第5回 中小企業基本法「見直し」と同友会運動

【中小企業基本法の見直しを考える】 神奈川大学経済学部教授 大林 弘道

 本欄の4回にわたる連載の検討から理解されるもっとも重要なことは、今日の日本の小規模企業が「希望」がありながら「困難」に直面し、それを克服しようとする小規模企業自身の積極的努力が開始されたということです。

 過去20数年間の中小企業数の100万を超える減少の主たる担い手は残念ながら小規模企業層であったと言えます。その現象の多くが「悲劇的」な倒産ではなく、「自主的」な廃業であったことはせめてもの救いでした。しかし、今日の事態はもはやそうした楽観を許さず、行政府においてもこれまでの「中小企業政策を真摯に見直す」とともに「激変緩和」の施策を余儀なくされ、政権交代を挟んで与野党が改めて関心を寄せています。「官民」における中小企業の表示も一時の「中小企業・ベンチャー企業」から「中小企業・小規模事業者」に転換してきています。

焦点は小規模企業の定義

 そして、今回の中小企業基本法の「見直し」における中小企業政策審議会などでの議論の焦点は、「経営支援」「下請取引」「資金調達」「事業再生」の個々の施策というより、「小規模企業者の定義の精緻化・拡大の考え方」にあります。言い換えれば中小企業という規模的・業種的・企業形態的多様性(中・小、会社・個人、同族・家族、男性・女性など)の存在が、定義によっていかに担保されるかについての今後の展開が注目されなければなりません。

中小企業団体の課題

 このような状況は、同時に、さまざまな特徴を担って種々の中小企業を結集している各中小企業団体にも1つのしかし重要な問題を提起しています。

 つまり、各団体は団体内の会員企業間での企業規模の相違から生まれる課題をどのように克服するかという問題です。

 当然に中小企業家同友会(以下、「同友会」)もそのような問題意識を共有することになります。その理由を問うならば、「同友会」会員企業の平均企業規模(「同友会景況調査報告(2012年10~12月期)」)は(1)役員を含む正規従業員数が36・4人、(2)臨時・パート・アルバイトの数が27・9人で、いわば会員規模構成が日本の典型的な中小企業、欧米基準でいえば「小企業」を中心に広く分布しているからです。

 さらに、同友会運動は、全国規模から各同友会の支部に至るまで、種々の集まりにおいて多様な企業の経営者である会員は互いに「学び合い」・「励まし合い」の実績を積んできています。その意味で、右の問題への取り組みにおいて他の中小企業団体の模範となることができるからです。

憲章の精神に基づく基本法改正を

 それゆえ、今後とも、同友会運動は「中小企業憲章」の国会決議をはじめ、同憲章の内容の実現を目指して検証を続け、「中小企業憲章草案」を会内外に普及するとともに、「中小企業憲章」の精神に基づく中小企業基本法の改正を提起することが課題です。そのような方向こそ、今回の中小企業基本法の「見直し」が提起した問題に真に応えることになります。

(終)

「中小企業家しんぶん」 2013年 3月 15日号より