不確実性の時代に飛躍する企業とは

『ビジョナリーカンパニー(4)』を読んで

 本欄ではかつて、『ビジョナリーカンパニー』などのビジネス書を採り上げ紹介してきましたが、成功の方程式の書でなく、失敗学の書として学ぶことを提起したことがあります(2006年7月15日付)。

 また、『なぜビジネス書は間違うのか』という本を採り上げ、「これさえすれば成功が約束されると思うのは妄想だ」という主張と分析を肯定的に紹介したこともあります(2008年6月15日付)。

 同書の結論は、「ビジネスの核心には根本的に不確実性があることを認識したうえで、あらためて企業パフォーマンスを決定する要因に取り組む」とし、「戦略の選択と実行」にたどり着くとしていました。この度、『ビジョナリーカンパニー(4)』を一読して、上記のような課題に応えることに成功している労作ではないかという感想を持ちました。

 本書のテーマは、不確実・不安定な状況下でいかに飛躍するか。著者のジム・コリンズは、飛躍した企業を「10X(10倍)型企業」と命名しました。業界の株価指数を10倍以上上回る株価パフォーマンスを上げた企業のことです。

 10X型企業の選抜では、15年以上にわたって真に目覚ましい実績を上げ続けた企業であることや当初は経営基盤が脆弱な中小企業であることなどの基準を適用し、インテルやサウスウエスト航空など7社を抽出しています。さらに、10X型企業と同じ時期に同じ業界に属すると同時に、同じ成長機会に恵まれている比較対象企業も選抜。10X型企業と比較することで説得力を増しています。

 では、10X型企業の経営者はどのようなリーダーなのか。本書では、「意外な現実」として「比較対象リーダーよりリスク志向ではなく、大胆でもなく、ビジョナリーでもなく、創造的でもない。より規律があり、より実証主義的であり、よりパラノイア(妄想的)なのである」と述べます。

 これを著者は、一貫した価値観、長期目標、評価基準という行動の一貫性を「狂信的規律」と呼び、権威や広く受け入れられている社会通念を無視して実証データを重視する「実証的創造力」、成功の絶頂にいるときも常に最悪の事態を考えるような「建設的パラノイア」と合わせて、「10X型リーダーの3点セット」と規定します。

 本書は、「3点セット」を軸に「20マイル行進」「銃撃に続いて大砲発射」などのコンセプトを示し、10X型企業と比較対象企業などの事例で効果的に説明します。大部の本ですが、興味を引く事例の引用や論理展開に引きこまれ、一気に読むことができました。

 エピローグでコリンズは、「企業が真に偉大になるかどうか決定づけるカギは人間の手の中にある。たとえどんなに無秩序で不安定な世界にあっても、である。人間に対して何が起きるのかではなく、人間が何をどのように創造し、実行するのかがポイントなのだ」とのメッセージを発しています。「いかに環境がきびしくとも、経営を維持し発展させる責任がある」という同友会の労使見解の見地や科学性、社会性、人間性の観点と通底するものを本書に感ずることができました。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2012年 10月 15日号より