「緊縮政策による不況」の回避を

重大な岐路にたつ世界経済

 ヨーロッパの政府債務危機が再燃し、世界的な株安になるなど金融不安が広がっています。ギリシャのユーロ離脱観測やスペインの金融不安が焦点になっています。世界経済の2番底が懸念され、6月5日には主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁による緊急の電話会議が開かれました。

 なぜ、このような事態になったのか。背後には投機筋の暗躍があります。今年の中同協総会議案の第2章(本紙6月5日号)では、「欧州債務危機の中でも金融機関やファンドは財政不安のある国の国債を『空売り』したり、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を買って利益を得ようと活発な活動を展開し、狙われた国の政府は自国国債の価格暴落(利回りの急上昇)で資金調達難に陥り、じりじりと危険な状況に追い詰められています」と指摘しています。

 このように投機マネーが国家財政を標的としている状況を同友会でもおなじみの山口義行氏(立教大学教授)が明快に解明しています。「重要なのは、リーマンショック以降は、投機の対象がこうした『ソブリン・リスク』(財政破たんなど、国のリスクのこと)しかなくなってしまっていること。…かつてであれば、余ったお金は不動産や証券などに流れ込んで『バブル』を生み出してきた。もちろん、『バブル』だから結局は潰れるんだけど、一時的にはバブルのおかげで経済も活気づくという局面があった。ところが最近は余ったお金がCDSなどに向かっていって、国の財政を追いつめている。そうなると、政府はますます財政支出を絞り込んだり、増税を実施したりするから、バブルどころか反対に経済はますます委縮してしまう。…そんな経済を僕は『バブルレス・エコノミー』と呼んでいるんだけど、そういう時代に今僕たちは生きている」(『山口義行の“ホント”の経済』)。

 総会議案第2章では、このような危機の世界経済への波及について警鐘を鳴らしています。

「増税と緊縮財政はどんどんと広がり、ヨーロッパ経済は広範囲にわたって萎縮していく可能性があります。欧州景気の落ち込みが中国の景気をスローダウンさせ、米国の景気の足を引っ張る可能性があります。そのアメリカも、国債の格下げを恐れて大胆な財政支出策を採れないでいますし、日本政府も増税路線へと踏み出そうとしています。このように『緊縮政策による不況』が今後の世界経済に広がっていくことが懸念されます」。

 『この世で一番おもしろいマクロ経済学』という本を読みました。著者は「お笑いエコノミスト」を自称するヨラム・バウマン。マンガでおもしろおかしく解説しますが、内容は真面目。

著者は9割近い経済学者が合意していることに「マクロ経済学は、大恐慌の間違いからいろいろ学んだ」ことを挙げています。ここでは、「とにかく必死で財政再建を」という意見に経済学者は「ダメ。絶対」と答えますが、このような知見に学ぶべきです。「緊縮政策による不況」を回避する流れをどのように形成できるか。世界経済は重大な岐路に立っています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2012年 6月 15日号より