第1回 民法(債権法)改正の経緯と基本的な問題点

【民法改正を考える】児玉 隆晴(東京弁護士会所属 東京同友会会員)

 民法(債権法)の改正が進行しつつあります。東京弁護士会に所属する児玉隆晴氏(東京同友会会員)が詳細を紹介します。連載は第3回までを予定しています。

 民法(債権法)改正の動きが活発化しはじめたのは、2006年10月に、法務省参与の内田貴氏(前東京大学教授)始め26名の民法学者が中心となって、民法(債権法)改正検討委員会(以下「検討委員会」という)を発足した頃からです。

 とりわけ、この委員会には、法務省の民法改正担当者などの幹部が参加したことから、法務省の諮問委員会という性格があるとの見方があり、しかも学者有志の集まりと言うことで弁護士始め実務家が一切参加できないという大きな問題がありました。

 その後、検討委員会が2年半に渡り検討を重ね、その集大成として2009年3月に「債権法改正の基本方針」(以下「基本方針」という)を発刊しましたが、これに掲載された改正案は、市場のグローバル化進展を根拠に「民法の規定を国際取引ルールに近づける」ことを主たる目的としています。

 すなわち、この考え方によれば、民法を、国際取引ルールに類似した「強者対強者のルールに変える」ことになり、結局のところ「情報や交渉力等における弱者も強者と同様に厳しい立場に置く」ことにつながると思われます。

 そして、法務省は2009年11月に法制審議会民法部会(以下「部会」という)を発足させ、委員・幹事総勢38名のうち弁護士会からは4人の委員・幹事を選任しました。

 しかし、部会には全体的に実務家委員が少なく、しかも民法学者17名の委員のうち11名(内田参与含む)が検討委員会のメンバーであり、部会長も検討委員会の鎌田委員長が就任したため、部会の議論が検討委員会ペースで進んできたというのが実情です。

 その後、約1年5ヵ月の第1次検討(第1クール)を行い、法務省は2011年5月に「民法(債権関係)改正に関する中間的な論点整理」を取りまとめて公表し、これに対する国民一般の意見を問うパブリックコメントを実施しました。

 これに対し、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)や東京弁護士会(以下「東弁」という)始め各弁護士会は、民法を「強者対強者のルール」に変えることに反対し、むしろ「情報や交渉力等における弱者が、いわれのない不利益を受けることがないようにするべきである」という内容の意見書を提出しました(さらに東弁は、「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理に対する意見書」と題する書籍を信山社から発刊して、この点を広く世論に訴えています)。

 また、東京中小企業家同友会も、同様に「中小企業が大企業に比較して不当な不利益を受けることがないようにすべきである」という内容の意見書を提出していますが、その作成に当たっては、東京同友会中央区支部幹事の中島龍生弁護士ほかが協力しています。

 その後、第2次検討(第2クール)が同年7月から始まり、約1年4ヵ月の審議を経て昨年11月に終了し、現在、中間試案取りまとめのための審議が行われていますが、これまで弁護士会を始め実務家や同友会の意見書が、上記のとおり弱者への配慮を求めてきたことから、風向きが少しずつ変わり始めている状況にあります。紙面の関係上、詳しくは次回以降に述べたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2013年 2月 5日号より