<シリーズ消費税を考える(5)>関東学院大学法学部教授 阿部徳幸

消費税の滞納防止が社会問題に

 国税庁はそのHPにおいて、消費税を、「消費一般に広く公平に課税する間接税」、「納税義務者は事業者とするが、事業者に負担を求めるものではなく、最終的には消費者が負担するものである」、と説明します。ただし、これは政府が理想とする消費税制の姿に過ぎません。現実には、一部の事業者を除き、ほとんどの事業者は消費税を自ら負担し、負担の度合いによっては「滞納」となる恐ろしい税でした。

 では「滞納」を未然に防ぐにはどうすればよいのでしょうか? 消費税の滞納を未然に防ぐ1つの方策として、納税額を少なくするということは考えられないでしょうか? もちろん「脱税」という話ではありません。

 消費税の納税額は、「売上×5%―仕入×5%」と計算されます。ここでは「仕入」に含まれる金額を多くすれば、計算式の答えは小さくなるはずです。「仕入」には、「給料」「法定福利費」といった、いわゆる「人件費」は含まれませんでした。しかし、この「人件費」が算式の「仕入」に含まれるとすれば、納めるべき消費税額はかなり少なくなるはずです。

 直接雇用の従業員に対する人件費は、算式の「仕入」に含まれません。しかし、「派遣社員」の場合、その人件費は、人材派遣業者に支払われるものであり、それは人材派遣業者に対する「料金」です。人材派遣業者に対する「料金」は、「仕入」に含まれることになります。結果として、消費税の納税額はその分少なくなります。

 現在、「派遣社員」という雇用形態も一般的となり、また「人材派遣業」といった業種も主要産業の1つとなっています。しかし、その反面、非正規雇用、ワーキングプアといった「格差」が社会問題の1つとなってしまいました。その一端を担ったのが消費税制だったのです。

 一方、「売上」を少なくしても、消費税の納税額は少なくなります。しかし、これ以上「売上」が少なくなってしまっては話しになりません。

残る違和感 「還付」制度

 消費税はあくまで「国内」で行われた取引について課されるものです。では「輸出売上」の場合はどうなるのでしょうか? 輸出の場合、国外取引であり国外で消費されますので、算式の「売上」には含まれないことになります。仮に国内で生産し、そのすべてを輸出したとするならば、算式の「売上」は「ゼロ」となり、答えはマイナスの数字となるはずです。答えがマイナスとなった場合、その金額は「還付」されるのが消費税のルールです。

 トヨタ自動車という会社があります。2013年3月期連結決算で1兆円もの営業利益を計上したことがマスコミを騒がせました。このトヨタ自動車は、実は1銭も消費税を納めていないのです。決算期は異なりますがその1年前の2012年3月期には、1695億円もの消費税の還付を受けているのです(表)。

 消費税とは、「滞納」と隣り合わせの厳しい税制でした。しかし、輸出業者にとっては、オートマチックに還付されるとても優しい税制なのです。単純計算すれば、税率が「倍」になれば「倍」の金額が還付されるのです。この還付制度は消費税の仕組みからしてやむを得ないとしても、どこか違和感の残る不公平な制度のように思えてなりません。

(終)

「中小企業家しんぶん」 2013年 8月 15日号より