制度として持つ「逆進性」<シリーズ消費税を考える(1)> 関東学院大学法学部教授 阿部徳幸

【特集】中小企業に迫る危機―TPP参加・消費税増税の問題点

 消費税法の改正が行われ、2014年4月に8%、2015年10月に10%へと引き上げられることになりました。
 本紙では5回にわたり、関東学院大学法学部の阿部徳幸教授(阿部徳幸税理士事務所税理士、東京同友会会員)の連載を掲載し、消費税の問題点と中小企業経営への影響について考えたいと思います。

実質経済成長率2%が引き上げの「条件」

 いよいよ消費税率引き上げまで1年を切りました。14年4月から8%(地方消費税を含みます。以下同じ)、15年10月からは10%となることが予定されています。ただし、この引き上げには「条件」があります。経済成長率が名目で3%、実質で2%上昇を前提に引き上げられるのです。

 現在、いわゆるアベノミクスのもと、好況感がいわれます。確かに円安は進み、株式相場も好転しました。しかし、これは一部にとっての好況感に過ぎません。このムード先行の好況感を前提とした消費税率引き上げではルール違反です。税率引き上げはその直前まで慎重でなければなりません。なぜならこの消費税制は多くの問題をはらんだ制度だからです。

 ここでは5回にわたり、この消費税制の問題点について考えてみたいと思います。

 そもそも今回のこの消費税率引き上げは、社会保障・税一体改革の一環としてなされるものです。福祉財源確保のための増税です。しかし、社会保障改革の中身は全く決まっていません。

 実は消費税には「逆進性」という致命的な欠陥があるのです。消費税の負担はすべての者に一律5%であることから、その分、高所得者にはやさしく、低所得者には厳しい税ということです。第一生命経済研究所の試算によれば、消費税率が10%となった場合、年収250万円未満の4人家族では、現在より約12万円の負担増となる一方、年収800~900万円の世帯ではそれが19万円となり、年収の開きほどには負担の差はないのです。

 わが国憲法は、「法の下の平等」をいいます(憲法第14条)。そしてこの「逆進性」から消費税は、憲法第14条違反の疑いを拭いきれない怪しい税制なのです。

 これは消費税の先進国である欧州でも同じです。しかし、欧州諸国では、この問題を回避するため、食料品をはじめとした生活必需品に軽減税率を採用するなど、その対策を講じています。しかしわが国の場合、この軽減税率導入は先送りされました。

税制改正が財源不足を招く

 消費税とは、社会保障財源を確保するため導入され、その税率も引き上げられてきました。わが国憲法は、基本的人権を最も重視する福祉憲法です。この福祉憲法のもと、税はすべて社会福祉に充てられることが予定されます。しかし、福祉財源としての消費税というと、ほかの税は福祉に充てなくとも良いということにもなりかねません。さらにこの社会保障・社会福祉とは、個人の責任や自助努力だけでは対応できないリスクに対し、社会全体で取り組む仕組みです。それを社会的弱者に厳しい税で対応しようとすること自体、ナンセンスとしかいいようがありません。

 消費税は景気変動に左右されない安定した財源が見込める税だといわれます。デフレ不況による税収減から、わが国は巨額な財政赤字を背負っているというのです。しかし財務省は、97年度から12年度までの税収減8・3兆円のうち、7・6兆円の要因を、不況ではなく税制改正によるものとしています。つまり、たび重なる減税が原因だというのです。そしてこの減税は、大企業・高所得者を中心になされました。財源不足をいうのであれば、まずはここを解消してから社会的弱者に厳しい消費税へと向かうべきではないでしょうか?

(阿部徳幸税理士事務所税理士・東京同友会)

消費税税率アップは中小企業への難題

りんゆう観光代表取締役植田英隆(北海道中小企業家同友会)

 2014年消費税税率8%へ2015年10%に私は反対意見です。

 消費税(日本型付加価値税)は今5%です。1989年消費税がはじまったときは3%でした。 りんゆう観光の消費税納税額累計を確認してみました。24年間(2011年度まで)でいうと、3億6900万円(預かり消費税7億1500万円、仮払い消費税3億4600万円)でした。他の納税はどうかというと2億5700万円(法人税、道市町民税、事業税、事業所税あわせて)です。利益があがった年度そうではない年度があった結果ですが、やはりしめされた結果は重いものでした。5%以上は対応がとてもたいへんが率直なところです。10%ということは年1500万円が3000万円になるわけですから。

 個々の企業のことで考えても、これだけ影響の大きい問題です。これまで日本政府(民主党政権、今の自公政権)・財務省は、増税に納得いく体系だった説明はきちんと行っていないとしか思えません。どうしてかわかりませんが残念な気持ちです。さらに大きな論点も説明に入れていません。国債残高急増に歯止めはかからず、たとえ10%になっても焼け石に水であることははっきりしていますし、国税収入での消費税割合は今すでにヨーロッパの高税率諸国家なみになっています。

 納得がいけば消費税増税も受け入れ苦労も背負おうが、私の根底にあります。しかし、上げようということに、安易な賛成はとてもできません。上げなくてもという「対案」がすでにさまざま出されており、具体性も説得力もかえって私にはありました。勉強と意見交換は続けます。国民主権の時代、「中小企業憲章」もある時代なのですから。

図表で見る消費税への影響

 消費税導入時(1989年)には、耐久財の多くについて高率の物品税が廃止されたため、これらではネット減税となった。一方、前回の税率引き上げ時(1997年)には、税率引き上げにより価格上昇が耐久財や半耐久財、非耐久財、サービスなどで広く反動減を発生させた。

 今回の2段階の消費税率引き上げに伴う家計負担の増大は、前回の税率引き上げ時を大幅に上回ることは確実である。実質可処分所得は2014年度で2.1%、2015年度と2016年度はそれぞれ0.7%減少することになる。

図表は東京三菱UFJ銀行経済調査室が2013年4月17日に発表した経済レビュー「消費税率引き上げがもたらす家計負担の大きさと個人消費への影響」より引用
三菱東京UFJ銀行「金融経済情報」http://www.bk.mufg.jp/rept_mkt/

「中小企業家しんぶん」 2013年 5月 5日号より