第4回 中小企業基本法「見直し」の現在

【中小企業基本法の見直しを考える】 神奈川大学経済学部教授 大林 弘道

 本欄第1回で紹介した、「見直し」作業の中心となっている中小企業政策審議会「“ちいさな企業”未来部会」の「法制検討ワーキンググループ」(以下,「法制WG」)は、本年2月18日に「論点整理」を発表しました。

 それは、基本的な課題に「小規模事業者に光を当てた中小企業政策の再構築」を掲げ、小規模企業に関する「基本理念」「施策の方針」、「定義の弾力化」などの諸論点を挙げています。この「論点整理」は近く「未来部会」で審議される予定です。

 また、このような動きの背景には、全国商工会連合会が「小規模企業基本法」の制定を提唱し、自民党が昨年末の総選挙の公約に採用したことがあります。

 さらに、全く別の角度から「全国商工団体連合会」が「小企業憲章」の制定を提唱しています。

 以上のような、「未来部会」の審議や小規模企業層を基盤とする中小企業団体の提唱は、今日の小規模企業の「困難」と「希望」を意味し、現時点では明らかに「困難」の強い意識を反映しています。

 加えて、戦後中小企業政策史においては、中小企業の「定義」における企業規模範囲の上限を繰り返し引き上げ、しかも,政策の主要な対象を常に上限近傍の中小企業に置いてきたことへの不満が一挙に噴出したのです。

 そして、右の意識と不満の形成は、政策上の「企業成長」への過度の評価に基因しています。規模拡大の目的化、小規模性に対する低い評価などです。

 ここでは詳論できませんが、「法制WG」の「論点整理」にも同様の考え方が残存し、「中堅企業」政策論が登場して、全体としては整理しきれていません。

 しかし、そうだからと言って、小規模企業政策の充実と促進のための「小規模企業基本法」や「小企業憲章」の制定の必要性については議論の余地が少なくありません。

 たとえば、中小企業と小規模企業とを分類すると、中小企業における小企業と小規模企業との相違が不明となり、現在進展中の各地の中小企業振興基本条例の制定についても、それに加えて、小規模企業振興基本条例の制定も必要となってしまいます。

 より基礎的な観点としては、本欄の第2回および第3回において言及したように、まずは「企業規模」に伴う問題の存在を承認し、次いで独占禁止法等を基礎づける「独占と競争」の観点から企業を大企業と中小企業に峻別し、その上で中小企業の範疇の中で小規模企業に対する政策を推進することが合理的です。

 たとえば、当面する「金融円滑化法」の終了や消費税率の引き上げ問題の場合においても、小規模企業層への打撃は広く中小企業全体に波及することが予想されており、その解決には中小企業総体の観点からの対処が肝心になります。

 したがって、今回の「見直し」に際しては、本欄前回で指摘したように小規模企業を明確に位置づけた「中小企業憲章」「中小企業憲章草案」に基づく「見直し」が必要です。

「中小企業家しんぶん」 2013年 3月 5日号より