第2回 中小企業基本法の制定と改正

【中小企業基本法の見直しを考える】神奈川大学経済学部教授 大林 弘道

 中小企業基本法「見直し」について神奈川大学大林弘道教授の解説を5回連載で掲載しています。

 2回目の今回は、小規模企業の政策上の位置付けを念頭に中小企業基本法の制定と改正について検討します。

 中小企業基本法(以下「基本法」)は個別の中小企業関連の法律(以下、「個別法」)を束ねる法律です。戦後日本では「個別法」が「基本法」に先んじて早くから多数制定されました。「基本法」は1963年に制定され、(1)「中小企業構造の高度化」、(2)「事業活動の不利補正」、(3)「小規模企業への配慮」の3本柱から成り立っていました。当時、政府は高度成長を推進する加工輸出型産業構造を構成していた大企業・中小企業一体の「二重構造」を「中小企業構造」と呼び、それを摩擦少なく効率的に機能させるために、「近代的」部門であるとされた大企業に適応すべく中小企業の「近代化」を中小企業政策の基本としました。それは「格差是正」を政策理念とするものだとされました。また、経済成長による所得の格差の拡大を懸念した中小企業が「基本法」制定を期待し、要望しました。政府としても、中小企業は農業と並ぶ政権基盤であり、とくに、生業的とされた小規模企業が焦点となっていたため、3本柱において、(1)を推進する限りで(2)を実施し、その範囲で(3)を政策課題としました。しかし、小規模企業政策の本格的実施は政府にとって大きな負担でしたので、実際に(3)の施策が講じられるのは小規模企業の問題が深刻になるときだけでした。それでも、高度成長の間は小規模企業も経営の維持が可能でした。

 1990年代、大企業の海外展開を契機に「中小企業構造」が揺らぎ始めると、中小企業の存立基盤は崩れ、従来の「基本法」は現実に合わなくなりました。その結果、1999年にその「抜本改正」が行われ、政策理念を「独立した中小企業の多様で活力ある成長発展」とし、政策の3本柱は、(1)が「経営革新・創業促進」に、(2)が「経営基盤の強化」に、(3)が「経済的社会的環境変化への適応の円滑化」に変更されました。(1)はまさに大転換でしたが、(2)と(3)は内容的には大きな変化はありませんでした。

 この「抜本改正」に対して「格差是正」の政策理念を変更したとする批判がありましたが、問題の本質は、企業が小規模なるゆえに支援するという政策姿勢、すなわち,政策上の企業規模概念をいわば放棄したことにあります。しかしその後も、中小企業数は減少を続け、「創業促進・経営革新」の当初目標は達成されず、中小企業政策は混迷を深めました。

 それゆえ、「抜本改正」後の「リレーションシップ・バンキング」や「新連携」の導入による政策の事実上の修正と、本欄第1回で紹介した「ちいさな企業」と呼ぶ小規模企業の高い評価とその政策化の同時進行は、現行「基本法」における企業規模概念の理解をめぐる混乱と問題をもたらしています。その混乱と問題の解決を可能にするのが、次回に検討する中小企業憲章といえます。

「中小企業家しんぶん」 2013年 2月 5日号より