期調査では、業況判断DI(「好転」―「悪化」企業割合)はマイナス9からマイナス2へと7ポイント改善して、リーマン・ショック前水準・震災前水準に戻りました(図)。

 しかし2012年初についてはEU金融危機の先行き不透明感、新興国経済の低迷化懸念というネガティブな外需見通し、デフレ不況下の円高による景気回復へのブレーキと大手企業の生産拠点の海外移管の促進など景況悪化要因が山積していることから慎重な見方が広がっています。

 今期、売上高DIや経常利益DIはそろって改善。仕入単価DIの下降、売上・客単価DIの改善が緩やかながら継続していることが採算面の改善に貢献しています。1人あたり売上高DI、1人当たり付加価値DIも改善しており生産性の向上が見られます。

 一方、景気回復にともない人手の不足感が明確になっています。正規従業員数DI、臨時・パート・アルバイト数DIがそれぞれ増加しました。人手の過不足感DIが大きく増えて不足感を鮮明にしています。また所定外労働時間DIも増加に転じました。

 経営の力点は社員教育と人材確保が引き続き重視されており、付加価値増大による損益分岐点の引き下げ努力をすることでデフレ持続と先行き不透明感への対抗措置への注力がますます重要になっています。

 今号の『DORの眼』では廣江彰立教大学教授が「東日本大震災が教えた“個の力”の大切さ」と題して執筆しています。『DOR』ご希望の方は、300円切手同封の上、中同協までお申し込み下さい。中同協ホームページでも紹介しています。

〈調査要項〉

調査時点 2011年12月5~15日
調査対象 2,401社
回答企業 867社(回答率36.1%)(建設144社、製造業301社、流通・商業257社、サービス業159社)
平均従業員数 (1)37.3人(役員含む・正規従業員)(2)35.0人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

改善が進むも回復力は鈍化

 10~12月期の業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は7~9月期の△9から△2へと7ポイント改善してリーマン・ショック前水準・震災前水準に戻りました。(図1)。しかし4~6月期の△21から7~9月期の△9への12ポイントの改善と比べると回復力は鈍化しています。業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)は△15→△7と8ポイント改善しました。

図1 業況判断DI、業況水準DI、売上DI、経常利益DI

図1 業況判断DI、業況水準DI、売上DI、経常利益DI

 業種別では製造業(△9→△3)、建設業(1→6)、流通・商業(△12→0)、サービス業(△12→△9)と、全業種で改善をみています(図2)。地域経済圏別では、大都市圏のうち関東が△7→4、北陸・中部が△7→4、近畿が△15→8とそろって改善しました。地方圏では中国・四国が△10→△3、九州・沖縄が△11→0では改善していますが、北海道・東北が△5→△8と悪化しました。企業規模別では100人以上が△16→19で35ポイントもの大幅な好転ですが、50人以上100人未満が2→0と2ポイント減、20人以上50人未満も△5→△6と1ポイント減と停滞模様です。20人未満は△15→△3で12ポイント改善しました。

 次期、2012年1~3月期は10~12月期の△2から△7と5ポイント悪化を予想しています。リーマン・ショック前・震災前水準にひとたび到着したもののその水準は維持できないと見られています。

図2 業種別 業況判断DIの推移

図2 業種別 業況判断DIの推移

大都市圏での改善が目立つ

 売上高DI(「増加」-「減少」割合)は2011年7~9月期の△6から6ポイント上昇して0と改善しました。全業種で改善しましたがなかでも建設業が0→4、流通・商業が△5→4とプラスに転じました。地域経済圏別では関東が△8→7、北陸・中部が2→3、近畿が△15→△8と都市圏での回復が目立ちます。ただし次期は0→△3で3ポイントの悪化見通しです。

 経常利益DI(「増加」-「減少」割合)は△12→△7と5ポイント改善しました。サービス業が△13→△2と2ケタ台の改善をみています。建設業は△7→△6で、売上高の伸びに比べて経常利益の改善は小さくなっています。地域経済圏別では関東が△12→△10、北陸・中部が△15→△5、近畿が△19→△14と大都市圏が大きく改善しています。

仕入単価は高止まり

 資金繰りDI(「余裕」-「窮屈」割合)は4~6月期の△2から1とほぼ4年ぶりに「余裕」超過に転じました。

 借入金の有無(「有り」の割合)は7~9月期調査から1.3ポイント減少して77.5%にとどまり2001年の調査開始以来もっとも低い水準に落ち込みました。資金需要の低調ぶりが目立ちます。

 仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は7~9月期調査から3ポイント「上昇」超過幅が縮小してDIは24となり、昨夏の猛烈な仕入単価上昇圧力は後退しました(図3)。しかし依然として高止まりを続けている状況です。一方の売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)は△20→△18に改善し、最悪期から2年にわたる緩やかな改善傾向は継続しています。

図3 仕入単価DI、売上・客単価DIとその差の推移(全業種)

図3 仕入単価DI、売上・客単価DIとその差の推移(全業種)

人手不足感が鮮明に

 1人当たり売上高DI(「増加」-「減少」割合)及び1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)は△8→1、△13→△4とそれぞれ改善しました。1人当たり売上高DIを業種別にみると、建設業が△2→12、流通・商業が△8→1、サービス業が△12→1とそれぞれ大きく伸びて水面上に浮上しました。製造業は△9→△3と水面に顔を出すには至っていません。1人当たり付加価値DIでも建設業は△4→4と水面に出ました。

 所定外労働時間DI(「増加」-「減少」割合)は△7→2と2011年1~3月期以来の増加になりました。正規従業員数DI(「増加」-「減少」割合)は3→5、臨時・パート・アルバイト数DIは5→8とそれぞれ増加しています。さらに人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)も△1→△9と不足感を鮮明にしています(図4)。

図4 業種別 人手の過不足感(前年同期比)

図4 業種別 人手の過不足感(前年同期比)

設備投資が再び30%台を割る

 2011年7~9月期に30.4%と30%水準に到達した設備投資実施割合でしたが、10~12月期は28.8%と再び20%台後半水準に戻りました。さらに次期計画割合は27.8%と設備投資には未だ力不足が感じられます。

 設備の過不足感DI(「過剰」―「不足」割合)は、△6→△9と設備不足感の常態化が見られます(図5)。業種別では4業種とも不足感が表れています。地域経済圏別でも全ての地域で明らかに不足感が漂っています。

図5 地域別 設備の過不足感DIの推移

図5 地域別 設備の過不足感DIの推移

「社員教育」の力点増大

 経営上の力点では「付加価値の増大」と「社員教育」の指摘割合が増大しています。また「人材確保」と「得意分野の絞り込み」の増加傾向も注目されます。付加価値の増大を基本戦略として、そのために社員教育の強化による一人ひとりの社員能力の拡充・発揮が不可欠になっています。

「中小企業家しんぶん」 2012年 2月 5日号より