【DORの眼】同友会型企業の普及、拡大が情勢を切り拓く 立教大学経済学部教授 菊地 進

 4月の消費増税を控え、経営環境は一層の厳しさを増すことが予想されます。押し寄せる荒波をどのように乗り切るべきか。今回は立教大学の菊地教授から同友会企業への期待を込めた報告を紹介します。〔同友会景況調査報告(DOR)106号(2013年10~12月期)「DORの眼」より転載〕

消費税率引き上げ後に大幅後退の懸念

 2014年の日本経済の動向を見るうえで最も大きな問題は4月からの消費税率の引き上げである。

 安倍内閣は大規模経済対策を実施し、GDPを押し上げることによって、8%への消費税率の引き上げを決めた。大規模な財政投入、異次元金融緩和により、余剰資金が株式市場に入り、株価を上昇させるとともに、貴金属・奢侈品、高額商品などが売れるようになった。

 また、復興需要、耐震需要、駆け込み需要などにより、昨年末の業況感はたしかに上向いた。

 しかし、これも年度内までで、4月以降は大幅な後退が予想される。DOR の回答においては、すでに強い後退見通しが示されている。図1は、業況判断DI(「好転」―「悪化」割合)の実績と見通しを業種別に見たものである。

 4~6月期の見通しでDI値がストーンと落ちている。規模別にみても、全規模で大きく後退する見通しとなっている。

 日本の消費税においては、納税義務は事業者にあり、事業者は自らの責任において年間税額を計算し、申告する。

 そのため、価格決定権は事業者に委ねられ、実際の取引関係の中で価格は決められていく。「消費税転嫁対策特別措置法」が時限立法で導入されたが、消費税を転嫁できる保証はなく、中小企業・事業者にとって強い不安材料となっている。

 経団連は、駆け込み需要の反動は4~6月期のみに止まるであろうと予測しているが、こうした日本の消費税の性質を考えると、それ以降も中小企業へのしわ寄せの連鎖は避けられないであろう。大企業が駆け込み需要の反動から早めに脱しようとすればするほど、それは中小企業、小規模企業へのしわ寄せを伴うことになる。十分な注意が必要であろう。

条例づくりの取組みから見えてきたもの

 アベノミクスの「第3の矢」の実行方針は、国家戦略特区の設置、投資促進税制の導入、戦略市場の創出など主として大企業を念頭に置いたものである。この基盤整備による期待を高めながら、財政投入と金融緩和を続け、今秋には消費税率10%への引き上げを決めようとしているのである。

 ところで、「第3の矢」の実行方針は、最後に「地域ごとの成長戦略の推進と中小企業・小規模事業者の革新」という課題を掲げている。

 その中身は、各地域における「地方産業競争力協議会」の設置 、地域における創業等を促進するための支援、小規模事業者の振興に向けた枠組みの整備である。この課題に向けて、昨年6月には「小規模企業活性化法」を成立させた。

 大企業重視のアベノミクスでもこうした枠組みを設けざるを得ないわけで、これをどう活(い)かすか、この点も2014年の課題である。ただし、棚から何かが落ちてくるというものではない。これを活かせるかどうかは、各地での取り組み次第である。

 「中小企業憲章」の閣議決定以降、全国の市区町村で中小企業の振興に関する条例制定の動きが高まり、2013年12月26日時点で、計114本(87市16区11町)の振興条例が制定されている。都道府県では29道府県である。

 中小企業庁でこのように発表しているが、この調査は中小企業家同友会が行ったものである(DOYU NET)。

 このように、同友会は条例制定の動きをしっかり追っている。そればかりでなく各地での制定に大きな役割を果たしている。地方行政の担当部署からも各地の同友会の理事や会員、事務局は強い信頼を得ている。

 筆者は昨年愛媛県東温市と松山市の調査分析に関わってそのことを強く感じたところである。そればかりか、そうした行政の実施した『市内企業調査』の分析から浮かび上がってきたのは、企業実践の大事さのポイントは、「経営理念に基づく戦略の実行」と「丁寧な社員教育・人材育成」にあるという点であった。図2に見るような同友会で重視している力点がそのまま浮かび上がってきたのである。「良い会社を作ろう」、「良い経営者になろう」の実践の大事さが、会外の調査でも確認されるところとなった。

求められる同友会型企業づくりの社会的運動化!

 では、中小企業振興基本条例制定に際して大事なことは何か。それは、(1)現状を知り(調査)、(2)各層を交えた討議で練り上げ(それぞれの役割の明確化)、(3)制定後も議論を継続する枠組みをつくる(振興会議)ことである。

 ここまでは理論化・教訓化されてきて来たといってよい。問題はその先である。

 中小企業振興基本条例が制定されると、次に必要となるのは、振興会議(円卓会議)を設けて、各層を交え地域の将来ビジョンを練ることである。

 その策定と実現を目指す取り組みと資金・雇用対策など時々の緊急対策を織り成しながら進めていくのが中小企業振興策となる。

 条例自体は行政そして地方議会が定めることになり、中小企業振興策が着実に進んでいくためには、地方行政の枠組みに則ることを軽視してはならない。

 さて、実際に振興会議が立ち上がった時、どのような議論になるか。そこには、大学、経済団体、支援団体、金融機関、NPO、行政など多様な層の代表が参加する。

 その中で、中小企業振興ということになれば、まず第一に問われてくるのが、中小企業家はどう考えるかである。これに答えられなければならない。これに答えられるのは、自社と地域の将来ビジョンを持つ企業家であり、経営者である。まさに、学ぶ経営者である。

 振興基本条例づくりのための地域調査で浮かび上がってきたのは、経営指針を作成し実践することの大事さであり、社員教育・人材育成を重視することの大事さである。

 そうしたことを重視する経営者こそが、自社と地域の将来ビジョンを語りうるし、また地域での議論をリードしなければならない。というのは、こうした点を伸ばす視点抜きの地域中小企業振興策はあり得ないからである。

 ここが、各層が共鳴できる重要なポイントとなる。こうしてみると、地域経済における中小企業振興とは、共に育つ企業、学ぶ企業、同友会型企業が広がりを見せることが重要な柱となってくる。

 2014年はアベノミクスを通じて大企業と中小企業の格差拡大の可能性が高い。何もしなければ、地方の疲弊もさらに進むであろう。それだけに、地域における中小企業振興の取り組みが一層大事になってくる。

 企業家、金融機関、行政、大学、民間一体となった地域振興の協議と取り組みが不可欠になってくる。そして、その際、軸となるのが、同友会型企業の存在と広がりである。

 その意味で、地域における中小企業振興と同友会型企業づくりの普及はメダルの裏と表の関係にあるといえる。会の質的・量的増強が大変大事な年である。

「中小企業家しんぶん」 2014年 2月 25日号より