「未来は地域にしかない」~約10年後に都市集中か地方分散かの分岐がくる

 待望の書籍が出版されました。枝廣淳子『地元経済を創りなおす―分析・診断・対策』(岩波新書)です。地域経済ビジョンづくりの参考になるのかなと読み始めると、「まえがき」でガツンとやられました。

 2017年9月、京都大学と日立製作所がプレスリリースで、少子高齢化や人口減少、産業構造の変化が進む中で、どのように人々の暮らしや地域の持続可能性を保っていくことができるか、などを考えるためのシナリオ分析に、AI(人工知能)を活用した研究結果を発表しました。

 研究では、AIによるシミュレーションが描き出した2052年までの約2万通りの未来シナリオを分類した結果、「都市集中シナリオ」と「地方分散シナリオ」で傾向が2つに分かれることがわかりました。

 「都市集中シナリオ」は、「人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する」に対し、「地方分散シナリオ」は、「地方への人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感も増大する」というもので、持続可能性という視点からより望ましいとされました。

 問題は、その分岐の時期はいつかという点。解析結果は驚くべき結末となりました。「今から8~10年後に、都市集中シナリオと地方分散シナリオとの分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはない」ことが明らかになったのです。「いずれ、変化は必要だ」と考える人が多いと思いますが、わずか10年足らずのうちに分岐点がやってくるとは。そのまえに、大きく地方分散シナリオに転換しなければならない、地元経済を「いま!」取り戻さなくては、創りなおさなくてはならないのです。

 本書は、地元経済の現状を「見える化」し、地域経済の「漏れ穴」をふさぐ取り組みを多くの人と重ねていくことで、地道に地域経済を創りなおしていこうというものです。

 「最大の漏れ穴」はエネルギー料金です。本書では、事例として徳島県佐那河内村、2500人が支払っている電力、ガス、ガソリン、灯油等の料金、7億円以上のお金が、エネルギー代金として域外(国外)に流出しているのを見ます。「漏れ穴」をふさぐ、まさに、私たちが取り組んでいるエネルギーシフトの課題です。 また、中小企業振興基本条例も濃淡はありますが、中小企業のイニシアチブによる地域活性化計画です。地域を調査したり、振興会議で地域をどう活性化するか、討論をしたりする。これを同友会で論議してみる、地域の商工会議所やNPO、積極的な組織で論議し、挑戦することが重要です。

 本書は、執筆に3年もかけただけあり、具体的でわかりやすい、よく練られた記述です。「未来は地域にしかない」という警句に魂が揺さぶられます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2018年 3月 15日号より