公共工事があってもできない!

人件費上昇を吸収できる体制を

 「また移転が遅れるのか」。築地市場関係者は不安を隠せない。東京都が築地市場を江東区豊洲に移転する建設工事。入札は、建設価格高騰の影響でゼネコン各社が応札を辞退。11月の主要施設3棟(合計約630億円)の入札が不調に終わりました。

 東京だけではありません。いま全国で入札不調が相次いでいます。

 東日本大震災からの復興事業や「国土強靭化計画」による公共工事に加え、消費税率引き上げを見越した駆け込み需要が発生していることが背景にあります。2020年東京五輪に向けた都市整備が本格的に始まれば、建設資材不足、人手不足はさらに悪化する懸念があります。

 7~9月期の全国のH形鋼の生産は105万トンで、前年同期比28%も多い。経済産業省によると鋼材の土木向け消費量は10~12月期に173万トンと、7~9月期から11%増える見通しです。

 セメントは東北で防波堤や漁港整備など公共事業向けの出荷が増加。セメント各社は10月1日から1トン約1000円(約9%)の値上げを表明しました。

 また、道路舗装材のアスファルトは、指標品の需要家渡し価格が1トン11万円前後と前年同期より2割強高い状況です(日本経済新聞〈以下、日経と略〉10月31日付)。

 急激な建設需要の拡大に対して、人手不足も深刻化しています。DOR(同友会景況調査)によれば、建設業の人手の過不足感DIは△52となっています。

 この指標が△50の水準になるのは、90年代はじめの「バブル経済期」以来のことです。こうした人手不足状況を受けて会員からは、「未熟な人材による事故のリスクが高まっており、自社の安全管理体制の見直しと、長期的な人材採用と育成の対策に取り組んでいる」(岡山、建設業)といった指摘がみられます。

 人材難に対して、例えば大手ゼネコンは建物の骨格部分の工期を半分にする新工法を導入しています。事前組み立て方式ですが、コストはこれまでの工法と変わらず、作業に必要な職人の数を25%以上抑えます(日経、10月5日夕刊)。

 また、「急がば回れ」とばかり、自前で職人育成に乗り出す企業もあります。例えば、「社員クラフトマン制度」と称して、10人の高卒社員を採用し、約3年かけて大工や基礎工、内装の職人を育成するなど。

 冒頭の入札不調に話を戻しましょう。国は今春、公共事業の労務単価を15%引き上げました。しかし、労務費はそれ以上上がっています。こうした声を受けて、例えば東京都大田区は、労務単価を契約後に改めて見直す協議を建設業者らが区に請求できるようにしました。人件費の上昇に苦慮する建設業者に配慮した措置です。9月補正予算に約2億5000万円の経費を計上しています(日経、11月15日付)。

 入札不調にはこのような対策が必要になっています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2013年 12月 15日号より