日本政策金融公庫と懇談―連携を強め地域と中小企業の繁栄を

 昨年来、日本政策金融公庫(以下日本公庫)と同友会との連携が進んでいます。(山梨、秋田、茨城、福岡同友会で覚書を締結)中同協では、相互の理解を深め、地域と中小企業の繁栄をはかるため、同公庫専務取締役豊永厚志氏との懇談を行いました。豊永氏は中小企業庁次長在任中から中小企業憲章推進に尽力され、2011年7月中同協第43回総会(札幌)に出席、特別あいさつをされました。(11月18日収録)

【出席】

豊永 厚志氏(日本政策金融公庫代表取締役専務取締役・中小企業事業本部長)
鋤柄 修氏(中同協会長・(株)エステム代表取締役会長)
広浜 泰久氏(中同協幹事長・(株)ヒロハマ代表取締役会長)
国吉 昌晴氏(中同協副会長)

長期貸し出しが得意 きめ細かく対応

鋤柄 まず日本公庫の果たされている役割からお願いいたします。

豊永 今回は貴重な機会をいただきありがとうございます。広浜さんには日本公庫の全国懇話会副代表幹事として大変お世話になっています。この懇話会は各支店でお取り引きさせていただいている方々に参加いただいています。

 日本公庫は、平成20年に国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫・国際協力銀行の4つの政府系金融機関が統合されて発足しました。このうち国際協力銀行(JBIC)は対象事業や企業のスケールも異なることから昨年独立をしました。

 職員数は7500人、個人の教育ローンから、農林関係、社員数人の小企業から300人規模の中小企業までカバーする公的金融機関として再構築されました。

 日本公庫の役割は、政府系金融機関として民間の金融機関が貸しにくいリスクの高いお客様の資金ニーズに対応することです。教育等の資金を必要とされている個人、起業・創業という段階の企業、業績が不振になって事業の再生が必要な企業、国際展開をはかりたい中小企業の方々などです。何らかの理由で民間の金融機関から借りにくい場合融資をする、という民間金融機関の活動を補完するということです。

 このため、結果としてですが、過去の実績を見ると、公庫は景気が良くなると貸出額が減り、不景気になると増えるということを繰り返しております。いわば世間一般の金融機関とは逆の動きをしています。

 最近、民業圧迫の懸念ということが公的金融機関について言われますが、そうした指摘に当たることのないよう心掛けてきております。むしろ、協力関係を深めていきたいと努力しています。例えば、ある企業にお金を貸す時に、単独の金融機関ですべて担うということは難しいことが多いので、協調している例が少なくありません。メインの金融機関に脇からお手伝いする金融機関がありますが、その一角に私共もあります。

 公庫の融資の特徴は長期の固定金利での貸出であるということです。創業や再生をめざす企業は先々不確定要素が大きいですから、7年、10年、長いものでは15年の固定金利で貸出ができる公庫は利用価値があります。近年は成功した暁の一括償還、元本については7年、10年、15年返さずに利子だけ払えばいいという資本性劣後ローンといった道具立ても持っています。ですから民間の金融機関とは矛盾せず、日本公庫の後ろ盾があるから民間金融機関も貸せると言うことが多くあります。

姿勢がぶれない

広浜 私は昭和52年に会社に入りましたが、その時点ですでに日本公庫と取り引きがありました。当社は創業62年になりますが、中小企業金融公庫時代を含め日本公庫からの借り入れ回数は62回よりもはるかに多いです。借入残高も民間金融機関からのそれよりも常に多い状態です。都銀と比較すると姿勢がぶれない、経済や金融情勢の動きに左右されないのが特徴です。

 政策金融の窓口になっているので、その時々に私たちが取り組んでいる事業に対していちばん合った金融の形を提案していただけます。経営革新や海外展開の資金、知財担保による借入なども利用させていただきました。それぞれ極めて低い金利で借りることができました。動産担保というのがあり、たとえば機械を設備しますとその機械が担保になります。これは他にはないと思います。それから「預金してください」と言われないので助かります。 職員の皆さんの対応も銀行とは違います。不採算部門から撤退する時など金融機関にも相談しますが、銀行は「社長さんの考える通りやってください」という対応で踏み込んできません。ところが公庫の場合、「それは絶対にやめたほうがいい」と、はっきり言っていただけるので助かっています。

リスクの高い融資も

豊永 当公庫への最大級のエールを送られた気がします。私は、「7つ道具」と言っているのですが、公庫の有するいろいろな融資ツールを用いて資金提供を行っています。特にその7つ目の道具が、常に相談に預かれるようなコンサルティング能力ではないかと考えます。単に資金をご融資するのではなく、相手先の状態に合わせた制度を用意する。工場を見て、製品を見て、財務諸表を見ていろいろな議論をさせて頂く中で最も適切な形で必要な資金をお貸しする。それが公庫の営業のあるべき姿です。親身になって相談に預かり、借りて良かったと思って頂けるよう心掛けています。

 知財担保もそうですし、保証人をとるかとらないかということもそうですが、世間一般よりもリスクの高い融資をするのが政府系金融機関の役割と考えています。結果として日本公庫は民間金融機関よりもリスク債権比率が高く、貸付先の格付けも民間のそれより下位です。正常な方々や元気な方々だけを対象にご融資するのでは政府系金融機関の存在価値がなくなってしまいます。

鋤柄 90年代から貸し渋り、貸しはがしが多く発生し、私たちは金融アセスメント法制定の運動をしてきました。そのことを通して、金融機関は数字だけ見て中小企業を判断するのではなく、本当に経営者と企業の実態に深く入り込んで判断するよう働きかけてきました。地銀も経営コンサルタント的対応のできる組織を本店には作っていますが、まだまだ血が通っていない気がします。支店長クラスと話をすると「中小企業は危ない。安易に貸出すれば社長の車がベンツに変わるのではないか」という固定概念を持っています。同友会ではそういう経営者の姿勢で融資を受けることは間違っていると姿勢を正してきました。経営指針を作る運動が広がり会員企業のレベルは上がってきました。そういう努力もあって各地で金融機関との連携が進んできています。

 当社も創業の頃は中小企業金融公庫のお世話になり、それをベースに地銀からの後押しも始まっていきました。一定の信用を作っていくまでの段階における政府系金融機関の重要性がありますね。

創業の時助けられた!

豊永 公庫の融資を行う前線である融資課の若い職員がこんなことを言っています。「もっと企業の良いところを引き出して、経営革新計画を作り、新しい方面へ打って出る企業のお手伝いをする、そういうのが自分たちの得意分野でありやりがいなんだ」と。中小公庫から数えて創立60年になりますが、10年前に50年誌を作成した時に、数十社の企業の方々に公庫の思い出をコラムに書いていただきました。京セラの稲盛さんや堀場製作所の堀場さんが、「創業時の大変な時に、民間金融機関からの融資が難しいと言われ、その際、公庫から借りることができてとても助かった」といった趣旨のことを書いておられます。ちなみに、ここ20年で見ると、新規に上場するベンチャー企業の中で中小公庫又は日本公庫と付き合いがあったという企業の割合がぐんと増えています。

 もっとも、宿命的な限界もかかえています。創業からだんだん成長され大きくなって、ジャスダックなどに上場するところまで行くと公庫は融資できなくなります。「菊作り、菊見るときは、影の人」ということですね。成長のお手伝いをした菊が品評会に出される時は、そっと陰から見ているというんです。ただ最近は、必ずしも上場がゴールではないという企業が増えていますが。

個人保証は原則禁止を

国吉 中小企業には、個人保証、連帯保証の問題が深刻な問題としてあります。経営者は命懸けで経営するのだから、それは当たり前と考える「文化」のような気風がありましたし、今もそれはあります。しかし諸外国の例を見ると、第三者保証など考えられないことです。そういう点で政府系金融機関が真っ先に第三者保証はやめていただいたことは喜ばしいことです。今民法改正の中の個人保証に関わる部分が審議されています。8割の経営者が個人保証せざるを得ない状況にありますが、生身の人間が保証するというのはいかがなものか。本来ビジネスの世界では借り手も貸し手も対等ということを考えますと原則的にはなくしていくことが望ましいのではないかと同友会では考えています。

豊永 大きな流れとしてはそういう方向で行っていると思います。担保や保証があればより有利な条件でお貸しできるということは正直なところありますが、政府系ですので他の金融機関よりも心して実態や要請に応じて、不要の範囲を広げてきています。

 今利用が増えている、創業段階、再生段階での長期の元本据え置きの貸付である資本性ローンは無担保、無保証です。10年間で元本返済がなくて、無担保・無保証ということですと、相当の引当金を準備しなければならず公庫としては重い負担になるのですが、とはいえ、借主の方の利便の向上が公庫の使命ですから、今後とも頑張りたいと考えております。

国吉 昨年山梨同友会が公庫と連携を始め、秋田が続き茨城でも始まっています。福岡では女性起業家セミナーの共催や懇親会を重ねる中で公庫と親しくなり、例会の講師派遣や共同でのイベント企画などに着手しています。

豊永 私どもは金融機関ですが、いろいろな相談事に預かることを喜びとしています。直接の融資に結びつかなくても、財務分析のお手伝いをしたり、いろいろな企業の事例などを紹介したりしています。ですから同友会が行っているセミナーなどには積極的に参加してお話しするようにしています。また、同友会の会員の方々と公庫の他のお客様とのお互いのコミュニケーションを活発にするために、例えば懇話会の講師を同友会から派遣していただきたいと考えております。

海外展開を積極支援

鋤柄 海外展開をする場合の、金融問題について教えていただけますか。

豊永 昨年の8月から公庫のお客様を海外の金融機関に紹介するという業務を始めました。

 紹介する時に、「日本企業の海外子会社が現地金融機関から現地通貨を借りたいと思ったときに、仮に子会社がデフォルトを起こした時には公庫が代わって全額お支払いします」と海外金融機関のリスクをゼロにする制度です。

 これはバンコクの例ですが、それまで10%から12%だった金利が半分以下に下がった例があります。日本国内で言えば信用保証協会のような保証をしている形になります。他の国でも同様に金利が相当低いものになっています。

 今年10月には、地域の金融機関のお客様のままで、つまり公庫と直接お取り引きがなくても、公庫が保証書を出すということも始めました。地域の金融機関も自分の所の信用力では、海外の金融機関から安い金利での調達はできないが公庫が保証すれば金利は下がる、お客様を維持したまま海外展開を支援できるようになりました。これは結構関心をもっていただいており、まだ具体的な融資案件の実績にはなっていませんが、開始した10月30日に10行と業務を開始しました。現在さらに50以上の金融機関と協議を進めているところです。これにより、一気に拡大した規模で海外での現地調達への支援が可能になります。

 ただ、まだ中国の金融機関とはMOUの締結が出来ていません。交流の進展を目指して、努力しており、年内にも私は中国へ行こうと考えています。さらにその先は中南米を重視していこうと考えています。

 日本公庫の中小企業事業本部の大事な業務は融資だけではありません。他に保証というものがあります。信用保証協会は全国に52ありますが、その保証を再保険するということでフローで9兆円から10兆円位の新規債務保証をしています。ストックでは30兆円ほどの保証残高があります。

 いずれにしましても、中小企業の方々の資金ニーズを的確に対応できる公庫として全力を尽くします。

 日本公庫側でも、今日同友会とこうした懇談があったということを各支店に流して知らせます。

鋤柄 豊永さんにご支援いただいた中小企業憲章推進、各自治体で進行している中小企業振興基本条例、いずれも金融政策の充実、金融機関との連携をうたっています。

 これからも各同友会で日本公庫との連携を強めていきますのでよろしくお願いします。

「中小企業家しんぶん」 2013年 12月 15日号より