教育無償化こそ成長へ寄与~奨学金の返済が重く、返済地獄も

 「子どもの相対的貧困率」が16・3%になったと話題になりました。相対的貧困率とは、貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)に満たない世帯員の割合です。

 国際的には、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国中25位。日本の子どもの6人に1人が貧困世帯で暮らしているそうです。貧困といっても、1日あたりの生活費は1・25ドル未満である「絶対的貧困」に比べ、「相対的貧困」はピンとこないという人は多いかもしれません。しかし、風邪をひいても医者にかかれない、栄養のある食事を十分摂れない子どもがかなりいるのです。

 とはいえ、貧困問題の深刻さは、親が貧困状態にあると子どもが貧困になり、その子どもが大人になると再び貧困状態に陥ることを繰り返す「貧困の連鎖」にあります。この負の連鎖を断ち切るために最も重要な政策は教育なのです。

 ところが、大学・短大への進学率が5割を超え、その半数以上の大学生(昼間部)が奨学金を利用していますが、卒業後の返済負担は想像以上に重いものとなっています。

 背景には学費の増加と親の収入減があります。2015年度の授業料は、私立大学の平均では、86万4400円。国立大学で53万5800円と、30年前と比べると2倍近く上がっています。それなのに、2014年の1世帯当たりの平均所得は541・9万円。1994年の664・2万円から100万円以上も下がっています。奨学金の返済が重く、返済地獄に陥ってしまったり、人生設計を変えざるを得ない若者が増えています(『AERA』2017・4・3)。

 政府も看過できなくなりました。しかしながら、2017年度に部分的に始まる返済不要の給付型奨学金制度の予算額は70億円に過ぎず、2018年度からの本格実施後でも予算規模は約220億円でしかありません。制度の改善に大きな一歩であることは間違いありませんが、1学年につき2万人など対象は極めて狭いのです。

 東京大学の小林雅之教授は、「日本の教育費は、あまりにも私的負担が強かった。それがあたりまえと思われている。そうではなく、社会全体で教育にお金を使う、という合意を作らないと」と述べています。

 高等教育までで義務教育以上の教育費の総額は約5兆円程度と言われています。教育無償化の覚悟が政府そして国民にあるのか、否か。

 高齢化・人口減少の中で経済成長を促進させるために、長期的に重要な視点は教育です。「学力の世界トップレベルの上昇」の成長への寄与は0・6%と、法人税率の10%引き下げなど他の項目よりも寄与が大きいと言われています(森田正之『経済成長政策の定量的効果について』)。

 世界トップレベルではないかもしれませんが、教育無償化は日本の教育に対し、巨大な寄与をもたらします。長期的な視点でその波及効果を見積もれば、5兆円は十分に元が取れる投資ではないでしょうか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2017年 4月 15日号より