同友会のおかげでわが社は変わった~GCHの追求で、社員が自ら考え行動する企業に~ 日鐵鋼業(株) 代表取締役 能登 伸一氏(広島)

第7回人を生かす経営全国交流会inとくしま【実践報告】

10月20~21日に、「第7回人を生かす経営全国交流会inとくしま」が徳島市で開催され、43同友会・中同協から327名が参加しました。1日目に行われた実践報告の内容を紹介します。

かつての日鐵鋼業

1990年に同友会に入ったころのわが社は暗い会社でした。チャイムも制服もなく、就業規則もない中、社員は不機嫌そうに仕事をしていました。このようなタイミングで私が専務になり、何とかしなければいけないと主要な社員2名を食事会に誘いました。「この場で出てきた話は絶対に社長には言わない。だからなんでも話してほしい」と言うと、ショックなことをいろいろ言われました。なんでここまで言われなければならないのかと2人に腹が立っていましたが、よく考えると会社にも問題があると思いました。これをきっかけに、朝礼をはじめ工場にはチャイムを鳴らし、制服を支給するなどいろいろと取り組み始めました。私が社長に就任したのは1997年のことです。

日鐵内総幸福

2002年に福山支部の企画委員長になったとき、支部例会は経営指針をテーマに行っているのにその責任者である私の会社には経営指針がないことに後ろめたさを感じ、わが社について真剣に考えました。会社も愛されたい、頼りにしてほしいという思いから今の経営理念ができました。

そして、支部長になった2010年に社内で企業内総幸福(GCH:GrossCompanyHappiness)を自社に置き換えた日鐵内総幸福を宣言しました。この時から会社は少しずつ変わっていきました。日鐵鋼業で働く幸せとは(1)働きがい、(2)一体感、(3)個性が発揮できること、(4)仕事をして自分が成長していると実感できることと考え、日鐵内総幸福を高めるためにいろいろなことに取り組みました。

1つ目が会社の見える化です。経営指針書はわが社にとって会社の見える化の一番のツールです。とにかく会社で起こっていることすべてを社員が分かるようにしています。3年前には会社の将来の見える化として社員一人ひとりと面談し、どんな会社にしたいかをヒアリングして10年ビジョンを作成しました。これの最終的な目的は、会社は自分のものだと社員に思ってもらうことです。

2つ目は聞くコミュニケーションです。年3回の面談を始めました。とにかく聞くことを意識した面談で、不平不満を少しでも緩和するために取り組みました。一番やってよかったのが開発会議です。仲のよい社員が部署を超えて集まる食事会からスタートしたのですが、最初は開発会議には全くならず、私へのダメ出し、会社の将来が分からないと言いたい放題でした。社員からの意見に1つひとつ答え、悪かったと思うことには素直に謝りました。開発会議を続けていると、業務の改善点などのいい提案が出るようになりました。

そして3つ目が社員への還元です。社員の頑張りに報いるということです。決算賞与が大きな還元の1つで、福利厚生面では売上10億円達成で社員旅行、誕生日は記念品を渡してお祝いしています。誕生日プレゼントについては「自分にではなく奥さんに花束を渡してほしい」と社員からリクエストがあり、今はご両親や奥さんに花束を贈ることもしています。また、社員との約束で毎年2日ずつ休日を増やしています。とにかく働きやすい環境をつくり、社員への還元をしっかりすることで誇りが持てる会社づくりに取り組み、日鐵内総幸福の向上を図りました。

すると社員の自主性が高まりました。現在、3S活動、エコアクション21、品質を維持するためのQMS活動に取り組んでいますが、一番ハマったのが3S活動です。工場の中から要らないものをなくすために残材管理をしようと決め、工場長以下みんなが取り組んでくれました。その結果、お客様からの注文に対してピンポイントで一番小さい残材をすぐ取り出すことができるようになりました。会社は必要なものだけになり、部材は最後まで使い切るようになりました。残材管理の成功から社員みんなが自信を持ち、次々といろいろな改善が行われ、社内のDXや脱炭素化も進みました。このように大きな改革を行った結果、日鐵内総幸福の向上をめざした当初と比べ在庫量は2分の1に売上は約2倍になり、利益率は2011年と比べて2・9倍になりました。

新卒採用と障害者雇用

同友会のおかげでできたことが2つあります。1つ目は新卒採用です。鉄工所は3Kと言われ、新卒は絶対入らないと思っていました。2007年にJobwayに参加し、合説に参加すると案の定誰1人としてわが社のブースに座ろうとする学生はいませんでした。やめようかとも思いましたが、委員会に入り、周りからアドバイスをもらってブースの出し方などを工夫し、そのかいあって新卒1名が入社し、この社員は今入社して12年になります。2023年4月には新卒が4名入社します。

2つ目は障害者雇用です。福山支部のバリアフリー委員会が恒例行事にしている特別支援学校の先生の企業見学があり、支部長の時に断り切れずに引き受けました。先生が熱心に見学してくれたことから、職場実習を受け入れました。職場実習に来てくれたHくんがとても頑張ってくれたので、これをきっかけに採用しました。しかし、ちょうど1年で辞めてしまいました。その3年後、Kくんが入社しました。彼も1年経つと不調になり、休むようになりました。私は社員に相談すると「ラジオ体操だけでも、10時の休憩まででもいいから来てもらおう」と言われ、その言葉で私と専務も気合が入り、少しずつでも頑張れるようにサポートを続けたことで今も勤務してくれています。HくんもKくんもすごくいい子で、彼ら2人の素直さが社内の一体感を醸成するのに一役買っているなと感じます。

私にとっての「人を生かす経営」

日鐵内総幸福の中で気づいた私の人を生かす経営は、第1は自らの姿勢を正すことです。その後ろ盾にあるのが社員と役割で、立場は違っても社員と対等だということです。自らの姿勢を正すというのは率先垂範。経営理念に一番忠実であるということです。

社員との約束を守ること、公私混同は絶対に避けることも大事です。社長の行動を社員が見て、自分の行動を見直すきっかけを与えるのが権威であると、ある本にありました。

S=V&HWは2016年の全国総会で報告されたiPS細胞を研究した山中教授の言葉で、サクセスはビジョンとハードワークと言っていました。同友会的に言えば、成功はビジョン、経営指針、ハードワークの一つひとつの取り組みがないと達成できないのだと思います。

かつては会社に行くのが嫌で社員のことは敵だと思っていました。しかし、去年還暦を迎え、社員からサプライズで赤いちゃんちゃんこをもらいました。とてもうれしかったです。同友会は年齢も規模も関係なくお互いに学び合う会だと思っています。これからも同友会で勉強して、実践を重ねていきたいと思います。

会社概要(交流会当時)

設立:1971年
資本金:3,000万円
年商:20億5,000万円
社員数:49名(内パート、アルバイト9名)
事業内容:鉄鋼一次加工、鋼材卸、溶接、機械加工(厚板ガス溶断・レーザー切断・特殊鋼材販売)
HP:https://nittetu.jp/

「中小企業家しんぶん」 2023年 2月 5日号より