第3回 契約の「解除」に関わる問題点

【民法改正を考える】 児玉 隆晴(東京弁護士会所属 東京同友会会員)

 民法(債権法)改正について、弁護士会と検討委員会(学者グループ)との間で意見対立があった重要問題について、一定の方向性が出ましたが、今回は、その中で「解除」の問題点を述べます。

 現行民法では、契約を解除するには、原則として一定の期間を定めた催告をすることが必要です。例えば、A会社がB会社から機械製品を買うことになり、売買契約を締結したところ、その製品は期日に納入されたものの、その取扱説明書の引き渡しがされなかったという場合を考えます。その説明書の引き渡しについてはB社の債務不履行があることにありますが、現行法では、A社は、すぐには解除することはできず、相当期間(取引当事者の所在にもよりますが、取扱説明書の場合は通常は3~5日程度と思われます)を定めた催告をして、その期間内にB社が取扱説明書を引き渡さなかった場合に、初めて解除できることになります(民法541条)。

 但し、判例は、「軽微な義務違反などの場合には、催告をしても解除できない」としており、上記の事例の場合に、取扱説明書が「ささいな内容のもの」に過ぎない場合には、解除できない場合があります。この場合は、A社は、損害があれば損害賠償を請求できます。

検討委員会での論議

 これに対し、検討委員会(学者グループ)は、この催告解除の原則をやめて、「重大な不履行」があれば、催告することなく、すぐに解除ができるようにするべきであると主張しました。これは、国際動産売買条約などの国際取引ルールで用いられている考え方で、日本民法もこれに合わせるべきであるという考え方です。

 しかし、「重大な不履行」が何を意味するかについては、債権者(事例ではA社)の「契約に対する正当な期待を失わせるような不履行」と説明するのみで、何が「契約に対する正当な期待」であるかについての具体的な説明がありません。そのため、弁護士会は、解除の要件という「契約を破棄するための基準」としては、あまりに不明確であると反対しました。

 そればかりか、「契約に対する正当な期待」という考え方は、ともすると「契約書に記載された債権者の期待」を意味するという考え方につながりやすいと思われます。つまり、この考え方に立てば、上記の事例においてA社が大企業でB社が中小企業の場合に、A社が、売買契約書の中に、「機械製品の引き渡しはもとより、その取扱説明書その他その製品に関する一切のものを引き渡すことが、本契約における重要な債務の履行である」という条項を入れる可能性があります。

 そうすると、このような条項が入った売買契約書を取り交わした場合は、B社が「ささいな内容の取扱説明書」を期日に引き渡すのを失念しただけで、A社は「重要な債務履行がされなかった」として直ちに解除できることになると思われます。

 このように、「重大な不履行」を解除の要件とする考え方は、ともすると契約書至上主義の弊害を生みやすく、大企業から一方的な内容の契約書を押しつけられる傾向にある中小企業にとっては、著しく不利益となります。

試案に意見が反映

 そこで、弁護士会が、そのような点も挙げて反論したところ、法務省も一定の理解を示し、今回の中間試案の「たたき台」では、催告解除を原則とし、催告なくして解除できるのは「不履行により、催告をしても契約の目的を達成することができないことが明らかな場合」とするとしましたので、これについても現在の公正、公平な取引を維持できる方向になったものと思われます。

(終)

「中小企業家しんぶん」 2013年 3月 5日号より