多様な人が輝ける職場を理想に掲げて 障害者雇用で見えてきた、人が生きる経営の本質 (株)ピアライフ 代表取締役 永井茂一氏(滋賀)

【あっこんな会社あったんだ】第2回【障害者問題】

社員でなく社長がダメだと気づく

 28才の時に滋賀へ来て、不動産業に就職。バブルが崩壊し1500万円の債務超過の会社を任され、債権者へのお詫びと再建計画の説明が最初の仕事でした。

 当時は経営とはお金を稼ぐことだと思っていました。社員の採用も金頼みで、給料は売上げ歩合制、営業社員同士が顧客を取り合う有り様でした。正しい目的を持たずにがんばればがんばるほど、会社はおかしなところへ行っていました。

 同友会に誘われて参加しだすと、すぐに役員を頼まれました。会議には資料が要ることから教わり、会社を訪問すると、わが社との違いに驚いて勉強になりました。経営能力は高まっていきましたが、「うちの社員は出来が悪い!」とつくづく思い、恥ずかしくて研修には参加できませんでした。

 そんな頃、障害者雇用をしている経営者の報告を聞きます。その人は「障害のある人の個性や能力に合わせて仕事をつくり、働いてもらっている」と報告されました。私はその時、社員が悪いのではなくて、社員の能力を引き出せない自分が悪いのだと痛感しました。

働くことは恩返し

 「わが社も障害者が働ける会社にしたい」と考えているとタイミング良く、同友会会員の共同作業所から依頼があり、管理物件の掃除や草刈り、来客用のお茶くみ、名刺印刷などをお願いしました。ここから障害者に対するイメージが大きく変わりました。

 3年前、新卒で聴覚障害の女性を採用しました。

 FAXで「私は耳が生まれつき聞こえませんが、面接はしていただけますか」と問い合わせがありました。「わが社では障害の有無で判断しません。面接いたします」と返信すると、就職活動に半ばあきらめ顔の人が多い1月でしたが、彼女はニコニコしてやって来ました。

 そして「私は耳がまったく聞こえませんが、大学を卒業させてもらいました。こんな私が就職できなければ、障害のあるほかの人たちの働く場が広がりません。お世話になった社会の人たちに恩返しをするためにも、私は働かなければいけないのです」と言うのです。彼女は口の動きでこちらの言うことを理解してくれました。

 そして、耳が聞こえないこと以外は、ほかの社員とまったく同じように扱うことを条件にして採用を決めました。いまではお客様に、「私は耳が聞こえませんが、顔を見てゆっくりと話して下さればわかります」というカードを示して、営業をしてくれています。

 彼女を採用して、一番成長したのは直属の上司です。よく「俺の言うことを聞いてなかったのか」としかる人がいますが、聴覚障害だとそれは通用しません。どうすれば相手に理解されるのかと上司は努力し成長しました。

 彼女からの入社条件は、会社で手話教室をすることでした。今でも毎日朝礼で5分間教えてくれています。違いを受け入れる社風づくりにつながり、手話が言語のように使えれば、もっとステキな職場になると思います。

経営者は仕事づくりと人育てが仕事

 中同協の鋤柄前会長から、「経営者の仕事は働く場をつくることと人を育てること。会社は業績の良し悪しに関係なく仕事を作って人を雇用し続けるから成長する」と教わりました。わが社は業績の良し悪しは関係なく、毎年社員を10%増やすことを目標にしています。これからも、働きにくい人が働きやすい会社であること、私も含めてできないことを補い合える会社であり続けたいと思っています。

(第19回障害者問題全国交流会第1分科会報告より一部編集)

(株)ピアライフ 会社概要

設立:1990年
従業員数:30名(内パート6名)
資本金:2,000万円
事業内容:住生活総合サービス業

「中小企業家しんぶん」 2018年 3月 15日号より