故郷を離れ新天地で事業再開~地域に愛される店をめざして (株)寿し松 代表取締役 松本 清治氏(福島)

【〈シリーズ〉復興―我われが牽引する】

 つくばエクスプレスの研究学園駅から徒歩10分の場所に「二代目 寿し松」があります。原発事故の警戒区域指定により、福島県浪江町から避難を余儀なくされ、茨城県つくば市で昨年11月にお店を再開しました。2月17日には相双地区から参加者10名が集まり例会として新店舗を訪問し、避難先からの合流や震災後初めて顔を合わせる方もあり、再会を喜びました。

 松本清治さんは、山歩きとパソコンが趣味の57歳。職人の世界で生きて来ましたが、先進的で明るく元気な方です。経営指針は1993年に策定。当時社内で「寿し松夢チーム」を結成し、共育勉強会を行い、業務改善を行うなど同友会の学びを実践。順調に業績を伸ばし、2009年には浪江町本店を拡大新築しています。

何も分からず避難

 2011年3月11日。この日は金曜日、そして中学校の卒業式。各学校への出前やフリーのお客様で賑(にぎ)わう忙しいお昼を過ごしました。ようやく賄い飯を食べ休憩しようとしてた14時46分に大地震が発生。物凄(すご)い揺れになすすべが無い状態。近所の建物の崩壊や繰り返し起こる強震。ようやくスタッフや家族と連絡がつきましたが、それぞれで避難する事に。原発事故の正確な情報も無く、とにかく総理大臣の命令という事で、そのまま故郷を離れざるを得ませんでした。

 震災から2年。故郷は自由に立ち入りできません。何年後に戻れるかもはっきりしません。いまだに店内が散乱した状態のまま片付けもできません。限られた時間での一時帰宅で松本さんが見た様は、空き家のため窓を壊され、侵入され、荒らされ、そこから鳥獣が入り込むという状態でした。

普通に仕事ができる幸せ

 しかし「まだやれる。このまま終わっちゃ情けねえ」と、松本さんは新店舗開店を決断。時間はかかりましたが、条件や家族、スタッフの事情なども熟慮し、縁あってつくば市に決めました。

 新しい街では信用が少なく辛(つら)く思うときもありますが、元来の楽観主義で乗り越えています。

 店名の「二代目」には後継者を残すという想(おも)いと新しいことを始める決意を込めて付けました。嬉(うれ)しいことに、周りには回転寿しに慣れ親しんだ地域の方々が多いせいか、お寿司の握り方やテーブル配置など、これまで浪江町で当たり前にやってきたことが、ここでは新しいサービスとして、お客様から喜ばれています。

 「普通に仕事をして生活できる事が幸せだと再確認しました。近くに知り合いがいて、親戚や家族がいて、スタッフがいて、お客様がいて、思い出がある。平凡ながら、それが幸せだと思います。今後も、スタッフを求人し、経営理念の共有化を図りながら、地域の方に愛されるお店にしたいと思います。そしていつかは故郷にも出店し、今までお世話になった方々に美味(おい)しいお寿司を食べてもらいたいですね」と松本さんは明るく話してくれました。

経営理念

1)おいしいもの作り
2)自分づくり
3)しあわせ創り

「中小企業家しんぶん」 2013年 3月 5日号より