第3回 中小企業憲章の制定

【中小企業基本法の見直しを考える】 神奈川大学経済学部教授 大林 弘道

 中小企業基本法「見直し」について神奈川大学大林弘道教授の解説を5回連載で掲載しています。3回目の今回は「中小企業憲章の制定」についてです。

 中小企業基本法(以下、「基本法」)の1999年の「抜本改正」とその後のいわゆる「構造改革」は、中小企業政策における、前回指摘した通りの企業規模概念の理解をめぐる「混乱と問題」の背景となり、2003年以降の景気の緩やかな回復においても輸出関連中小企業を除いた大多数の中小企業の経営は低迷を継続していました。

 そして時同じくして、そのような事態に真摯に取り組み、中小企業政策の基本的方向・あり方を再構築し、日本経済の根本的な改革と展開を目指した中小企業憲章制定運動(以下、「憲章制定運動」)が始まりました。7年間にわたる長期の運動によって、「中小企業憲章」(以下、「憲章」)が2010年6月18日に「閣議決定」という形で制定されました。この「憲章制定運動」は、同友会運動として始められ、中小企業家同友会全国協議会(以下、「中同協」)によって主導されましたが、最終段階では主要中小企業団体の賛同と協力という画期的な成果を生み出しました。また、その過程で、「中同協」は「中小企業憲章草案」(以下、「憲章草案」)を策定し、広く公開して論議を提起しました。

 一般に憲章とは、法律を理念的に導く、いわば法律の上位概念です。それゆえ、「憲章」の制定は中小企業法のすべてにその理念が浸透されることが期待されています。

 さて、「憲章」は文章の上で政府を主語として、「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」という文章で始まっています。「憲章草案」における主語は国民であり、前文で国民の中小企業に対する認識と期待として「中小企業は日本経済の根幹である」という文章を掲げています。

 「憲章」も「憲章草案」も全文を通じて中小企業総体を中小企業と呼び、とくに、中小企業のうちの小規模企業については、その特徴や課題を強調する形で取り上げられています。たとえば、「憲章」では基本理念の個所で中小企業の意義を記述した後で、「小零細企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらす」と記載し、また、基本原則で「経営資源の確保が特に困難であることの多い小規模企業に配慮する」としています。「憲章草案」でも同様に、金融・税制・財政において「小規模企業や自営業者を特別に配慮する」と強調しています。

 以上のように、「憲章」「憲章草案」においては、中小企業を大企業と峻別(しゅんべつ)すると同時に小規模企業が中小企業という範疇(はんちゅう)(同一性質のものが属すべき部類)に包含されることを明確にしています。その上で、小規模企業固有の特徴と課題を提起しています。

 したがって、「憲章」の下での中小企業政策は、中小企業総体に対して文字どおり「経済の牽引力」「社会の主役」とするためにふさわしい水準と内容の政策が推進され、くわえて、その意義がとりわけ小規模企業に向けて発揮されなければならないことを要請しています。

「中小企業家しんぶん」 2013年 2月 15日号より