【同友会景況調査(DOR)概要(2013年1~3月期)】アベノミクス効果 中小に及ばず~円安先行で採算伸びなやみ

調査要項

調査時点 2013年3月5~15日
調査対象 2,397社
回答企業 962社(回答率40.1%)(建設162社、製造業319社、流通・商業294社、サービス業179社)
平均従業員数 (1)35.8人(役員含む・正規従業員)(2)29.0人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

DOR、年初に厳しい落ち込みを記録

 日本経済の景気は上向き機運にあると言えそうです。しかしこの持ち直しのバネとなった株高・円安は海外からの投資マネー・投機マネーによって押し上げられた外発的なものです。日本経済の内側からの盛り上がり、内発的なものではなく、危うさが残っています。日銀短観(企業短期経済観測調査)の業況指数(DI)では、大企業・中小企業ともに改善はわずかなものでした(図1)。アベノミクス効果は現在のところ中小企業には及んでいません。むしろ、円安先行による原材料費・仕入値上昇が採算を圧迫しています。

 DORの2013年1~3月期の業況判断DI(「好転」-「悪化」割合、前年同期比)は△5→△10と5ポイント悪化しました(図2)。前期比の業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)も△7→△17と10ポイント悪化。年初は厳しい落ち込みとなりました。しかし、次期について、業況判断DIは△10→3、業況水準DIは△17→△8とそれぞれ改善が期待されています。これが実現し力強く景気が改善していくために、「中小企業憲章」に基づく経済政策の実施が求められます。

機械金属系業種はなお深い水面下

 業況判断DIを業種別に見ると、これまで復興需要の影響を受けてきた建設業が11→△3で14ポイント、製造業も△16→△24で10ポイント悪化しました(図3)。製造業の機械金属系業種は鉄鋼・非鉄金属が△44、機械器具が△31、金属製品が△21といずれも深い水面下にあり厳しい状況です。円安→輸出拡大→輸出産業の活性化→関連産業への波及といった状況はまだ見られません。

 地域経済圏別では、大都市を抱える関東が△11→△11で横ばい、北陸・中部が△17→△21で4ポイント悪化、近畿が△16→△16で横ばい。地方圏では北海道・東北が9→△5で14ポイント悪化、中国・四国が7→△1で8ポイント悪化、九州・沖縄が2→2で横ばいです。大都市圏はそろって深い水面下にあります。

 企業規模別では、100人以上が△2→△10で8ポイント悪化、50人以上100人未満が△19→△19で横ばい、20人以上50人未満が△3→△13で10ポイント悪化、20人未満が△4→△5で1ポイントの悪化でした。50人以上100人未満以外で悪化しました。

仕入高DIが急上昇、採算圧迫の警戒感高まる

 売上高DI(「増加」-「減少」割合)は△4→△9と5ポイント悪化、経常利益DI(「増加」-「減少」割合)は△4→△12と8ポイント悪化しました。いずれも建設業での悪化が目立ちます。売上高・経常利益DIの次期はそれぞれ16、14ポイントの大きな改善を見込んでいます。

仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は円安先行による原材料費・仕入値上昇を反映して6→23と急上昇しました(図4)。この影響で、前期まで健闘していた採算水準DI(「黒字」-「赤字」割合)は33→15と大きく悪化しました。売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)で△19→△12と改善したものの、それを上回る仕入単価の上昇により採算が圧迫されています。仕入単価DIは次期も23→36と上昇する見込みで、一層の警戒が必要です。

 金融面では、資金繰りDI(「余裕」または「やや余裕」-「窮屈」または「やや窮屈」割合)は6→3とわずかに余裕感が縮小しました。業種別、地域別で差が見られ、それぞれの金融環境に注目が必要です。中小企業金融円滑化法の終了を受けて、取引先・顧客・外注先からの間接的影響があり得ることにも十分に注意する必要があります。

設備不足感が続くも、実施に踏み切れない様相

 1人当たり売上高DI(「増加」-「減少」割合)及び1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)は△6→△9、△7→△10とそれぞれ3期連続の悪化となりました。生産性に関する指標は芳しくありません。雇用面では、正規従業員数DI(「増加」-「減少」割合)は3→7と上昇、臨時・パート・アルバイト数DIは6→3と微減でした。人手の不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△10→△17と不足感が明らかです。

 設備投資の実施割合は30%台を回復しました。しかし、投資目的では維持補修の割合が高まり、設備投資を計画しない理由は「自業界の先行き不透明」の割合が増大しています(図5)。設備の過不足感DI(「過剰」―「不足」割合)は△9と不足感が続いていますが、経営環境の先行き不透明感から、設備投資実施に踏み切れない様相です。

社員能力の向上を土台に据える経営が定着

 経営上の問題点では「民間需要の停滞」が51%→40%、「同業者相互の価格競争の激化」が54%→50%と減少した一方、「仕入単価の上昇」が12%→23%と急増しました。「仕入先からの値上げ要請」も2%→7%と増加しました。需要停滞と価格競争の問題に加えて、仕入高への警戒感が一気に強まっています(図6)。

 経営上の力点では「新規受注の確保」(63%)、「付加価値の増大」(48%)に「社員教育」(44%)が続きます。社員教育と人材確保の指摘割合についてはリーマン・ショック以降着実に増加しており、厳しい企業間競争を打破する戦略として社員能力の向上を土台に据える同友会型経営スタイルが定着しています。

<新規事業展開に関する経営者の声>

●周辺分野である防水工事業に進出するに当たり、従来の仕入先、販売先から連携出来る先と関係を強化出来るようにし、今後、建設工事業の認可も取得するメドがつけられた。(北海道:ファインスチールの成型加工販売)
●新規事業 太陽光発電による売電事業実施(2月20日から連携開始)→総発電量2,010kW(北海道:介護事業、不動産賃貸業、ホテル業)
●昨年秋に、弊社2番目のオリジナルブランドを立上げた。新ブランドの拡販に注力し、新たな得意先を拡大出来ている。(大阪:衣服製造)
●太陽光発電事業の取組(全量売電)(山口:電気・管工事業)
●不動産業者とのパートナーづくりや異業種とのコラボ計画スタート。(福岡:建築工事業)
●現在事業展開を試みている維持補修業務についての、海外展開も視野に入れて営業を行っている。(長崎:土木測量設計調査補修)

「中小企業家しんぶん」 2013年 5月 5日号より