第1回 中小企業基本法「見直し」問題の浮上

【中小企業基本法の見直しを考える】神奈川大学経済学部教授 大林 弘道

 昨年末政府は中小企業基本法の「見直し」に着手しています。本誌では中小企業基本法「見直し」問題について神奈川大学大林弘道教授の解説を5回連載で掲載します。

 2012年9月から中小企業庁・中小企業政策審議会において中小企業基本法の「見直し」が検討されています。そのような検討が開始されたのは以下のような経過によるものです。

 すなわち、昨年末に総辞職した野田前政権の下で、経済産業省は同年3月に枝野前経済産業大臣と岡村中小企業政策審議会会長(日本商工会議所会頭)とを共同議長とする、中小・小規模企業経営者を中心に中小企業関係者が幅広く参加した「“日本の未来”応援会議~小さな企業が日本を変える~(略称:“ちいさな企業”未来会議)」を設置しました。

 この会議において、小規模企業数・同従業者数が長期間減少し、今も厳しい経営環境が継続していること、同時に、小規模企業が日本経済や地域社会に重要な役割を果たし、その過程で潜在力を有する企業も存在していることが明らかにされました。

 それゆえ、経済産業省は、従来の、とりわけ中小企業基本法の1999年改正以降の「中小企業政策を真摯に見直す」(同会議「取りまとめ」)とともに、中小・小規模企業の経営力・活力の向上に向けた課題と今後の施策のあり方を討議し、「小規模企業にしっかりと焦点を当てた施策体系」を再構築する必要を指摘するに至りました。

 その結果、中小企業政策審議会に「“ちいさな企業”未来部会」が設置され、中小企業基本法における小規模企業の位置づけを精緻化・強化するために、中小企業基本法における中小企業者の定義の見直しの検討が、同部会の「法制検討ワーキンググループ」の作業として始まったのです。

 そして、12月26日に「法制検討ワーキンググループにおける取りまとめに向けた骨子(案)」が発表されました。しかしながら、そのような骨子の方向性が、同月の総選挙の結果によって政権交代した安倍新政権においてどのように引き継ぎ、取り扱われるのかは、現時点(2013年1月5日)では不明です。

 しかし、中小企業の定義の見直しを通じて「小規模企業に光を当てた中小企業政策の再構築」という論点が、今後も「法制検討ワーキンググループ」による検討が予告されていることもあり、注目しておくことが是非とも必要です。

 そこで、この連載では、以上の中小企業基本法の「見直し」の状況、とくに、小規模企業の政策上の位置付けの問題を念頭に、今回を含めて5回にわたって関連する諸問題を考察することにします。

 第2回目に、議論の前提となる、中小企業基本法の制定(1963年)と改正(1999年)の経過を解説し、第3回目に、中小企業憲章の制定(2010年)の意義を確認し、第4回目に、小規模企業の問題をめぐる「小規模企業基本法」ないしは「小企業憲章」の制定の要望をめぐる動きに注目し、最後の第5回目に、このような中小企業基本法の「見直し」問題に対する同友会運動の課題を提起したいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2013年 1月 15日号より