震災を忘れない【北東北3県同友会(青森・秋田・岩手)合同訪問例会】

【〈シリーズ〉復興―我われが牽引する】

 12月18日、青森・秋田・岩手の北東北3県同友会が共催で、「沿岸被災地 移動訪問例会」を行いました。内容は宮城県や岩手県沿岸部の被災地域をバスで訪問し、被災地の現状を見て地元会員企業の声を聞くというもので、当日は3県に加え宮城同友会・山形同友会と中同協から41名が参加しました。

がれきはなくなったが…

 バスは岩手県一関市の蔵ホテルを出発し、宮城県石巻市門脇町へと向かいました。門脇町ではアスベストの問題で壊すことのできない家や建物がぽつぽつと建っている以外は何もない野原が広がっています。テレビや写真で見た津波による瓦礫はなくなっていますが、そのためか生活を感じさせるものがありませんでした。

 門脇町には「がんばろう!石巻」と大きく書かれた看板が目立つ献花台を置く被災地のシンボルとなる場所があります。そこで、参加者は献花を行いました。その後、参加者は歩いて門脇小学校へ。その道の途中では野原に献花がされてあり、そこに家があったのであろうことが分かります。門脇小学校が目に入り、まず驚いたのは小学校を取り囲むようにお墓が立っていることです。門脇小学校では300名の生徒のうち100名が犠牲になりました。津波でガソリンが流れ込み校舎は火事にあい、震災後は外壁が真っ黒でした。今では外壁も白くなりましたが、津波による脅威を校舎内に残しています。参加者全員が衝撃で声も出ません。

 次に石巻市の大川小学校へと向かいます。門脇町と同じく見渡す限りの野原。大川小学校以外の建物はありません。(株)グリーンテラス花壇の大橋清勝代表取締役と(有)千代硝子技販の佐々木千代男代表取締役と合流し、当時の様子を聞きました。大川小学校の校内には現在クリスマスツリーが飾られています。外にソーラーパネルを設置し、いつでも暖かく輝いているのでしょう。大川小学校を出発する際、地元の方がお参りに来ていました。ご家族の方々にとって1年10カ月経っても悔やみきれない思いであると思います。

地域の担い手として経営再開

 石巻市を後に南三陸町へと向かいました。南三陸町の企業である丸平木材(株)の小野寺邦夫代表取締役をバスに乗せ、当時の状況、思いを話してもらいます。丸平木材(株)も津波の直接の被害を受けます。なんとか高台の倉庫に逃げ、ラジオから流れてくる「南三陸の被害状況はまだ分かっておりません」の声に「日本は終わったな」と感じたそうです。現在の南三陸の状況は深刻でした。高野会館と病院、仮設のガソリンスタンド以外は何もありません。街1つが津波に呑まれたという様子が分かります。復旧が進んでいるとはとても言えません。

 (株)高野コンクリートの高野剛代表取締役と合流し、高野会館に入ります。高野会館は当時の状況をそのままに残しています。3階から屋上に向かう階段の壁には津波が押し寄せたと分かる跡がありました。「17メートルあるこの会館を超える波もあり、足元は濡れている状態で1夜を過ごした」。実際に300数十名が集まった屋上で当時の状況を聞きます。「危機的状況の中で同じ経営指針を創る会を受講した秋田同友会の会員の方が、瓦礫でボロボロの道をものともせず支援物資を運んでくれた」と話す高野氏の目に涙が浮かび、参加者も心動かされました。

 高野会館の後に丸平木材(株)の新工場を訪問しました。参加者全員が1年で再開したとは思えない規模の大きさ、立派な設備に驚きます。南三陸の状況の中、同友会の会員企業が地域の担い手として経営を再開していることに希望が見えました。

さらに同友会の輪を広げる

 岩手県陸前高田市では(株)八木澤商店を訪問。民宿を改築した新事務所を見学し、津波に流され倒壊した本社の数キロメートル先に落ちていたという経営理念の額を見ました。それは傷ついていながらもしっかりと理念を示しています。

 そして、蔵ホテル一関に到着。代表者による意見交換会を行いました。そこで田村滿岩手同友会代表理事は「被災の中で同友会企業が力を合わせ、再建・復興する姿からは勇気をいただいた。しかし、同友会がなかった地域はどれほど悲惨だったのだろうか。それを思うとさらに増強をして、同友会の輪を広げていく必要がある」と感想を述べ、閉会しました。

 東日本大震災の風化が叫ばれる中、宮城・岩手の被災跡は未だ震災の脅威を物語っています。東北のみの問題ではなく、日本全体の問題として今回の震災を考えなくてはなりません。震災を忘れないためにも、一人ひとりがこれからどうすればいいのかを考えなければいけないとの思いを強くした例会でした。

中同協事務局 冨永択馬

訪問スケジュール
蔵ホテル一関→宮城県石巻市門脇 門脇小学校→大川小学校→南三陸町志津川 高野会館 丸平木材(株)→岩手県陸前高田市 (株)八木澤商店→蔵ホテル一関

「中小企業家しんぶん」 2013年 1月 15日号より